話し方クラブ
スピーチ例
これから参考として「スピーチ例」をいくつか紹介します。大阪の教室で実際に語られたものです。構成や内容に優れた作品です。後欄でこのスピーチが何故すぐれているかについて指摘しています。

 スピーチ実例(2分)         「挨拶の本当の大切さ」          作、いとはんA子


会社の中でよくすれ違う“おじさん”がいます。おじさんと言えば失礼ですが、年齢は70歳代位の方です。お互い顔は分るのですが、名前がわかりません。
名前は分りませんが、それでもすれ違う度に挨拶はしていました。
「おはようございます」「お疲れさまです」


それが、先日すれ違った際に私が偶然にも笑顔で挨拶をしたのです。(多分何か嬉しいことでもあったのでしょう)その瞬間、おじさんの顔がぱっと明るくなるのが分りました。真っ暗な部屋の電気がぱっとついたように一瞬で明るくなりました。そのおじさんの顔を見て、何故でしょうか、私は少し嬉しくなりました。


それから更に2,3日して、またおじさんとすれ違いました。その時です。おじさんは、「よっ」と片手を挙げて挨拶してくれました。今までこんなことは初めてでした。おじさんのその挨拶で、今度は本当に嬉しくなりました。心が軽やかになり、肩にずっしり溜まっていた疲れが一気に吹っ飛びました。

名前も知らない者同士でもこうやって挨拶できたことが嬉しかったのです。
私は長年サービス業で働いています。「挨拶」が大切であることは分っているつもりでした。ですが、本当に大切なのは挨拶に添えられる笑顔やちょっとした心配りだったのです。
今更ながらではありますが、この経験はとてもよい勉強になりました。

(評)
ここに紹介されているのは大事件ではない。「あいさつ」という日常のささやかな一場面である。しかしそこに注目してみた。主人公が何かのきっかけで、挨拶に「笑顔」を添えてみた。相手はおじさんだ。若い女性から単なる挨拶だけでなく「笑顔つきの挨拶」を送られてうれしくなったことは容易に想像できる。

次に出合った時に、今度はおじさんの方から「よっ」と手を上げて挨拶してくれた。そのことでこんどは自分の疲れまで飛ぶ爽やかさを主人公は得る。平凡な日常の中の大きなドラマである。

スピーチの素材というのは新聞のスクラップから、という固定観念でなく、案外自分の身の周りを注意深く見てみるといくつか発見される。その好例である。あいさつが儀礼的に終ってはいないか、と自分に問いかける意味もある佳作スピーチ。

スピーチというのは、ただ語るだけではない。そのことによって相手(聞く人)に行動を起こさせるのが目的である。上記のスピーチをきいて「そうだな、挨拶はカタチだけではいけないな、」との思考行動につながればスピーチの目的が達成される。
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