スピーチ実例
お話し千一夜
このページではスピーチの実例を載せます。スピーチはまず「話す勇気」や「時間内におさめる」ことが重要です。それに慣れてくると「話の中身」が問題になります。
話は自分の気持を相手に伝えることから始まり、最後は「相手を動かす」ことにあります。

自分の気持を過不足なく相手に伝えることができればとてもすばらしいことです。でもスピーチの本当の力はそれだけではありません。よいスピーチはときに相手を感動させ、納得させ、そして動かすことができるのです。

その為にはスピーチの中身が重要です。下欄にいくつか参考となる優れたスピーチ例をあげておきます。
  1分スピーチ
             勝利のガッツポーズ
                             いとはんA子

10月28日熊本で行われたゴルフの日本シニアオープンの最終戦、1位青木功さんと2位室井淳さんは僅差で競っていました。ギャラリーが息をのんで見守る中、室井さんは最終パットを外し、その瞬間青木さんの10年振りの優勝が決まりました。その時です。青木さんはガッツポーズではなく、室井さんへ向かって手のひらを縦に、すまんのポーズをとりました。その姿は人間臭くてかっこ良く見えました。

王貞治さんは高校時代に自分が勝ってガッツボーズをした時、お兄さんにひどく叱られたそうです。負けた選手の身になってみろ。それ以降、王さんは勝ってもガッツポーズをしなくなくなりました。スポーツは勝っても負けてもドラマがあります。その時にどんなポーズをとるか、そこに人間性が表われるようです。
スピーチのねらいを達成させるためには具体例をもってくるのが一番です。
具体例こそが相手を納得させる最強の手段です。例えば「交通事故に気をつけましょう!交通事故に合うと大変なことになりますよ、くれぐれも安全運転につとめましょう!」と100回言っても、聞き手はなかなかその気になりません。

それよりも、「私が小学校4年のときでした。遊び仲間だったケンちゃんが路地から自転車に乗って走り出たときに、運わるくトラックが通りかかり、自転車ごとトラックにひかれてしまいました。自転車はメチャメチャに壊れましたがケンちゃんは命はたすかりましたが、足が不自由になってしまいました。

ボールで野球ごっこが大好きで「ボクは野球選手になる、」と言っていたケンちゃんは、それいらい、そのことを言わなくなりました。治療のためあちこちの病院を訪ねて行くケンちゃんに何度もバス停で会いました。あの一瞬がなければケンちゃんは夢をかえたかもしれません。痛い思いをして、お金を使って…交通事故というものは、起こした方も事故に合ったほうも生活が一変してしまいます。生活どころか「命や夢」さえ奪ってしまいます。

誰も「交通事故を起こそう」と思って起こす人はいません。一瞬の不注意や、だろう運転が悲惨な事故に結びつくのです。自分の生活さえも壊してしまう交通事故を防ぐために、ぜひ安全運転を実行しましょう。」、と言えば説得力があります。「具体例」だから納得するのです。

やや例が長くなりましたが、上段のスピーチでは青木功選手の意外な仕草に「相手への思いやり」を発見します。さらに王貞治さんの例を出して補強しています。このスピーチが優れているのは、最小、最短の言葉で、しかも皆がよく知っている選手を例にして、作者が言いたいことを述べていることです。

「勝っておごらず、共に闘った相手への配慮ができる心の余裕」に感心しています。興奮した瞬間にみせる仕草は「人間性」まで表われる…と。
短い言葉で的確に表現することはとても大事です。

特にすぐれている個所は「ギャラリーが息をのんで見守る中」のところ、これを「ギャラリーが見守る中」にすると緊張感が薄い。「息をのんで」の表現を入れることでより臨場感が伝わってきます。
いとはんA子さんのスピーチ構成はいつもながらあざやかなものがあります。これは構成過程で言葉を選抜し、多くの言葉を切り捨てて必要な言葉だけで綴っていることを意味します。

                   「実際よりも実感を」
                             いとはんA子

                         

安土桃山時代の絵師、狩野永徳は「洛中洛外図」を描きました。「洛中洛外図」は空から京都を見下ろして、人々の生活や京の名所を描いた大パノラマ図です。永徳はこれを描く際に、「実際よりも実感」を重んじたと言われています。見たままをそのまま描くより、少しフィクションを加えた方がよりリアリティが増すらしいのです。面白い手法です。

これはスピーチにも当てはまります。確かに嘘を言うのはいけません。ですがありのままを語るよりも、ひとひねりのエッセンス、演技、演出が話をより面白くすることもあります。試してみる価値はありそうです。

これは「表現法」について述べたもの。
室町時代の有名な絵師が京都の俯瞰図を書くにあたって、忠実な実写よりも多少のデフォルメ(誇張・省略)をして書いたほうがよりリアルになる…という主義を持って作品を作ったことを下敷きにして、相手に伝える場合は多少の誇張があったほうがよく伝わる、と言っている。

正確さを期すことにとらわれると全体が見えなくなることは多々ある。要約の妙である。
絵でもそうだが言葉でも同じようなことがいえる。正確なレポートよりも、「うん、京都の秋は最高〜」の実感ある言葉のほうがよくわかる。そのほうが大事である。役所への報告ではない。

相手に印象づけるためには多少の誇張も許されるが、いかがなものだろうか?との問いかけである。1分程度の短いスピーチでは、結論を相手に投げかけて終わる手法もある。
  「おすすめ参考書」

「話し方」についても本は多数出版されている。なかでもこの分野の原点として世界的に有名なデール・カーネギーの「話し方入門」をあげたい。人間関係の神様と呼ばれビジネスマンの対人交渉に画期的な考えを打ち出したDカーネギーの著書は現在も業界人に崇拝を持って読まれている。創元社刊1500円。入門書であるがややアカデミック内容。

私見だが表紙の装丁はもう少し柔らかくならなかったのか、いかにも堅い。表紙だけ見たら読もうという食欲はわいてこない。私は表紙の装丁を捨ててから読む気になった。
次に、江川ひろし氏の「話し方は生き方だ〜人生を180度変えてしまう10のステップ〜」サンマーク出版500円。
日本の〈話し方〉の草分け的存在とされる「日本話し方センター」所長の江川氏が書いた関連著作のひとつ。これは一般人向けに書かれたもので楽しく読める。おすすめ。私はかつて江川さんの講習会に参加した知人からカセットブックスをを借りて聞き「話し方」というものの存在を知らされた。

話し方にとどまらず「生き方」まで考えさせられた。
今は江川氏は亡くなられたが存命中に講話をききたかった。
表題の本は1993年初版なので今は書店にないがネット通販で買うこができる。

最近の本では「人前で3分、あがらずに話せる本/金井英之」鰍キばる社1400円がおすすめ。関東圏でスピーチ教室を実践している著者が、その指導体験に基ずいてわかりやすく「話し方のコツ」を説いた本。初心者にはこれがおすすめ。

話しベタの人はこの本を読むだけで光明がさしてくる気になる。しかしそれは頭で理解しただけである。実際に話し方がウマくなるには実践が必要なことは言うまでもない。

他にもこの分野の本はいくつもある。それは、話し方で困難に直面している人が多いことを示している。本に共通しているのは「話し方のテクニック」ではなく「精神的なありよう」を重視していることだ。話し方の究極の目的は人間関係の円滑化にあるのだから当然である。「話し方」よりも「心のあり方」が大事である。

されど百論より一技。頭で理解していても観客の前でアガってしまってはどうにもならない。アガリを克服するには実地練習が唯一の方法。近くの話し方教室へ行って観客の前で語る練習してほしい。

次のページへ行く 前のページへ戻る トップへ戻る ホームへ戻る