1.平成10・11年度の歯科器材調査研究委員会への会長諮問事項、『内分泌撹乱作用が疑われる、ビスフェノールAを主とする化学物質と歯科材料との関わりについて』に関して、2年間にわたる調査研究により報告書をまとめ平成12年3月に西村会長へ提出した。同時に、この報告書に基づいて、歯科臨床において最も関心のあると思われる20項目にわたる設問Qを選択し、簡潔な回答Aを作成した。 |
2.以上のような経緯を勘案する時、それぞれのQ&Aについてより詳細に理解する上から、それらの背景についても十分に把握する必要性はきわめて高いと思われる。したがって、読者はQ&Aの原本ともなった報告書を併せて確認されることを強く推奨する。 |
3.報告書ならびにQ&Aの基となった調査研究は、平成12年3月までの資料による。 |
Q1:どのような経過でビスフェノールA(BPA)が歯科界で問題になったのですか。 |
A1:内分泌撹乱物質(環境ホルモン)が社会問題になっている時に、環境ホルモンとされるBPAが、シーラント材やコンポジットレジンから口腔内に溶け出すことが指摘されたためです。 |
Q2:歯科用レジン材料にBPAが使われているのですか。 |
A2:モノマーを作る時の原料となっています。直接的には使われていません。 |
Q3:シーラント材やコンポジットレジンの基本的な組成とBPAはどのような関わりがありますか。 |
A3:シーラント材やコンポジットレジンにBis−GMAモノマーが使用されています。このモノマーを合成するのにBPAを使いますが、反応しなかったごく微量のBPAがBis−GMAに混じり込んできてしまいます。 |
Q4:歯科材料の中にBPAが含まれているとしたら、どの程度含まれているのですか。 |
A4:製品により差かあります。材料1g当たり、コンポジットレジンで1〜5μgシーラント材でl〜15μgとされています。これらの製品はBis−GMAのみで作られるわけではありません。ほかのモノマーや無機質フィラーなども混ぜて作りますので、製品中のBPAの量はごく微量なのです。 |
Q5:治療後にBPAが唾液中に溶け出してくることはありませんか。 |
A5:ごく微量ですが、溶け出してきます。最も多く出たとしてもそれは全く心配のないほどの微量です。 |
Q6:シーラント材やコンポジットレジンが口腔内で化学的に分解して、BPAになることはありませんか。 |
A6:Bis−GMAやそれが硬化したレジンが分解して、BPAになることはありません。 |
Q7:シーラント材やコンポジットレジンがすり減ったものを飲み込んで大丈夫ですか。 |
A7:硬化したレジンは、ごくわずかずつ磨耗します。しかし、それを飲み込んでも胃酸や消化酵素によりBPAに分解されることはなく、そのまま排泄されますので大丈夫です。 |
Q8:ほ乳びんや食器などで問題となったポリカーボネートレジンが、歯科でも使われていると聞きましたが。 |
A8:−部のレジン製の矯正用ブラケット、暫間クラウンや義歯床などに使われています。 |
Q9:それらの歯科用ポリカーボネート製品からBPAは溶け出してきますか。 |
Q10:もしごく微量のBPAが生体に入ると、どのようなことになるのですか。 |
A10:歯科材料から溶出するようなきわめて微量のBPAが、生体に何らかの影響を及ぼすというようなデータは、今のところ動物実験では出されていません。 |
Q11:ごく微量のBPAの生体への影響は、動物実験では出されていないそうですが、それに代わるようなデータはありませんか。 |
A11:細胞を使った実験データがあります。それをヒトに換算しますと、体重1kg当たり0.2μg以下であれば、生体に異常を引き起こすようなことは全くないということになります。歯科材料からBPAが出たとしても、0.2μg以下の全く影響のない超微量です。 |
Q12:BPAの溶出がごく微量でも、それが体内に蓄積することはありませんか。 |
A12:BPAはあまり蓄積することはありません。排泄されやすいことが動物実験で示されています。 |
Q13:BPAが生体に及ぼす影響について、そのほか分かっていることはありませんか。 |
A13:動物実験によりますと、BPAがホルモン様作用を示すのは、胎仔、新生仔の段階とされています。したがって、もしヒトで注意しなければならないとすると、妊婦、新生児ということになります。そのほかのヒトは影響を受けないと考えてよいでしよう。 |
Q14:歯科治療以外のルートでBPAが生体に取り込まれることはありませんか。 |
A14:大いにあります。ポリカーボネート食器類、缶詰のコーティング材などからBPAが溶出し、社会問題になりました。そのほか、食べ物、水もBPA汚染が進んでいます。これらのルートから体内に入るBPAの量は、歯科治療のルートで取り込まれる量に比べ,ずっと多いと推定されます。普通のヒトで、体重1kg当たり1〜2μgのBPAが体内にあるというデータが最近になって報告されています。 |
Q15:現在のシーラント材やコンポジットレジンを使い続けても大丈夫でしようか。 |
A15:BPAのホルモン様作用ということで問題になることはありません。通常の歯科治療をして溶け出してくると考えられるBPAの量は、細胞への影響が全くないとされる量と比較しても、それを下回る超微量です。 |
Q16:ポリカーポネートレジンはどうなのでしようか。 |
A16:ポリカーボネート義歯床では、使用されるレジン量が多いため、BPAの溶出量もやや多くなります。しかし、それは問題になるような量ではありません。なお、矯正用ブラケットおよび暫間クラウンにおいては、その使用量がさらに少なく、したがって問題になる量ではありません。 |
Q17:シーラント材やコンポジットレジンに使われているBis−GMAは問題ありませんか。 |
A17:Bis-GMAにホルモン様作用は認められていません。また、現在使用されているシーラント材やコンポジットレジンについても、ホルモン様作用は報告されていません。動物実験でBis-GMAの影響が現れたとする報告もありますが、歯科治療では考えられないほどの多量を用いて得られた結果です。 |
A18:Bis-GMAの代わりに、ウレタン系モノマーを使用した材料がありますが、合成過程での触媒等について留意が必要であるとの指摘もあります。 |
A19:シーラント材、成形修復用や義歯応用材料には代替材料がありますが、それぞれ生物学的問題点の報告や論争点があります。したがって、その有効性ならびに安全性と患者への問診や既往歴等の診査資料とを総合的に判断した上で、十分なインフォームトコンセントを図りつつ、材料選択を行うことが求められます。 |
Q20:歯科材料の生物学的安全性はどのように調べられているのですか。 |
A20:国際的にはISO7405:1997が、我が国では厚生省による製造(輸入)承認のためのガイドラインがそれぞれあります。しかし、これらのいずれもが内分泌撹乱作用を示す化学物質については、規定していません。 |
|