有料予防歯科・唾液検査の疑問  | 
    
| この頃、歯医者さんで『予防歯科』というような名前の有料(保険の適用されない)処置が流行っているようです。歯医者さんのエンジンで歯の周りの掃除をしたり、殺菌剤をつかって、歯の周りのばい菌を徹底的に除去してしまおうというものです。事前に唾液を採取して口の中のむし歯菌量を調べて、カリエスリスクと称してむし歯になりやすいかどうかを調べたりします。大変、結構なことに見えます。 | 
| 余計なことですが、これらの処置を一回やるとウン千円だそうです。家族でこの処置を受けると一万円を超えることもあるそうです。庶民にはちょっと大きな金額です。それだけの見返りがあるのかと考えさせられます。 | 
| もちろん、そのような予防処置を受けることは良いことでしょう。しかし、経費に見合った効果があるものかどうか、よく見極めてみることも必要かもしれません。余計なお世話でしょうが、参考のために、次のような疑問点を提示しておきます。くりかえしますが、予防処置を否定しようとするものではありません。要は、コストとベネフィット(費用便益)を考えてみることが必要だろうということです。 | 
| この予防処置の根拠 | 
| この予防処置の根拠は、『むし歯は、むし歯菌によって起こる感染症だから、とにかくばい菌を徹底的に除去しよう』というところにあります。 むし歯は感染症だから、ばい菌を除去すれば良いという発想は理解できますが、でも、感染症ならば、どうしてワクチンを使ったり、抗生物質を使ったりしないのだろうという単純な疑問も覚えます。何か、どこか、すっきりしない事情を感じます。 | 
| ある教授との会話 | 
| ある国立大学教授に『むし歯は本当に感染症なんですか』と尋ねましたら、『そうです。感染症です』と断言しました。『ということは、口の中にむし歯菌がいれば、むし歯になるんですね』と尋ねましたら、急に話が曖昧になりました。 | 
| 『むし歯は普通の感染症とは違います』と言うので、『普通の感染症と違うって、どういうことなんですか?」と聞き返すと、『コレラのような感染症ではありません』、『むし歯菌がいてもむし歯になるとはかぎりません』ということでした。 | 
| 『それでは、むし歯を感染症というのはおかしいんじゃないですか?』、『感染症だ、感染症だと強調したら、普通の人はコレラなどと同じ感染症と誤解します』、『感染症ではなくて、別な言葉を用いるべきじゃないでしょうか?』と追加質問したら、教授は沈黙してしまいました。 | 
| むし歯は感染症?? | 
| その教授は、バカを相手にしても仕方ないと思ったのかもしれません。しかし、高校の生物学で習ったことを想い出してみました。感染症ならば、通常『コッホの三原則』という原則を満たすはずです。忘れてしまった人も多いでしょうが、コッホという細菌学者が、そのばい菌が感染症を起こすかどうかを決めるには三つの原則が必要だと述べたものです。むし歯について考えるにあたって、話が小難しくなりますので二つの原則は省略します。残りの一つは『そのばい菌を健康な動物に接種すれば、その病気を起こすことができる』というものです。 | 
| むし歯は、その三つ目の原則に当てはまりません。教授が言うように、むし歯菌を動物に接種しても、むし歯が起こることもあり、起こらないこともあります。むし歯菌は普通の人の口の中に、いつもいる菌ですが、むし歯菌がいても、むし歯になる人もならない人もいます。 | 
| このように誰にでも見られるばい菌を『常在菌』と言います。むし歯菌は、ヒトの常在菌なのです。口の中には常在菌がいっぱいいます。口の中の除菌をやったところで、すぐにばい菌が入ってきます。除菌なんてのは一時的な気休めに過ぎないということです。 | 
| むし歯がいて、むし歯になる人もいたり、ならなかったりするのには砂糖の取り方が大きく関わっているようです。さらに、フッ素を利用している人たちは、むし歯菌がいても、ほとんどむし歯が起こりません。つまり、むし歯になるためには、むし歯菌が感染することだけではなくて、他にもっと重要な条件があるということのようです。 | 
| 要するに、むし歯は感染症の原則を満たしていませんから、普通の感染症ではないということになります。したがって、普通の感染症論に基づいた予防処置は根拠がないということになります。上記の『むし歯予防処置』の根拠も崩れます。根拠が怪しいのですから、やっていること、やった結果も怪しいということになります。 | 
| これはちょっと言葉が過ぎました。上記予防処置は、いわば『歯医者さんがやる歯磨き』という意味のようです。歯磨きは、やらないよりも、やったほうが良いことは確かです。しかしながら、ちなみに、WHO(世界保健機構)は、むし歯予防法としては、歯磨きよりもフッ化物の利用を強く推奨しています。 | 
| むし歯活動性試験(唾液検査)の価値 | 
| むし歯になりやすいかどうかを調べる検査を『むし歯活動性試験』と言います。上記の予防処置では、あなたの口の中のばい菌量を調べたり、唾液が酸を中和する能力があるかどうかを調べたりします。 | 
| 今日のあなたの歯の表面にむし歯菌がいたからといって、明日にむし歯が出来るかどうかわかりません。むし歯菌が多い人はむし歯になりやすい証拠があると言う人がいます。しかし、むし歯菌が多いか少ないかは、歯が汚れているかどうか見ればわかることです。難しい検査なんかをしなくたって、ちょっと口の中を見ればわかります。 | 
| 唾液の能力なんてものは、いろんな要因の影響をうけて容易に変化します。唾液の状態は不変ではありませんから、今日の唾液と明日の唾液では能力も異なり、検査の結果も違ってきます。 | 
| むし歯活動性試験というものは、ある日、ある時に、試験をやっても、あまり意味がありません。歯の汚れ具合や唾液の性状は、その人の生活の中でいろいろと変化していますから、何回も繰り返して、結果と経過を比較して、何とか、むし歯になりやすいかどうか判断する一つの資料になるという程度の大した意味のないものです。 | 
| それよりも自閉症児の場合はその生活の困難さが故に、どうしても口の中の適切なケアがしにくいことが多く、検査などしなくても、それだけでカリエスリスク(むし歯になるリスク)は高いといっても過言ではありません。こうした自閉症児のむし歯を防ぐにはどうしたらいいかは別項『むし歯予防のワンポイントアドバイス』で述べてますのでご参照下さい。 | 
| 口の中に一回でもコレラ菌が検出されたら、コレラになる確率は非常に高いことでしょう。しかし、むし歯菌が口の中に一時的にたくさんいたって、コレラと同じように、病気(むし歯)になる確率が高いなんて言えません。 | 
| むし歯が他の病気とちょっと異なるのは、硬い歯の表面の病気だということです。現在、そこにいるむし歯菌が歯に穴をあけるまでに長い時間が必要です。お腹にコレラ菌が入ったら、明日にコレラになる確率が高いでしょうが、むし歯菌についてはそんなことは言えません。ここが普通の感染症とむし歯との大きな違いです。コレラと同じ『感染症』という紛らわしい言葉を使うことが大きな誤解を招いています。 | 
| ついでに、むし歯は感染症だから、母子感染が起こる、お母さんと同じ食器を使ってはいけないなんてバカなことを言う人もいるようです。こんないい加減な『感染症』よりも母子のスキンシップのほうがずっと大切なことです。 | 
| 陰に御用学者と業者がいる? | 
| キシリトールと同じで、裏に業者と特定の学者の陰が見えます。業者がかかわることは正当な営業行為で悪いことではありません。産学協同の時代に御用学者がいることも悪いことではありません。しかし、過大、誇大な表現が一般人に過大な期待を抱かせることが気になります。 | 
| こういうものが商品化されたときに、高価な代金とそれに見合う効果とが曖昧に宣伝されることが問題です。ここに、業者と御用学者の良心と社会的責任が問われることになります。 | 
| キシリトールの場合は一般の人たちが業者の誇大広告に過大な期待をもってしまいました。この予防処置の場合は、歯医者さんたちが業者の言葉に惑わされて過大な期待を持っているように見えます。 | 
| 何回もむし歯活動性試験をやって、何回もむし歯菌を除去すれば、むし歯になりにくいことは確かでしょう。しかし、気まぐれに検査をやって、気まぐれに除菌をやったところで、どれだけの効果が期待できるのか疑問です。 | 
| この予防処置を受ける人は、その辺の費用と効果の兼ね合いをよく考えてから処置を受けることをお勧めします。何度もくりかえしますが、その予防処置自体は悪いことではなく、とても良いことです。問題は、時間的、経済的なコストと、そこで得られるベネフィット(利益)の問題です。 | 
| ほかに良い予防法がある | 
|   むし歯が出来るのには、むし歯菌と砂糖が大きな役割を果たしていますが、現実の問題として、常在菌であるむし歯菌を取り除くこと、砂糖を食べないということは容易なことではありません。 | 
    
| そこで、WHO(世界保健機構)をはじめとした権威ある世界の歯科保健機関は、こぞってフッ化物の利用を推奨しています。最も簡単で最も有効なむし歯予防法だからです。ほとんどの国は、感染論にもとづいた予防処置なんか推奨していません。 | 
| 上記の予防歯科処置でもフッ化スズを使うそうです。フッ化スズはその効果が曖昧なこと、味が悪いことなどから、あまり使われなくなっているフッ化物です。歯肉炎を抑える働きは多少期待できても、そんな特殊なフッ化物を使う必要はありません。フッ化物配合歯磨剤、フッ化物洗口、水道水フッ素濃度適正化など、もっと簡単で安価な方法があります。 | 
| 『流行の予防処置』は、時間とお金にゆとりある人たちにはお勧めでしょうが、そうではない人たちにはお勧めではありません。普通の人は、もっと簡単で安価な予防法を考えたほうがましでしょう。こういうことを言うと歯医者さんに嫌われますが・・・・ | 
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