む し 歯 と 歯 周 病 の 特 効 薬 ??



パーフェクトペリオという機能水(殺菌水)がマスコミに紹介されて話題になっています。何でも、これを用いて毎日10秒間うがいすることにより、口の中の歯周病菌やむし歯菌をほぼ完全に溶菌することができるそうです。


ペリオとは歯周病のことです。ですからパーフェクトペリオとは完全に歯周病を治す、あるいは歯周病菌を完全に殺菌するという意味でしょうか?いずれにしても上手いネーミングです。これだけでなんか効きそうな気がします。


このパーフェクトペリオは塩を電気分解して生成された中性から弱アルカリ性の次亜塩素酸が主成分で、これを用いて歯周病やむし歯の原因菌を殺菌します。そして口の中を中性に保ち清潔にすれば歯周病やむし歯を防ぐことができる、との考えに基づいています。


さらにこのパーフェクトペリオはpHがほぼ中性で成分も人体の白血球と同じであるため、歯や人体への影響が従来の殺菌水や洗口液と比べて少なく、有病者・高齢者・子どもなどほとんどの人に使用可能とのことです。しかも学会では名の通った有名な教授もこのパーフェクトペリオの臨床評論を出すなどして事実上推奨しています。


長い間むし歯や歯周病に悩まされている方にとっては正に朗報です。  




ここまで書くと私もパーフェクトペリオを推奨しているかのように思われてしまいますが、残念ながら推奨できません。




なぜならこれは『歯周病やむし歯の原因は菌なのでそれを完全に殺菌すれば歯周病やむし歯は防げる』という一見理論・理想的ではあるものの、現実的には不可能である考えに基づいているからです。


実際、歯周病やむし歯はコレラのように菌が存在したら発症するというようなものではありませんし、感染を予防したから、また菌の数を減らしたから歯周病やむし歯を防げたなどという確かな臨床データもありません。仮にパーフェクトペリオで完全に殺菌できたとしましょう。ならばうがいは毎日ではなく本来1回でいいはずです。


現にパーフェクトペリオを紹介する業者のHPを見ても完全に殺菌できるとは述べられておらず、『ほぼ完全に溶菌』と予防線の張られた表現がされています。これは裏を返すと完全に殺菌できないこと、そして時間が経てばまた歯周病菌やむし歯菌が増殖してしまうことを意味しています。そのため毎日のうがいを推奨しているものと思われます。


では業者の広告が嘘ではなく『ほぼ完全に溶菌』された場合はどうでしょう。
口の中において唾液1ml中には約1億個、歯垢1g(湿重量)中には約1000億個の歯周病菌やむし歯菌をはじめとする生きている細菌が常在しています。これが仮に99%殺菌できてもそれでもまだ唾液1mlあたり約100万個、歯垢1g(湿重量)あたりには約10億個の細菌が生き残るので、すぐに新たな歯周病菌やむし歯菌がまた増殖してしまうことくらい容易に推察できます。ですから原理的に『ほぼ完全に溶菌』されたとしても、その持続時間は極めて短時間でしかなく、一日にしょっちゅう何度もうがいをしない限り、ずっと無菌状態を維持することは不可能で、歯周病やむし歯を治療しようとして殺菌・消毒をしても、これはあくまでも気休めに過ぎず、意味はないと言っても過言ではありません。


もう一つ気になるのは溶菌という説明です。
溶菌とは細菌の細胞が細胞壁の崩壊を伴って破壊され、死滅する現象で殺菌とほぼ同義語です。パーフェクトペリオの殺菌作用は次亜塩素酸が細菌増殖に必要なタンパクや細胞防御の役割を持つタンパク質の化学構造を破壊することによるとされています。ハイターの消毒原理とほとんど同じです。ですが細胞膜や細胞質の構成成分であるタンパク質の化学構造を変えて破壊させて殺菌させる方法は、細菌ばかりでなく構造も成分も共通している人体の細胞にも作用し殺してしまいます。つまり、このような殺菌法は必ず人体の細胞にも作用するので、人体に無害な殺菌法とは言えません。


こうした様々な不安に答えるかのように、『各種大学研究機関と共同での研究』と述べられていますが、これも極めて一部の大学での単なる研究レベルにしか過ぎず、学術的な調査を依頼者(業者)に都合の良い結果を導き出すいわゆる御用学者の域を抜けてはいません。利害関係の一切ない複数の研究期機関における追試、さらにシステマティックレビューでの検証がされていなければ、科学的な評価がなされているとは到底言えません。


マイナスイオンやプラズマ・クラスターイオンの殺菌・抗ウイルス効果、コエンザイムQ10や血液型占いなど世界ではとても通用しない一見すると科学的な迷信(ニセ科学)や商品はたくさんあります。大学の研究室で検証されたなどといって理論を難しく説明し、その実験結果をあたかも世紀の大発明であるかのように主張されれば、一般の人はそれらを信用して買ってしまい、結果だまされてしまうのです(中にはだまされていることに気がつかずに使い続けている人もいますが...)。よくある『○○で痩せる』とか『○○で健康になれる』、『○○でガンが消える』などはそのほとんど全てがインチキで、それらを信じるのは危険です。



そういえば以前、歯周病の原因はカビで抗カビ剤(アンフォテリシンB)でうがいをすると歯周病が治るとセンセーショナルに報じていたマスコミがあり、それに乗った歯科医も全国にいくらかいました。ですが最近その話もめっきり聞かなくなりました....。テレビや新聞・雑誌などのマスコミの医学情報の大半は信憑性に乏しく胡散臭いと考えるのが正しい考えです。視聴率のためにデータを捏造して打ち切りになった『発掘あるある大辞典』などで分かるようにマスコミの医学情報には科学的信憑性などほとんどないのです。


ましてや私共歯科医は素人ではなく専門家です。その専門家の中には専門家として最低限の科学的な検証すらできず、マスコミから得た情報に左右されているだけで最先端の医療をしていると勘違いしている素人レベルの歯科医も少なからずいます。医薬品どころか医薬部外品の承認すら得られていない単なる機能水をあたかも歯周病やむし歯の特効薬であるかのような効能をうたって(これだけで薬事法にひっかかりそうですが...)高値で売りつけている業者に踊らされているそんな姿を見ると、それについて行っている患者さん達が気の毒でなりません。


当HPにある『自閉症と水銀 TBS報道特集を斬る』、『WHOの推奨するむし歯予防』、『有料予防歯科・唾液検査の疑問』を読んでもらえれば、ここで述べたことについて更に理解が深まるかと思います。





以上のことから私はパーフェクトペリオを推奨はできません。


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(2009.10.31)


追 記 (2010.5.31)

この情報をHPにアップして遅れること約半年。
ようやく日本歯周病学会がパーフェクトペリオについての見解を公表しました。

日本歯周病学会の見解




や さ き 歯 科 
Miyazaki Conference for Promoting Community Health Activity