航空保安無線施設の電波的性能
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 LLZプログラムの概要


 4方式のLLZの比較

 2周波方式の計算例   LPDA24素子-2周波方式LLZの検討 
 ・ ディレクショナル系の検証
 ・ クリアランス系の検証
 ・ コンポジット特性の検証
  (NEW)
 ILSローカライザマルチパス誤差のモーメント法利用による予測精度の改善
  

 基礎知識のページ

 ローカライザ装置の基礎知識 (11.4章 ILS LLZ)   LLZ地上装置と機上装置の原理   

 アンテナのページ 

 ローカライザアンテナ  LPDA,コーナーリフレクタ



1. LLZプログラムの概要

 ILS施設の周辺にある建物や鉄塔は、ILSローカライザの水平誘導情報やグライドパスの垂直誘導情報に誤差を発生しますが、この誤差は許容値以下でなければなりません。この誤差の大きさを予測計算するプログラムです。
 開発済みのプログラムには、「ローカライザ誤差計算用(LLZ-2006)」があります。
 「グライドパス計算用(GP-2007)」は開発中です。

ソフト名称 LLZ-2006
製作年月 2006年10月
特 徴 国交省で運用中のプログラムと同一の結果が得られる。
計算可能な方式 1周波方式(コーナーリフレクタ、14素子LPDA、24素子LPDA)
2周波方式(24素子LPDA)
複数建物の計算 可能である。
反射・回折波計算式 キルヒホッフ・ホイヘンスの計算式を使用している。
建物の大きさの制約 幅及び高さが数波長以上であること。
反射・回折波計算法 LPDA単体毎に、反射・回折波を数値計算している。
空中線の水平面指向性 LPDA単体毎に計算している。
空中線の垂直面指向性 LPDA単体毎に計算している。
空中線近傍での計算 空中線から約30m以上離れておれば計算できる。
(LPDA単体毎に計算しているため近接計算が可能となる。)
建物面の反射係数 反射係数を-1としている。
地面反射係数 反射係数を-1としている。
計算可能な飛行方式 任意の降下角度での進入、一定高度での進入、円周飛行
オフセット空中線の計算 可能である。
計算出力 コース偏位(μA)、フラッグ(μA)、電界強度(dB)
開発言語 FORTRAN
OS Windows 95,98,2000,XP



2. 4方式のLLZの比較

 現在、日本で用いられているLLZには、搬送波を1波使用する「1周波方式」と2波使用する「2周波方式」とがあります。1周波方式では、コーナーリフレクタアンテナ、14素子LPDA、24素子LPDAのいずれかの空中線を用いています。2周波方式では、24素子LPDA空中線を用いています。
 滑走路に対する障害物とLLZ空中線の位置関係が図1であるとき、4方式のLLZのコース誤差の大きさを 「ローカライザ誤差計算プログラム(LLZ-2006)」により計算しました。
 諸元は、滑走路長(3000m),空中線の位置(滑走路末端から250m),空中線の地上高(2m), コース幅(3.70度),障害物の位置(LLZ側滑走路末端を基準として、障害物の基準点1500.0, 400.0, 0.0),形状(4角形),寸法(幅200m,高さ30m),飛行高度(16.5m,54.13feet)です。





 図1.滑走路に対する障害物とLLZ空中線の位置関係図


下表は、最大誤差を比較したものです。誤差の小さい方式の方が優れています。しかし、装置全体の価格は高くなります。

LLZ方式 最大誤差(μA) 比率(%)
(1)コーナーリフレクタ方式-1周波方式 約76μA 100.0
(2)LPDA 14素子方式-1周波方式 約55μA 72.4
(3)LPDA 24素子方式-1周波方式 約42μA 55.3
(4)LPDA 24素子方式-2周波方式 約17μA 22.4


 図2は、滑走路進入側末端を基準点(0m)としたとき、進入側2000mの地点から、LLZ空中線側に-1500mの地点までを、高度16.5mで飛行したときのDEV計算値です。
 鏡面反射波が到来する650m~250mの区間で、大きな誤差が生じています。



図2. 4方式のLLZの障害物による誤差の比較


 

3. 2周波方式の計算例

ページ内リンク

 ディレクショナル系の検証 (1)クリアランス特性
(2)コース幅特性
(3)進入特性
(4)障害物特性
 クリアランス系の検証 (1)クリアランス特性
(2)コース幅特性
(3)進入特性
(4)障害物特性
 コンポジット特性の検証 (1)クリアランス特性
(2)コース幅特性
(3)進入特性
(4)障害物特性

 

 LPDA24素子-2周波方式LLZの検討

 国交省のコンピュータには,旧式のウエーブガイドを用いた『PT-35,2周波方式』の誤差計算プログラムが準備されていたが,LPDAを用いた2周波方式LLZのプログラムは存在しない。このため本省のプログラムによる計算例を入手できなかった。
従って,今回作成したプログラムの検証は,下表に示す手順に従って行った。

項 目 DIR信号 CL信号 (1)CL特性 (2)コース幅 (3)進入特性 (4) 障害物特性
Ⅰ.DIR系特性 ON OFF 図1 図2 図なし 図3
Ⅱ.CL系特性 OFF ON 図4 図5 図なし 図6
Ⅲ.合成特性 ON ON 図7 図8 図なし 図9

       注. DIR系:Directional系, CL系:Clearance系

 滑走路に対する障害物とLLZ空中線の位置関係は
図Aに示すとおりとする。



   図A 滑走路に対する障害物とLLZ空中線の位置関係



3.1. ディレクショナル系の検証

(1)クリアランス特性

 
図1 に出力データのグラフを示す。
 -5度~+5度の範囲内の偏位(DEV)電流は正常であるが,-35度~-5度,
 および+35度~+5度の範囲内の偏位(DEV)電流は,約±390μAと大きく変化
 している。
  DIR系は,約±5度の範囲内での良好な偏位特性を確保することを目的としてお
 り,この計算結果は妥当である。

     図1 2周波方式LLZのDIR系のみのクリアランス特性

(2)コース幅特性

 
図2は,出力データから方位角-2度~+2度の範囲を取り出してグラフ表示
  したものである。計算間隔は0.1度である。
  コース幅は,±150μAの角度であり,グラフおよび計算値から3.70度となる。
  この計算値3.70度は,LLZの幾何学的配置から設定されるべきコース幅3.70度
  と一致しており,この計算結果は妥当である。



      図2 2周波方式LLZのDIR系のみのコース幅特性

(3)進入特性
  アプローチ飛行,計算開始距離8000.0m,計算終了距離-400.0m,計算間隔40.0m,
 進入角3.0度と入力する。
  計算区間の全ての点において偏位(DEV)電流は0.00μAであり,計算結果は正しい。
 全て0.0μAであるためグラフ表示は省略した。

(4)障害物特性
  障害物の基準点は,(1500.0,400.0,0.0)とし,高さ30.0m,幅200.0mの垂直平板を
 滑走路に平行に置く。
  飛行データは,アプローチ飛行,計算開始距離8000.0m,計算終了距離-400.0m,
 計算間隔40.0m,進入角3.0度と入力する。
  
図3 は計算結果である。進入側末端から400mの地点で最大偏位約13μAを生じ,
 当該地点±200mの範囲内で約10μA以上の大きな偏位が認められる。
  計算結果は,鏡面反射点付近で大きな偏位を発生しており,かつ誤差の広がり範囲も
 妥当である。




        図3 2周波方式LLZのDIR系のみの障害物進入特性



3.2.クリアランス系の検証

(1)クリアランス特性

 障害物無しと入力する。
 飛行データは,オービット飛行,方位角-35.0度~+35.0度,計算間隔0.1度,飛行高度
 3000.0フィート,オービット半径7.5NMと入力する。
 
図4 に出力データのグラフを示す。
 -5度~+5度の範囲内では,偏位電流と角度はほぼ比例する。
 -35度~-5度および+35度~+5度の範囲内では,偏位電流は約±390μAとなる。
 CL系は,約±5度以上の範囲内での良好なクリアランス特性の確保を目的としており,
 この計算結果は妥当である。



         図4 2周波方式LLZのCL系のみのクリアランス特性

(2)コース幅特性
 
図5 は,出力データから方位角-2度~+2度の範囲を取り出してグラフ表示
 したものである。
  コース幅は,±150μAの角度であり,グラフおよび計算値から3.70度となる。
 この値はLLZの幾何学的配置から設定されるべきコース幅3.70度と一致している。



          図5 2周波方式LLZのCL系のみのコース幅特性

(3)進入特性
 障害物無しと入力する。
 飛行データは,アプローチ飛行,計算開始距離8000.0m,計算終了距離-400.0m,
 計算間隔40.0m,進入角3.0度と入力する。
 計算区間の全ての点において偏位(DEV)電流は0.00μAであり,計算結果は正しい。
 全て0.0μAであるためグラフ表示は省略した。

(4)障害物特性
 障害物有りと入力する。
 障害物の基準点は,(1500.0,400.0,0.0)とし,高さ30.0m,幅200.0mの垂直平板を
 滑走路に平行に置く。
 飛行データは,アプローチ飛行,計算開始距離8000.0m,計算終了距離-400.0m,
 計算間隔40.0m,進入角3.0度と入力する。
  
図6 は計算結果であり,400mで最大偏位約330μAを生じ,当該地点±200mの
 範囲で大きな偏位が認められる。この計算結果は,鏡面反射点付近で大きな偏位を
 発生しており妥当である。最大偏位電流が約330μAと極めて大きくなる理由は,
  CL系の放射パターンがブロードで障害物に照射される電界が強いためである。



         図6 2周波方式LLZのCL系のみの障害物進入特性



3.3.コンポジット特性の検証

(1)クリアランス特性

 障害物無しと入力する。
 飛行データは,オービット飛行,方位角-35.0度~+35.0度,計算間隔0.1度,飛行高度
 3000.0フィート,オービット半径7.5NMと入力する。
 
図7 に出力データのグラフを示す。
 -5度~+5度の範囲内では,DIR系信号により,偏位電流は角度とほぼ比例している。
 -35度~-5度および+35度~+5度の範囲内では,CL系信号とDIR系信号が干渉し,
 偏位電流は,約+390μA~約+200μAの間で変化している。
  ICAO標準では,コース幅の方位角から±10度の範囲内では約174.2μA(0.18DDM)
 以上,±10度~±35度の範囲内では150μA(0.155DDM)以上の偏位特性が必要で
 あるが,この条件を満足している。



         図7 2周波方式LLZのコンポジットのクリアランス特性

(2)コース幅特性
 
図8 は,出力データから方位角-2度~+2度の範囲を取り出してグラフ表示したもの
 である。
 コース幅は,±150μAの角度であり,グラフおよび計算値から3.70度となる。
 この値はLLZの幾何学的配置から設定されるべきコース幅3.70度と一致している。



         図8 2周波方式LLZのコンポジットのコース幅特性

(3)進入特性
  障害物無しと入力する。
  飛行データは,アプローチ飛行,計算開始距離8000.0m,計算終了距離-400.0m,
 計算間隔40.0m,進入角3.0度と入力する。
 計算区間の全ての点において偏位(DEV)電流は0.00μAであり,計算結果は正しい。
 全て0.0μAであるためグラフ表示は省略した。

(4)障害物特性
  障害物有りと入力する。障害物の基準点は,(1500.0,400.0,0.0)とし,高さ30.0m,
  幅200.0mの垂直平板を滑走路に平行に置く。
  飛行データは,アプローチ飛行,計算開始距離8000.0m,計算終了距離-400.0m,
  計算間隔40.0m,進入角3.0度と入力する。
  
図9 は出力データであり,図12のDIR系のみの出力データと殆ど同じ偏位のパターンと
  偏位の振幅を生じている。最大偏位約13μAは,DIR信号のみの場合と同じである。
   このように,2周波方式LLZのコンポジットの障害物特性は,DIR系のみの障害物特性
  と殆ど同じくなるという結果は,2周波方式LLZの原理から考えて妥当である。



        図9 2周波方式LLZのコンポジットの障害物進入特性



4.ILSローカライザマルチパス誤差のモーメント法利用による予測精度
の改善
(NEW) 2014. 4 .2

 Improvements of ILS Localizer Multipath Error Estimation Improvements of ILS Localizer
Multipath Error Estimation Using Moment Method

註. この4章に記載した内容は,2014年1月24日に電子情報通信学会SANE研究会において
発表した内容に準じている.ただし,ホームページへの記載に当たり図表には若干の解説を
追加した.また図表A,B,C,Dを追加した.本文にも若干の説明を追加した.追加説明部分は,
背景色または文字をを薄緑色にして明示した.項および図の番号は原典のままとした. 

あらまし 
一般的なローカライザアンテナは24個のLPDA(Log Periodic Dipole Antenna)で構成される.
従来の誤差シミュレーションではLPDAの相互結合を考慮していなかったため合成指向性の
計算値は実際の値から変形し,結果として誤差予測値が小さくなった.今回,LPDAの放射
パターンをモーメント法(MoM)で計算することにより相互結合を考慮した指向性計算を行い,
マルチパス誤差の予測精度の向上をはかった.またこれにより計算できる障害物の形状の
自由度を増し障害物方位を全方位に拡大する検討を行ったので報告する.

Abstract 
 ILS Localizer antenna system is usually consisted of 24 Log periodic dipole antennas(LPDA).
 In the multipath error estimation, mutual coupling effect between LPDAs are usually ignored.
 As a result, computed antenna radiation pattern changed from real value and estimation error
 resulted in small.
 This paper describes the improvement of multipath error estimation using
corrected antenna pattern by Method of Moment. 

キーワード    ILS,ローカライザ,マルチパス誤差,LPDA,相互結合,モーメント法

1.はじめに

ILSローカライザのマルチパス誤差解析に関する研究は古く1985年頃から電子航法研究所
(ENRI)で行われ多数の研究報告がある.研究所で開発された誤差シミュレーションプログラム
はILS新設時や建物建造時に行政機関において使用されている.

  本報告は,LPDAの放射パターンをモーメント法により計算して相互結合を考慮することで
マルチパス誤差の予測精度向上をはかるとともに計算できる障害物の形状の自由度を増し,
また障害物方位を全方位に拡大する検討を行ったものである.


2. 現在のマルチパス誤差計算の改善点

2.1 誤差予測精度の向上

従来の誤差シミュレーションプログラムにおいては,LPDA単体の水平面および垂直面の
放射パターンは製造メーカの実測値に基づく規格値を用いている.14個または24個配列され
ている個々のLPDAは規格値の放射パターンを持つものとして計算しておりLPDAの相互結合
を考慮していない.実際には相互結合によりLPDAの放射パターンが変形するためマルチパス
誤差の予測値も真の値からずれる.カテコリ-ⅡやⅢという高性能ILSの設置にともない誤差
予測にも高い精度が必要となる.

2.2 多様な形状の構造物への対応

従来の誤差計算では反射波をキルヒホッフ・ホイヘンスの原理に基づく物理光学的手法で
計算していたため反射体の形状は一辺が数波長以上の平板に限られていた.現実には送電
線や金網,鉄塔,給水塔などの解析が必要なことも多い.

2.3 計算可能な方位角範囲の拡大

従来のプログラムで計算できる障害物の方位角の範囲は,各LPDAの中心方位角の左右
60度である.これはアンテナの指向特性を左右60度までのデータに基づいて計算しているた
めである.全方位角にある障害物を解析できるようにしたい.

 図Aは2.3項の追加説明図である.



 図Cは2.1項の追加説明図である.

3. 改善方法の検討

既存の誤差計算プログラムを修正する方法,新しくMoMで全体を一括計算する方法の2通り
について,各2種類のLPDAモデルで検討を行った.MoMによる計算には米国Lawrence Liver-
more Laboratoryで開発されたNEC4を利用した.〔2〕

  図Bは3項の追加説明図である.

3.1 マルチパス誤差の概要

 検討に先立って,ローカライザアンテナの基本的な特性と放射パターンについて述べる.

図1は24個のLPDAで構成されたローカライザアンテナの概観を示す.図2に示すキャリア
電界Ecsパターンとサイドバンド電界Essパターンが放射される.0度方向で最大になるパター
ンがEcsである.コース幅の角度によりEssの値は変化する.両パターンとも90Hzと150Hzの
航法信号で変調されている.航空機に装備したILS受信機はこの2種類の信号を処理し,
コース偏位差計(CDI)にローカライザコースからの左右のずれを示す.マルチパス誤差発生
の仕組みは3.3項で述べる.

 


図1 LPDA24個で構成されたLLZアンテナ概観図

 

 

 図2 キャリア電界 Ecsとサイドバンド電界Essパターン

 

3.2 電子航法研究所の評価試験データについて

現用の24素子LPDA型ローカライザ空中線の性能評価試験は運輸省電子航法研究所に
おいて行われ報告書にまとめられている.〔1〕

同報告書の図9にキャリア電界Ecsとサイドバンド電界Essパターンの実測値が掲載されて
いる.この実測データは貴重であり,今回の検討においては図3および図4において標準値
として引用しENRI実測電界値と表示した.


3.3 既存誤差計算プログラムによる検討につい

3.4項以降において具体的な検討方法を述べるが,重複を避けるため計算結果をまとめて
図3
から図6に示した.図3,図4では前方の180度の範囲のみをの計算値を示したが全方位
で計算できる.

図3はキャリア電界Ecsパターンを示す.曲線(1)はENRI実測値であり文献〔1〕の図9から引
用した.±0.5dB位の読み取り誤差がある.曲線(4)は既存プログラムによる計算値であり方位
角の増加に伴い曲線(1)との差が大きくなる.

図4はサイドバンド電界Essパターンを示す.曲線(1)はENRI実測値の引用であり±0.5dB位
の読み取り誤差がある.曲線(4)は既存プログラムによる計算値であり方位角の増加に伴い
曲線(1)との差が大きくなる.コース上での誤差値は図4の左右の方位角におけるEssの大きさ
にほぼ比例する.したがって図4の曲線から,既存プログラムによる誤差計算値がENRI実測値
から計算した誤差計算値よりも小さくなることが予想できる.

コース幅が3.8度のとき図4のEssの値は凡例中に記した値(約-7.3dB)だけ低下する.曲線
が下方に移動するだけであり形は変わらない.

(註) 図4の(1)ENRI実測電界値は-5.7dB,その他の(2)~(6)は約-7.3dBになっており
  差がある.この理由を補足説明する.
  上述の通り曲線(1)は文献〔1〕の図9のグラフから方位角1度ごとの電界値を読み
  取ってプロットしたものである.(1度以下の方位角間隔では読み取れなかった.)
  コース幅が3.8度であるから,正確な計算を行うためには,方位角0度±2度の範囲
  内において0.1度間隔以下での電界値が必要である.
  今回のEss -5.7dBという値は,方位角が1度ごとの粗い読み取り値に基づいて計算
  したときに,コース幅が3.8度になるときのEss電界値を示しており,単なる参考値
  であると考えて頂きたい.
  (1)~(6)の計算に用いたLPDAの構造は同じであり,給電比も同一であることから,
  原理的に見て(1)の値も約-7.3dBになると考えて支障ないと思われる.
  このため図5のマルチパス誤差計算では(1)のEssは-7.3dBとして計算した.

 図5図3および図4の放射パターンから求めたコース幅3.8度のときのオンコース進入時の
マルチパス誤差計算値を示す.ENRI実測値は地上障害物の影響が少ない方位角0度から
-90度のデータを用いた.図5のみ,横軸は反射体の存在する方位角であることに注意された
い.反射体は無指向性反射体とし反射係数0.2とした.

反射波があるときの誤差は(1)式で求められる.

DEV=2m(Esst/Ecst)(150/0.155) 〔μA〕   (1)

ここで,Esstは直接波Essdと反射波Essrの合成値,Ecstは直接波Ecsdと反射波Ecsrの合成値
である.

反射波が無いときオンコース上では Ecsdのみ存在しEsstは零である.反射波があるときは
EcsrとEssrが加算される.しかし通常は方位角が±5度以内ではEcsdがEcsrより大きいため
Ecsrの影響は少なく,誤差の大きさはEssrの影響が大きくなる.上の理由によりオンコース上
での誤差はほぼEssrによって決まると言える.オンコース上での誤差値は反射係数にほぼ
比例することになる. 


図3 キャリア電界EcsパターンのENRI実測値および計算値

 
図4 サイドバンド電界EssパターンのENRI実測値および計算値



図5 無指向性反射体による誤差計算値 (注.反射係数は0.2とした.)

 

 
図6   図3と図4の電界値にもとづく偏位計算値

 

 図6図3図4の電界値に基づく偏位電流計算値を示す.

 

3.4 既存誤差計算プログラムを修正する方法の検討

既存の誤差計算プログラム中のLPDA単体の放射パターンをあらかじめMoMで計算した値に
修正する方法を検討した.LPDAを構成する7本の素子への伝送線路の異なるクロス接続型
同軸接続型の2種類のモデルにつき計算した.なお既存誤差プログラムでは障害物からの
反射・回折電界の計算はキルヒホッフ・ホイヘンスの原理に基づいている.

図5は曲線(4)の既存誤差プログラムによる計算値が曲線(1)の評価試験の実測値に基づく
誤差計算値より小さいことを示している.これは,方位角の増加にともなって図4の既存プログ
ラムによるEssの計算値(4)と ENRI実測値(1)との差が大きくなるためである.この差の原因は
既存誤差プログラムでは24個のLPDAの相互結合による効果を考慮していないことにあると
考え,原理的に相互結合効果を含むMoMを用いてパターン計算を行った.

3.4.1 クロス接続型

図7は概略図であり,7本の素子は同一平面上にあると仮定した.素子を接続する伝送線路
(TL:Transmission line)はクロスしており特性インピーダンスは50オームとした.この伝送線路
からの放射は無いとして計算している.NEC4入力データとして図7のLPDAの詳細な諸元を
入力する必要がある.


図7  クロス接続型の概略図

 

航空機から見て中心線X軸に最も近い右側のLPDAをR-1とし外側に向かってR-12とする.
左側も中心線X軸に最も近いLPDAをL-1とし外側に向かってL-12とする.

図8の単独R-1曲線(1)は自由空間における単体放射パターン計算値を示す.

曲線(2)~(4)はR-1,R-11,R-12の配列中における水平面放射パターン計算値を示す.
配列中では水平面放射パターンは中心方向の電界強度が低下し,左右方向の電界強度は
増加する.中心線X軸に最も近いペアR-1から外側に向かってR-11まで放射パターンは±80
度まではほとんど同じであり差は1dB以内である.R-1パターンの中央部には少し凹みがある.
最も外側のペアR-12は他のパターンと異なり中心に対して非対称である.片隣にアンテナが
無いためである.

 


図8 クロス接続型LPDA単独および配列中の1個の水平面放射パターンの計算値



 図9はR1,R11,R12の垂直面放射パターンを示す.垂直面は水平面に比べ変化は少なく,
誤差計算値に及ぼす影響は少ないと思われる.

 


図9  クロス接続型LPDA単独および配列中の1個の垂直面放射パターンの計算値

 

誤差プログラム内の24個のLPDA単体の放射パターンを図8および図9の配列中のR-1曲線(2)
に置き換えてEcsおよびEssの水平面合成放射パターンを計算した.図3の曲線(5)はEcs,図4
曲線(5)はEssの水平面合成放射パターン計算値である.

図5の曲線(5)は反射係数0.2の無指向性反射体による誤差計算値である.曲線(4)の既存誤差
プログラムによる計算値よりも曲線(1)のENRI実測パターンから計算した誤差計算値に近い値に
なることがわかる.

3.4.2 同軸接続型

図10は概略図であり実際の形状に近い.X軸方向に地面に水平に接近して置かれた上下2段
のアルミパイプに放射素子が左右に取り付けられている.2段のアルミパイプはアンテナ後部に
突き出しておりショートスタブの役割をしている.給電は2本のアルミパイプの前端に行う.特性
インピーダンスの計算値は約40Ωである.アルミパイプは伝送線路の役目と放射素子支持柱
(ブーム)の役目をしている.アルミブームも電波放射を行うとして計算する.NEC4入力データと
して図10のLPDAの詳細な諸元をすべて入力する必要がある.

 

 図10  同軸接続型の概略図

 

図11の単独R-1の曲線(1)は自由空間における水平面単体放射パターンの計算値を示す.
アンテナ後部のショートスタブを移動すると後方の放射パターンの利得が2.5dB位変化する.
このとき前方利得の変化は0.5dB位と少ない.実際の24個のLPDAの検査データを見ると後方
の放射パターンは多様である.LPDA後方に存在する障害物による誤差の予測計算を行うとき
は配慮する必要がある.

曲線(2)~(4)はR-1,R-11,R-12の配列中における水平面放射パターン計算値を示す.
R-1はクロス接続型と比べて中央部の凹みがなく,左右方向の放射が大きくなり方位角が
±90度においても約-18dBiの電界がある.この原因は24個のLPDAの上下2段のアルミ
パイプ(支持ブーム)からの再放射によるものと思われる.  

配列中でのR-1からR-11までの水平面放射パターンはクロス接続型と同じく差が少ない.

図12はR1,R11,R12の垂直面放射パターンを示す.傾向はクロス接続型と同じである.

既存誤差プログラム内の24個のLPDA単体の放射パターンを図11および図12の配列中の
R-1曲線(2)に置き換えEcsおよびEssの水平面合成放射パターンを計算した.図3の曲線(6)は
Ecs,図4の曲線(6)はEssの水平面合成放射パターン計算値を示す.

図5の曲線(6)は反射係数0.2の無指向性反射体による誤差計算値である.曲線(4)の既存
誤差プログラムによる計算値よりも曲線(1)のENRI実測パターンから計算した誤差計算値に
近い値になることがわかる.

曲線(5)のクロス接続型よりも誤差は少し小さい.

 

 図11  同軸接続型LPDAの単独および配列中の1個の水平面放射パターン計算値

 


図12  同軸接続型LPDAの単独および配列中の1個の垂直面放射パターン計算値

 

3.5  MoMによる一括計算方法の検討

  LPDA放射パターンおよび障害物(金属平板)を一括してMoMで計算する方法の検討を行った.
国内ではMoMによるLLZ誤差計算の報告例はない.本検討においても3.4と同様にクロス
接続型と同軸接続型の2種類のLPDAモデルについて電界放射パターンを計算しマルチパス
誤差の検討を行った.

 3.5.1 クロス接続型

 NEC4入力データとして3.4.1項と同様に図7のLPDAの詳細な諸元を入力する.障害物からの
反射波もMoMで計算するため障害物をwire meshによるモデルに変換して形状を入力する.

LPDAの水平面放射パターンおよび垂直面放射パターンを事前に計算する必要は無く,障害物
からの反射電界強度計算と一括してMoMで計算する. 図3の曲線(2)はEcs,図4の曲線(2)は
Essの水平面合成放射パターン計算値である.

図5の曲線(2)は反射係数0.2の無指向性反射体による誤差計算値である.3.4項の既存誤差
計算プログラム修正による計算値である曲線(5)および(6)より大きくなる.3.5.2項で述べるMoM
による同軸接続型の曲線(3)の計算値よりは少し小さい.差は約2μA以内である.

3.5.2  同軸接続型

NEC4入力データとして3.4.2項と同様に図10のLPDAの詳細な諸元を入力する必要がある.
障害物の形状をwire meshによりモデル化して入力する必要がある.LPDAの水平面放射パタ
ーンおよび垂直面放射パターンを事前に計算する必要は無く,障害物からの反射電界強度
計算と一括してMoMで計算する.

図3の曲線(3)はEcs,図4の曲線(3)はEssの水平面合成放射パターン計算値を示す.

図5の曲線(3)は反射係数0.2の無指向性反射体による誤差計算値を示す.4種類の検討の
中で予測値が最も大きい.3.5.1項で述べたクロス接続型の曲線(2)の計算値よりも少し大きい
が差は約2μA以内である.

 

4. 改善方法の評価

4.1 既存誤差計算プログラムを修正する方法(3.4項)の評価

 既存の誤差計算プログラム中のLPDA単体の放射パターンをMoMで求めた値に修正した.
LPDAはクロス接続型と同軸接続型の2種類に対して検討した.どちらのタイプも既存の誤差
計算プログラムより実測電界から求めた誤差値に近い値が得られた.この方法は計算処理
時間が短い特長があり,障害物の大きさが一辺数波長以上の平板のときは有用である.

4.2 MoMによる一括計算方法(3.5項)の評価

 LPDA放射パターンおよび障害物(金属平板)を一括してMoMで計算する方法についても
クロス接続型と同軸接続型の2種類のモデルで検討した.両タイプとも実測値より大きい予測値
となる.

 この方法の利点は,架空線,金網,鉄塔,円筒状金属体,平板と適用範囲が広いことおよび
大きさが0.1波長から10波長程度までの小さい障害物の計算ができることである.

欠点は計算所要時間が長いことである.反射体の大きさが横30m,縦25mのとき汎用パソコン
ではEcs,Essの計算に各約30分要するので1回の誤差計算に約1時間必要となる.

 

謝 辞

元航空保安大学校岩沼研修センター教官酒徳 忍氏にはLPDAの構造および特性について
御教授頂いた.元電子航法研究所横山尚志氏にはローカライザアンテナ後方の障害物による
誤差計算について御助言を頂いた.電子航法研究所白川昌之氏には報告書のまとめ方につ
いて御助言を頂いた.心から感謝いたします.

文   献

〔1〕石橋寅雄,山田公男,横山尚志,中村正明,“LPDA型ローカライザ空中線の性能評価
  について,”電子航法研究所報告,no.48,pp.1-10,1985.1.

   〔2〕Gerald J. Burke,“Numerical Electromagnetic Code – NEC-4 Method of Moments,
     ”Lawrence Livermore National Laboratory,1992.1.

〔3〕藤井直樹,落合進一,川田輝雄, “グライドパスに対する構造物・地形の影響について,
  ”電子航法研究所報告,no.38,pp.1-14,1982.8.

〔4〕中村正明, 石橋寅雄,山田公男,横山尚志,“ILSローカライザーにおける電波障害物の
  推定について,”電子航法研究所報告,no.48,pp.11-26,1985.1.