牡丹(絶筆)

1939年(昭和14)
80.6cmX36.1cm


華岳は画を描き継ぐ場合、裏から礬水(どうさ)を弾いて、乾くとまた手を入れる方法をとっていた。礬水というのは、膠(にかわ)とミョウバンを溶かした水で、紙などに引いて、墨・インク・絵の具のにじみ止めとしたもの。

亡くなる前日の夕方、この絵に熱心に礬水引きをしていたというから、おそらく翌日そうするつもりでいたのだろう。その意味では、まさに絶筆といえる。大輪の牡丹が二、三輪、花を咲かせている。未完成でありながら、それだけの品格が既にそなわっている。