<2009年6月>

【冒険しろよ】 6月19日(金)

研究授業も無事終わったので、担当している教育実習生に、生徒の刺激になるような話を自由にさせた。
アメリカに留学経験のある彼は、現地での一人旅の写真や、スカイダイビング体験の映像を見せながら熱く語った。
その様子を見ながら、彼が自分の若い頃にそっくりなことに驚いてしまった。

授業を進めるノリも、英語のマメ知識も、楽しい教え方も、何もかもが教育実習から新卒時代の私に似ている。
実習生にありがちな、オドオドした面がまったくない。
手がかからない、ほめられるとどこまでも伸びるタイプ。

私が実習生として母校に戻った時は、県立高だったために多くの教師が転勤しており、指導教官とも初対面だった。
私とはまったくタイプの違う、神経質で冷ややかな教師だったので、今思い出しても不愉快になるほど相性が悪かった。
私も若くナマイキだったのだろうが、彼が私につけた成績は、ちょっとどうかと思うほど落第ギリギリの最低点だった。

指導者でも審査員でも、どんな人に当たるかで、その時期の経過や結果は大きく変わる。
選ばれたり評価されたりする場面で、運・不運があるのは否定できない(私の実習生がラッキーだったとも限らない)。
しかし、それを乗り越えたあとの展開は本人次第だと、経験上断言できる。

彼の生徒たちへの最後のメッセージ。
「みんな、冒険しろよ〜!」
そのセリフまで、当時の私とまったく同じだ(笑)。

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【前倒し】 6月18日(木)

担当している教育実習生の、研究授業。
リーダーシップとアイディアに優れた男子学生で、在学中から気心も知れているので、安心して見ていられた。
それでも最後は時間が足りなくなって、せっかく用意していた指導技術のいくつかが披露できなかったのが残念。

何事もそうだが、「時間は予想していたよりも意外とかかる」。
授業中の雑談もそうで、生徒に乗せられるうち、何回終わりのチャイムを聞いたことか(笑)。
誰かに3分間でスピーチを依頼しても、話しているうちにノッてくるのか、係が困っていても延々と話し続ける人が多い。

仕事の場面になると、「この空き時間で授業の準備をしよう」と思っている時に限って、悩みの相談が入ったりする。
こなすべきタスクやハプニングは次々と現れるから、ちょっと気を抜くと「追われている感」がストレスとなる。
心のゆとりを持つためにも、雑務は「即時処理」、重要な仕事は「前倒し」でやっておかなければと、改めて思った。

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【ぬくもり】 6月17日(水)

職場の先輩のお通夜で、読経をしたお坊さんが、慰めになるいいお話をしてくれた。
聞いていただけなので正確ではないが、だいたい次のような内容だった。

「人の肉体はほろびても、故人が存在しておられたという事実は消えません。
 言葉が残ります、笑顔が残ります。
 そしてそのぬくもりは、残された者が手を合わせさえすれば、そこに温かく感じられるのです」

「亡くなることを仏教で往生といいますが、“往”はまた戻ってくる、そして“生きている”と書きます。
 姿かたちこそ見えませんが、故人のぬくもりは、いつも手を合わせる私たちと共にあるのです。
 見えない故人はどこへ行かれたかというと、浄土という仏様のおられる場所に、少しお先に行かれたのです」

人の死は、今生きている誰一人として体験したことがないのだから、どう説明しても「一仮説」に過ぎない。
最先端の科学をもってしても、ましてやアヤシゲ宗教系の教祖サマでも、絶対に証明できやしないのだ。
であるならは、残された人々の心を少しでも安心させる、温かい「仮説」を信じていようと思う。

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【最後のレッスン】 6月16日(火)

「人の死は、その人があとに続く人たちに残した、最後のレッスンである」

そんな言葉を、いつかどこかで聞いたことがある。
身近な人の死は、自分や家族の人生にも限りがあるという事実を、まざまざと見せつけてくれる。
20年間同じ職場で働いていた先輩教師が、突然、59年間の生涯を閉じた。

私はまだ、親の死という体験を知らない。
なので、その日がとても怖い。
家族の支えがなかったら、とても耐えられない気がする。

そしてまた、自分の死が怖い。
死ぬこと自体は、眠って意識を失うのと同じだろうから、恐怖とはちょっと違う。
むしろその日が仮に今日だとしたら、私は幸せのまま死ねることになる。

私は、今の家族さえいれば、ヘンな表現だが自分的には「最強」である。
妻にとっても、たぶんそうだろうと勝手に思い込んでいる。
怖いというか、気がかりなのが、私という存在を失ったあとの妻と息子のこと。

私はすでに、人生の折り返し地点を過ぎている。
今まであっという間だった時間さえ、もうこの先に残されてはいないのだ。
しかもその3分の1は睡眠、3分の1は仕事だとすると、計算上あと12年生きられるかどうか。

40代以上の人で、そのことを真剣に考えている人が、果たしてどれくらいいるのか。
私はここ数か月間、「深刻」ではないが、「真剣」に考え抜いた。
そして、「残された時間を、できる限り家族のために使う」という行動基準を決めたのだ。

どんなニセ占い師でも、100%当たる占いがある。
「あなたは、必ず死にます」。
その厳然たる事実を、先輩教師の「最後のレッスン」が、ますますリアルに突きつけた。

(Y先生のご冥福を、心よりお祈りします)

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【誕生日おめでとう】 6月15日(月)



離れて暮らす娘に、今年も祝電とお祝い金を送った。
喜んでくれるといいな。
15年前の特別な夜を、まるで昨日のことのように思い出す。

「Sちゃんのお祝いだよ」
妻が気づかってくれて、小さなホットケーキを作ってくれた。
今ダイエット中なんでね(笑)。

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【お父さんに会いたい】 6月13日(土)

相談室に、一人の生徒が入ってきた(以下、多少ぼかして書く)。
幼い頃に両親が離婚し、母親のもとに引き取られた。
最近、母親の新しい男性が家に入ってきたが、なじめない。

「お父さんに会いたい」

女手ひとつで育ててくれた母に、本当の気持ちは言いにくい。
以前父親のことを聞いたら、さんざん悪口を聞かされた。
それが辛かったので、二度と聞く気にもなれない。

「今どうしているのか、知りたい」

この悲しいワンパターン。
新学期になって、今年もすでに複数の相談を受けている。
私の苦い体験から「ファーザーズ・ウェブサイト」を作った頃と、何も変わっていない。

離婚を選択するなら、大人としての「覚悟」が必要だ。
自分の勝手で子どもにストレスを与えたのだから、どちらの親にも自由に会わせてやる覚悟。
それもできず、ただ感情的に「会わせない」のなら、最初から離婚などする資格はなかったのだ。

私もまた、覚悟のない大人だった。
相手の再婚によって、家庭裁判所での取り決めにかかわらず、ある日突然子どもに会えなくなる覚悟。
毎月の養育費を送金し、新しい家族の邪魔をせず誠実を貫けば、関係は保てると信じていた甘さ。

誤解のないよう、何度も書いてきた通り、今までをふり返ると、相手方にはむしろ感謝している。
私の大切な娘を、あんなに元気で明るい子に育ててくれた。
私自身、この10年間のストレスで体も心も病んだが、人間としては大きく成長できたと思う。

ただ、親が想像もしない場所で、子どもが余計な気づかいをしていることは知ってほしい。
別れた後も悪口を言うような相手を選び、結婚生活も続けられなかった未熟者は、誰なのか。
離婚のしわよせで、何の責任もない子どもが、どれだけ傷ついていることか。

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【ノブレス・オブリージュ】 6月12日(金)

今年も教育実習の時期になって、たくさんの学生を預かっている。
私が担当しているのは、初代テコンドー同好会キャプテンのN君。
元気よく教壇に立つ彼を見ていると、さすがに感慨深いものがある。

同じく一期生で、たった4人から男子合唱部を作り、全国優勝を果たしたO君。
4年前に放映された「学校へ行こう!MAX」で、全国に感動の嵐を呼んだ青年だ。
番組の最終回特集でもV6と共演して、在校生にとっては偉大な先輩だろう。

そして教育実習ではないが、卒業生でプロのモデルをやっているKさんが今日遊びに来た。
今度ドラマにも出演することになり、めざせエビちゃんといった勢いのようだ。
生徒たちが大勢集まり、「キレー!」「ほっそーい!」と大騒ぎだった。

うれしかったのは、Kさんから、子どもの玩具と安産祈願のお守りをもらったこと。
しかも、仕事の初給料で買ってくれたそうだ。
教師冥利につきるとは、このことだろう。

実は今週、O君のお祖父さんが急に亡くなる騒ぎがあった。
いつも音楽を突き詰めて考える性格で、授業内容にナーバスになっている時に知らせが入った。
何年も見てきて思うのは、こうして彼に与えられる課題は、なぜかいつも大きい。

モデルのKさんにしても、高校時代に、交通事故で突然両親を失った。
私のいる相談室に登校し、毎日のように深い話をしていた関係で、帰省のたびに顔を出してくれる。
今は華やかな世界に身をおいているが、実は誰にも理解できないほど、悲しい過去を背負っている。

こういう教え子たちを見ていると、ひとつの言葉が思い浮かぶ。

「ノブレス・オブリージュ」

フランス語で、「高貴な義務」。
選ばれた人が果たすべき使命、といった意味。

太宰治は、「選ばれし者の恍惚と不安われにあり」と書いた。
彼らが乗り越えようとしている壁の高さには、何らかの意味があるように思えてならない。

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【10年分】 6月11日(木)



何の変哲もない、右下に指まで写ったこの写真。
今日の午後、職場から出張に出かける時、感慨深く見上げた空である。
中学3年生になった娘の学校から呼ばれ、生徒たちに話をしに行くことになったのだ。

離婚したのは娘が3歳の頃、いちばん可愛い盛りだった。
月2日の面会の約束が1日になり、2時間になり、元妻の再婚によってまったく会えなくなった。
小学校を卒業するまで6年間、雨の日も風の日も、毎日少し離れた場所から登校を見守り続けた。

この10年間、見かけでは誰にもわからなかっただろうが、精神的に病んだ日々を過ごしてきた。
それに自分でも気がつかず、たくさんの人たちを巻き込み、失望させ、傷つけてきた。
ふり返ってみると、謝りたい人たちの顔が次々と浮かんでくる。

私はあきらめの悪い、いつまでも引きずる、しつこい父親だった。
いろんな人から、「潔く忘れろ」「前を向け」「娘もかえって迷惑」と言われた。
しかし今日、私は空を見上げて深呼吸し、「勝った!」と思った。

「勝った」というのは、娘と私を引き離した人たちに対してではない。
私自身の「弱さ」に勝った、そう思ったのだ。
娘への愛情が一瞬とも揺るがなかったことで、幸運が舞い込み、今日という日を迎えられたからだ。

何百人もいる生徒の中で、娘はいちばん前の列に座って、私を見ていた。
話しながら、何度か生徒にマイクを向けて意見を聞いたのだが、その一人目に娘を選んだ。

「今やってもらったアクティビティ(ペアでお互いのいいことろを1つ伝え合う)、どんな気持ちがした?」
「(驚いた様子で)…うれしかった」
「そうか、ありがとう。お名前は?」
「○○○」
「○○○ちゃんか、英語読みで‘シェリー’、いい名前だね!」

たぶん会場にいる誰も知らない、父親と娘だけの、ひとときの対話だった。
その後、自分の勤務する高校の紹介をして、「最後に個人的なことですが…」と切り出した。

「7年前に校名が変わった時、誓ったことがあります。
 当時まだ小学生だった娘に、自信を持って勧められる高校にしようと」

「そう決めてから、今日この場に立つ瞬間まで、私は一生懸命に頑張ってきました」

「世界一愛する娘には、彼女にとっていちばん幸せで楽しい人生を送ってほしい、そう願っています。
 だから、困った時には絶対に助けるけれど、父親として彼女の選択に一切強制はしません」

「もし娘がうちの高校に来ることになったととしたら、自信と誇りを持って迎えたい、それだけです。
 そして、あの日の私の決意に、答えが出る日が近づいてきたのを感じています」

文章に書くと何でもないようだが、実際は気持ちが熱くなり過ぎて、早口で不自然な語りだったと思う。
途中で自分の用意したアラームが鳴り始めたり、我ながら不器用でドンくさいところを見せてしまった。
娘にとってカッコいいパパでいたいのに、いつも肝心なところでトチってしまうダメなオレ。

帰りの車の中では、全エネルギーを使い果たした疲労感に加えて、すっかりしょげてしまった。
今ハマっている懐かしの「ザ・ベストテン」シリーズCDから、わざわざ演歌を選ぶ。
たまたま始まった曲の歌詞が、自己嫌悪にヘコむ私に追い討ちをかけた。

「バカね バカね よせばいいのに
 ダメなダメな ほんとにダメな
 いつまでたっても ダメな私ね」

去年と同じようにションボリして帰って、妻にグチった。
「オレは世界一のヘマ男だ…」
去年の6月15日と、まったく同じパターンである。

妻は当時22歳にして、43歳の離婚歴あり、会えない娘を思ってウジウジしている私を選んだ女である。
間違いなく夫がかなり先に死ぬだろうし、遺産の一部が娘に渡されることも承知の、覚悟の結婚だったと思う。
普通なら、前妻の子どもとの関係を重く感じるだろうに、彼女にはまったくそんなところが見られない。

「Sちゃんを思って話したんだから、それが一番大事だよ。
 下手でも何でもいい。
 クールに言われても、セリフみたいだよ」

「10年分の思いが詰まってるんだよ。
 緊張もするし、早口にもなるし、熱くもなるよ。
 Sちゃんは絶対わかってくれてるし、気持ちは伝わってる」

いつもながら、見事な説得力。
これで少しは、気持ちが落ち着いた。
(でも、もしパパの気持ちが重すぎたらゴメンな、シェリー)

*****

【出世】 6月10日(水)

県内の高校英語教師の代表格が集まる、大きな会合に出席。
しばらく表舞台から遠ざかっていたので、久しぶりに会う人ばかり。
メインスタッフとして誇らしげに会を運営する知人たちを、後ろの席から眺めていた。

お世話になった先輩教師たちは、県の指導主事や主要校の管理職として、来賓席に座っている。
私が新卒の頃は、若く親しみやすかった彼らも、すっかり老けて「偉い人」に。
そしてその頃「偉い人」だった人たちは、退職してもういない。

若い教師たちは、いつか自分も前の舞台に座ることを夢見て、一生懸命な様子。
大会で研究授業を行ったり、研究誌に原稿を書いたり、人脈を築こうと挨拶に走り回ったり。
このようなサイクルが、もう何十年もくり返されてきたのだろう。

私が提唱し実現させた教育技術セミナーも、これからは県が主導で行われることになった。
小さな草の根運動より、ネットワークに勝る組織が仕切ったほうが、多くの人に役立つだろう。
わざわざ許可を求める電話をいただいたが、名誉欲のない私に気づかいは不要である。

午後に行われた著名な先生の講演を聞きながら、改めて「いちぬけた」自分に気づいた。
出世するほど仕事量とつき合いが増えるだけで、死ぬ時の後悔の大きさに比例する。
死に際に「もっと出世したい」などと言う人はいない、という話である。

独自の人生哲学とライフスタイルを確立し、それにこだわり、維持すること。
離婚で娘と会えなくなり、40代半ばで再婚し父親になる者にとって、これは切実な問題だ。
離れて暮らす娘とも、こんな私を選んだ妻とも、生まれてくる息子とも、残された時間は限られている。

選択と集中、継続。
限りある人生で、すべてに当てはまるこの原則。
過ちをくり返してきた私の場合、そのプライオリティ、優先順位を「家族」と決めただけだ。

勤務時間中の仕事は、真剣に取り組む。
しかし本業以外の労働(本の執筆や翻訳・通訳の依頼など)は、今後は原則として断る。
気を悪くされた方には申し訳ないが、彼らが私の命を延ばしてくれるわけではないので。

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【新しい生命】 6月7日(日)



観葉植物の葉の1枚が、水をやっても光を当てても枯れてしまった。
もう1枚が寂しそうだなあと思っていたら、なんとそのあとに別の小さな葉が。
なんだかウチの家族を象徴しているような(笑)。

でも不思議だなあ、今まで新しい葉が出てくる気配すらなかったのに。
朽ち果てても、次があるんだよな〜。
小さな石の上での出来事だが、自然は偉大だ。

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【アイ・アム・ハッピー】 6月6日(土)

ニック・ボイジッチさんのYouTube動画。
こういう人には、一生かかっても絶対にかなわないな。
人間としてのレベルが違いすぎる。

http://www.vor.co.jp/cgi-bin/cmd.cgi?id=62162541364605128811296

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【命の授業】 6月5日(金)

腰塚勇人さんのYouTube動画。
教師として、人間として尊敬する。
健康で仕事があるのに、愚痴ばかり言っている人に見てほしい。

http://www.vor.co.jp/cgi-bin/cmd.cgi?id=524205137806972682411296

http://www.vor.co.jp/cgi-bin/cmd.cgi?id=524205137192954659511296

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【睡眠力】 6月1日(月)

NHK「ためしてガッテン!」の「熟睡4鉄則!睡眠力がよみがえる」。

早い話が、
(1)眠りが浅い (2)なかなか眠れない (3)夜中に何度も目覚める (4)早朝に目が覚めてしまう
の悩みを解決するために、

(1)午後1時から3時までの間の短い昼寝 (2)夕方の運動 (3)夕方の光を浴びる (4)就寝1〜2時間前のお風呂
を実行しよう、という内容。

でもいちばんインパクトがあったのは、番組中に専門家が語った次の言葉。

「100点満点の睡眠を求めるのは、“ないものねだり”なんです。
 眠りのことで悩んでいる方は、20代の頃と比べて、『あの頃はよかった』と」

「若い時期は心身ともに活発で、休養のために、深く長い眠りが必要なんです。
 ですが年を取ると、基礎代謝も落ちてきて、“エコ型”に変わってきます。
 睡眠時間が短くなってくるのは、“理にかなったこと”なんです」

「日中にひどく気分が悪いとか、集中力がわかないとか、目まいがするなどといった問題がなければ、
 夜中に目が覚めても“気にしすぎない”、“深追いしない”ことです」

「眠れない人は、寝床に入ると目が覚める、“不眠恐怖症”なんですね。
 ところが、寝ようと思わない電車の中では居眠りしたりする。
 眠れない時には、思い切ってベッドから出てしまうことです」

言われてみればその通りで、まさに「目からウロコ」。
上の「4鉄則」より、よほど役に立った。
手放すところは手放さないと、ね。

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