少年冒険記
 柏中時代の冒険記(2)
 (2)、6人グループになって意気あがる私達はいつもと違う山道から、山頂をめざすことにした。
観音岳というのは柏の奥にそびえる標高782bの山です。村で一番高い山で、名前に「観音」とあるように昔は修験者が修行した伝説もある霊峰です。山頂の近くに滝があり、冬は結氷します。その近くに祠があり観音様が祭られている…ようです。
そこに祈願すると病気も治癒する、との言い伝えがあり、そこでくんだ山水が霊験あらたか…など土着信仰の聖地のような山でもありました。そんなわけで山道も整備されて、登る人も多かったので「冒険心」を刺激するような山ではなくなっていたのです。
「まだ知らない山に登ってみたい!」少年の好奇心は、観音岳とは向かい側の山の山道を制覇するような心持ちで登りはじめました。さいわい今回は人数も多いので心強い状況です。

本当に場所が違えば植物も違います。これまでとは違う植物を採取しながら、友との会話をはずませているうちに山頂に着きました。山頂からの眺めはいつも心地良いものです。ふき上げる秋の風に汗をかわかせながら、そこで昼の弁当を食べました。
その山道はそこで行き止りではなく、なおも隣村の山へと続いています。けもの道ではなくしっかりした山道です。木陰の中にゆるやかに下り道になっています。昼食の休憩のあと、その道をしばく行ってみることにしました。

落ち葉道ををカサコソと踏みしめながらしばらく行くと、珍しい山アオイの植物を見つけました。そしてさらに林の中の道を下ると先頭の者が「おっ」と声を上げました。まっ白い植物を見つけました。それは「ギンリョウソウ」という葉緑素のない植物です。植物はたいてい葉緑素を含んでいますが、このギンリョウソウはそれがなく、まっ白い植物なのです。主に山の小動物などの死骸に寄生して生える珍しい植物です。白く透明な銀色ながら葉や花らしきものもあります。まさに図鑑でしかお目にかかれない「まぼろしの植物」です。植物コレクターなら間違いなく大ホームランの採取物です。
喜んだり驚いたりして、ふと周囲を見ると、もうだいぶ山を下りていることに気がつきました。山道も当初ほどハッキリせず、「道らしい所を」くだっていました。

陽もすこし傾いてきたようです。秋の陽は暮れはじめると早いものです。まして道もハッキリしない山中で、また山頂めざしてひき返し、まんいち道を間違えると遭難します。それで、このまま山を下ることにしました。
多分、隣村の須ノ川だろうから、そこからバスに乗って柏に帰り、バス停留所でわけを話して切符代を立て替えてもらえばいい…自分勝手な理屈に基づいて、どんどん山を下りました。

やっと山裾に下りました。周囲を見ると所々山畑があるだけで人家もありません。「ここはいったいどこだろう?」そんな疑問をかかえながら、さらに道を下って平地に着くと所々にポツンと農家がありました。
「ここはどこですか?」ときくと、「そうずじゃがね」と言う。須ノ川の奥のほうを「そうず」というのだろうか…、「この道をずっと行くと須ノ川へ出るんですか?」と尋ねると、「いや城辺よ、」と言う…。
これはとんでもない所へ下りてしまった…城辺の奥の僧都という所だ…城辺まで出ても、そこから柏へはパスで一時間ほどかかる、陽は傾いて山は暗く、もうひきかえすことはできない。

                            (3)に続く…
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