こだまちゃんと近所のお兄ちゃん 3  トップページ  前へ

 

こだまちゃんは小柄な色白の女の子です。紅いほっぺをいっそう紅く染めて、路地の向こうからやって来ます。3才にもなるとお話も上手で、黒い瞳を輝かせながら話しだすと、誰もがついつい腰をかがめて目を細めます。

花の手入れをしているお向かいさんも、犬の散歩をしているご近所さんも、日増しにおしゃまさんになって、色んな事を知らせに来るこだまちゃんと、お話をするのです。今日もこだまちゃんがやって来ました。「おじちゃん」、「お〜こだまちゃん おはよう〜 元気がいいね〜」「うん ご飯をいっぱい食べた〜」「だからね 元気になるー」「あーそうかい 沢山食べたかい」花の手入れをしていたお向かいさんは、やっぱり腰をかがめて、にこにこ顔です。

 

そこへ「おはようございます〜*」声をかけ、会釈をしながら通り過ぎた人がいました。「何でもない日常のこと」なのにご近所さんは「はっ」としました。声をかけてくれたのは、2人のお兄ちゃんのお母さんです。そう、こんな爽やかな挨拶を、何年も何年も交わしていなかったので、本当にびっくりしました。あわてて後ろ姿に「おはようございます」と返事をしました。
 通り過ぎた後には、いいにおいがしていました。こだまちゃんのお母さんと、同じようなにおいです。慌てて見た横顔が、バラ色にふんわりと見えたのは、気のせいではありません。そう、お兄ちゃんのお母さんは、お化粧を始めていました。朝と夕方に、自転車で駆け抜けていた同じ人とは思えない変化が、いつの間にか起こって居ました。

そういえば、歩いて路地を通る姿も、滅多に見かけることはありませんでしたが、そんな姿を見かけた人は一人だけではありません。この路地にすむ人達は、もう変化に気づき始めていました。

そうして、こだまちゃんが4才のお誕生日を迎えた、クリスマスイブの夕方のことです。お兄ちゃんの家には車が2台、自転車が1台並んでいましたが、そこへあのステキな車がやって来て、ステキなカップルが降りてきました。いつものことです。お母さんの顔は上気して、まっ赤に染まっています。遠目に解るほどお母さんはもじもじと、お兄ちゃんと話をしているのですが、なんだか上の空に見えます。お兄ちゃんと一緒に立っているお嫁さんまで、うつむき加減で、もじもじとしています。お兄ちゃんの両手には、大きな花束がありました。まっ赤なバラの花束でした。それを見かけたご近所さんといったら、目を丸くして、特別なイベントでも見たような顔をしていました。それはもう、驚いたのなんのって!!

 お兄ちゃんとお嫁さんは家の中へはいっていきましたが、クリスマスイブの日を、この家族がどんな風に過ごしたか?ご近所さんの誰もが、何も聞かなくても解りました。それから、お兄ちゃんのお母さんに起こった変化も、「何故」?聞かなくても、とうに気がついていました。

お兄ちゃんの家族が、この路地に越してきたのは約20年前こと。両手で、小さな兄弟の手をとって歩く若いお母さんの姿を、よく見かけました。そのお母さんは、華奢な体格にジーンズの似合う、大変美しい人でした。

20年も経過した今、小さな兄弟は成長し、若いお母さんは美しさにも勝る「・・・」を身につけていました。それだけではありません。それからも、この家族に大きな変化が訪れ、お母さんは、もっと変わっていきました。      

       4へ続く