むし歯予防のワンポイントアドバイス

 
 歯科治療は、痛みを伴ったりドリルの音が耐えがたかったりと、また、口の中という敏感な部分の治療であるために、普通の人でもかなりつらいときがあります。自閉症児・者などの場合は、これらの感覚的な嫌悪刺激がさらに大きく感じられたり、つらい治療に耐えることが難しかったりする場合も多くあり、治療に困難も来します。だからこそ悪くなってからの治療というよりも、悪くならないようにするための予防が重要です。

 さらに残念ながら、むし歯は治療した歯の方がなりやすい傾向にあり、つまり一旦むし歯になると生涯にわたって悩まされることになります。このことから自閉症児・者にとっては特に『治療よりも予防が大切』という理由がここにあります。

 しかしむし歯の予防は難しくはありません。ここではそのコツをお話ししたいと思います。

 

1.むし歯予防のキーポイントは『フッ素の有効活用』である
 
1) 歯磨き(ブラッシング)のみによるむし歯予防の限界

 私が考えるには歯磨き(ブラッシング)は歯周病(歯槽膿漏)の予防においては効果があるものの、むし歯予防においては歯磨きのみではかなり限界がある(特に自閉症の場合)と思います。

 実際日本ではむし歯予防には歯磨きそのものが最も重要であるという考えが歯学部学生時代(私の場合)徹底的にたたき込まれ、今もなお歯科医師達の間でも深く浸透しております。しかもこの考えは半世紀以上も前から言われており、にもかかわらず我が国における(1人あたりの)むし歯の数は数年前と比べるとわずかながら減少傾向にありますが、諸外国と比べるといまだに2〜3倍近いむし歯の数です。これではやはり歯磨き(ブラッシング)によるむし歯予防には限界があると言わざるを得ません。


 そこで以前、この諸外国と日本のむし歯予防法で何が1番違うのか、それを調べてみました。そしてその絶対的な違いがフッ素(正しくはフッ素の化合物ですがここでは以下『フッ素』と表します)を用いているか否かでした。現に欧米諸国では水道水のフッ素濃度適正化やフッ素洗口、食塩のフッ素化などの導入でむし歯予防に大きな成果を上げています。そして、1.上水道の塩素処理による消毒 2.牛乳の低温殺菌処理 3.ワクチンの開発 4.水道水のフッ素濃度適正化 の4つが近代における4大公衆衛生施策と言われており、中でも水道水のフッ素濃度適正化は20世紀における公衆衛生上、最大の偉業として海外では賛えられています。また現実にこの水道水のフッ素濃度適正化が実施されている地域ではむし歯が少ないのです。

 『フィンランドのむし歯は日本の1/3それはキシリデント』などというキシリトールの宣伝がありました。あれはあたかもキシリトールでむし歯が減少したかのような表現ですが実際は国を挙げてフッ化物を積極的に取り入れた結果に他ならないのです。このキシリトールの真実については別項『キシリトールについて』をご参照下さい。

 今やフッ素、特に水道水のフッ素濃度適正化こそがむし歯予防に最も効果があるとされるのが世界の常識です。しかしながら我が国ではそれがされておらず世界から大きな遅れをとっております。そんな日本でフッ素を用いるとすればまずフッ素洗口、フッ素配合歯磨剤の使用が有効です。しかし、フッ素塗布は濃度が高く小さい子どもには急性中毒の危険があるのであまりお薦めできません。(このフッ素塗布の急性中毒に関しましてはこちらのページhttp://www.geocities.co.jp/Beautycare/7474/No.2-Shika-Komoku-Home.htm 『フッ素ゲル応用を問う』 を参照して下さい。)


 我が国のむし歯の数は数年前と比べるとわずかながら減少傾向にあると述べましたがこれにはフッ素配合歯磨剤普及の影響が大きいです。このフッ素配合歯磨剤の市場占有率は1990年には約15%でしたが、現在では86%以上とかなりの割合を占めるまでになっています。また歯磨き(ブラッシング)によるむし歯予防には限界があると言わざるを得ないとも述べましたが、これはあくまでもフッ素配合歯磨剤を使わない場合とご理解下さい。つまりフッ素配合の歯磨き粉を使わない歯磨きや、歯磨き粉を使わない歯磨き(いわゆるカラ磨き)ではむし歯予防効果はほとんどないということです。実際1970年代頃からこうした歯磨きによるむし歯予防の実験が世界中多くの研究者の間で様々な年齢グループを対象に繰り返し行われましたが、そのほとんどでむし歯は予防できなかったのです。しかしそれらのいくつかの研究ではむし歯が減少しましたが、それはいずれもフッ素配合歯磨剤が使用されていました。


 FDI(国際歯科連盟)が1984年に発表したむし歯予防の順位づけによると、第1位が水道水のフッ素濃度適正化、第2位が食塩のフッ素化、学校水道水のフッ素濃度適正化とフッ素の錠剤、フッ素ドロップ、第3位がフッ素洗口、第4位がフッ素配合歯磨剤で1位から4位は全てフッ素の利用でした。そして以下、歯の健康教育、むし歯を作りにくい代用糖、歯の溝を塞ぐシーラント(予防充填)の順でした。さらにFDI は 『むし歯予防に関して歯磨きや他の歯口清掃は効果的であるかもしれないが、その程度は明らかにされておらず効能を強調しすぎてはいけない』 との警告も発しています。

 厚生労働省もフッ素の効果は認めています。しかしなぜ日本でフッ素が広まらないのかそれを象徴する発言が過去にありました。1996年の4月に東京で開かれた日本歯周病学会の席上、アメリカの大学教授によるフッ素の予防の講演の後、質問を受けた(当時)厚生省歯科衛生課長のI氏は『現在7万人の歯科医師の生活を考えるとフッ素の予防は推進できかねる』と答えました。これはとんでもない発言で正に『業界の利益の前に国民の健康は重要でない』ととれるもので薬害エイズの時と本質的には何も変わりありません。

 『むし歯予防で重要なのはプラークコントロールと甘味制限である』という日本の一般的な知識と常識は全く世界には通用しません。日本を除く世界の専門家は『フッ素の上手な使い方がむし歯予防に大きく貢献した』と考えているのです。海外でフッ素、特に水道水フッ素濃度適正化は貧困層や障害児・者達のむし歯予防においても平等で大きな役割を果たしています。日本でも早くこうなることを期待したいものです。

 

 

むし歯はこうすれば防げる

1) フッ素によるむし歯予防の方法

 現在世界的に最も確かなむし歯予防法として認められているのがフッ素の応用法です。従来『むし歯は自然に治らない』と思われていました。しかし、むし歯によって歯が溶けると、一方そこで溶けたカルシウムとリン酸が再び沈着する『再石灰化』という現象が起こり、むし歯のなり始めにおいてはこの再石灰化によりむし歯は治る(修復する)ことが近年確かめられています。またこの再石灰化という現象は1ppm(百万分の1の割合)位の微量のフッ素があると最も効果的に行われます。

 そこで歯の表面に微量のフッ素を常時停滞させておくことがフッ素によるむし歯予防の基本となります。しかしフッ素によるむし歯予防というとフッ素塗布だと思っている人も多いようですが、フッ素塗布は高濃度(約9000〜12300ppm)のフッ素を使用するため小さな子供や障害児などが誤って飲み込めば急性中毒(嘔吐、下痢など)を起こす危険性も考えられます。その他歯科医あるいは歯科衛生士など専門家の手助けも必要で、費用が高くなり、また頻回に使用しないと効果に難があります。

 このように効果、安全性などの面からフッ素塗布はむし歯の公衆衛生的な予防法としては問題があり、フッ素塗布よりも水道水のフッ素濃度適正化(水道水のフッ素濃度適正化が最も優れた方法ですが日本では実施されていません)やフッ素洗口の方が専門家の間ではフッ素の応用法として優れた方法であると評価されています。

 フッ素洗口というのは普通毎日1回フッ素液でブクブクとうがいをする方法です。フッ素液の濃度は100〜500ppm位のものが多く使われています。濃度の低いものでは毎日、高いものでは数日おきに1回うがいをするようになっています。しかしできれば濃度の低いもので毎日やる方(低濃度多数回応用:Low Dosage & Frequent Use)が理にかなった効果的な方法であると言えます
 


2) ブクブクうがいができるようになったらフッ素でうがいを

 理屈から言えばフッ素によるむし歯予防は歯が生えてきたらできるだけ早い時期に始めるのが良いことです。しかし普通の子供でも3歳位にならないと上手に『うがい』ができないので小さいうちはまだフッ素洗口ができません。そこでそれまでの間、歯が生えてきたらフッ素洗口液を歯ブラシに付け(歯ブラシを十分湿らす程度)全ての歯にフッ素が行き渡るように親が歯磨きをしてあげるのも一つの方法フッ素洗口液歯ブラシ応用法です。この時口の中に残るフッ素の量はフッ素洗口時のそれよりも少ない量なのでこの程度なら飲み込んでも問題ありません。そして水でうがいができるようになったらフッ素洗口を始める時期です。この頃から始めて中学生位まで続けることができれば最も大きな効果が期待できます。特に小学生から中学生の間は乳歯から永久歯に替わる時であり、一生のうちで最もむし歯ができやすい時期だからです。また歯磨き粉を使えるようになったらフッ素が配合された歯磨き粉を使って下さい。そして歯磨き粉をはき出すブクブクうがいは口の中にフッ素が残るようにするため軽めに2、3回程度(歯磨き粉の味が口の中に軽く残る程度)にします。その後フッ素洗口をするとさらに効果的です。

 なおフッ素洗口液の入手方法につきましては『FAQ、Q.4』をご参照下さい。
 


フッ素洗口液 (商品名:ミラノール)
フッ素濃度:250ppm 
写真左:専用容器  写真右:粉末
粉末を専用容器に水で溶かす。保存は冷蔵庫で。


ブクブクうがいができる子どもの場合

夜寝る前この専用容器キャップ一杯分の洗口液を口に含み、約30秒間ブクブクし、吐き出させる。後は寝るまでこの後の飲食はさせないようにします。


ブクブクうがいが上手にできない子どもの場合

フッ素洗口液を一度、歯ブラシに充分湿らせ、湿らせたらそのまま子どもを仰向けにして大人が仕上げ磨きをします。(フッ素洗口液歯ブラシ応用法

このとき口の中に残るフッ素の量は、うがいをしたときに残るフッ素の量とほぼ同等なので、やはり後は寝るまでこの後の飲食はさせないようにします。

これでブクブクうがいができなくてもフッ素洗口と同等のむし歯予防効果が期待できます。なおこの手法は発達の遅れ気味の子どもにもフッ素のむし歯予防効果を抜群に発揮することができるので、強くおすすめ致します。



症例: 5歳、重度自閉症
写真: 下の歯 (保護者提供)

最初の歯が生え始めた頃から
フッ素洗口液歯ブラシ応用法を毎晩行い、現在も継続中。写真は普段の生活の中でようやく撮れた貴重な1枚。焦点はぼけていますが、むし歯が全くないのは確認できます。下の前歯は永久歯。写真はありませんが上も同様にむし歯は全くありません。



以上のことをふまえた上で以下のことにも気を付けて下さい。



歯磨きのポイント

1) 歯磨きは一日に一回は大人がする

 
子供まかせの歯磨きでは必ずむし歯になります。ですから(普通の子供の場合でも)少なくとも小学校低学年位の間までは親が仕上げ磨きをしてあげるようにして下さい。

 
2) 寝る前には歯磨きをする
 主に寝ている間にむし歯が作られます。ですから寝る前には甘い物を食べさせたり飲ませたりしないよう気を付けてください(スポーツドリンクは砂糖を含むので不可)。もし与えた場合はもう一度歯磨きをしてあげて下さい。

 また甘い飲み物や食べ物は、規律正しく与えできるだけ量を少なくし、食べる時間は短くします。そして甘いものをとった後は水でよくうがいを(できれば歯磨き)するようにしましょう。要するに、甘い物を洗い流すことです。むし歯予防は、子供の生活習慣をできるだけ規律ある規則正しいものにすることが基本ということになります。


4 その他のむし歯予防


1)シーラント(予防充填)

 シーラント処置とはむし歯になる前、または初期のむし歯において歯を削らずに、むし歯になりやすい奥歯の溝の部分を樹脂で埋める(診療室で行う)予防的処置です。
 
 右の写真は下の歯の鏡面像です。左右の奥歯2本の歯の溝に白い物が見えると思います。これがシーラントです。むし歯になる前、または初期のむし歯であればこのように溝を塞ぐことで予防的処置を行います。
 



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