<2009年4月>
【原風景】 4月30日(木)
最近ふと思い出す、幼い頃の記憶がある。
そこは、もう亡くなった祖母の、これも今はもうない昔の大きな木造の家である。
時間は昼下がり。
やわらかな陽射しが、畳の一部を明るく照らしている。
遠くから聞こえてくる、プロペラ機の「ブーン」という音。
それ以外は、ただ静かな時間が過ぎていく。
叔父が、読みかけの本を開いたまま顔に乗せ、昼寝を始めた。
なんと贅沢なひとときだったことだろう。
当時を懐かしみながら、私も本を顔に乗せて、目を閉じてみる。
インクの香りはしても、あの「ブーン」というのどかな音は、もう聞こえない。
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【クローバーに学べ】 4月29日(水)
我が家の玄関先にある、プランター。
植えてあったサラダ菜を、多忙にかまけて、春の虫さんたちにご馳走したあとの話。
わずかに降り込んでくる雨の水分を頼りに、クローバーが顔を出した。
ご覧のように、日中はとても元気がいいのだ。
ところが暗くなると、人が変わったように、というか葉が変わったようになってしまう。
その画像が、こ〜れだ(ワンツースリー)。
光がなくなると、「今日はもうこれで店じまい!」とばかりに、省エネモード。
夜が明けるまで、じっと動かずに羽(葉)を休めている。
そしてまた太陽が顔を出すと、ちゃっかり普通のクローバーに戻る。
この変わり身の早さ、私たちも見習いません?
いつも明るく、いつも元気で、いつもいい人なんて、無理なんですよ。
私も仕事から帰ると、明日のために、家でしょぼくれてます。
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【どうしたらいいんでしょうか?】 4月28日(火)
NHKテレビ「プロフェッショナル」で、武装解除をさせる専門家の女性、瀬谷ルミ子さん(32)を知った。
番組では、戦争に駆り出された少年兵の社会復帰を、瀬谷さんがサポートする様子を紹介。
軍は脱退を許さなかったが、少年の希望である学校へ通うことは構わないという。
軍や警察の幹部に依願を続けてきた瀬谷さんは、少年に結果を伝える。
そして、次のように言った。
「これはあなたの問題であって、私の問題ではありません。
私ができるのは、あなたのお手伝いだけです。
この先は、あなたが自分で決めて行動してください」
一見、ちょっと厳しい感じを受ける。
しかし少年は、しっかりした顔つきで答えた。
“Yes, this is my life. Thank you.”
(そうですね、これは僕の人生です。ありがとうございました)
すばらしい。
人は誰でも、自分の問題と向き合い、自分自身の人生を生きるしかない。
他人の問題や人生を抱え込むことなど、実際にはできないのだ。
ところが、私のもとへ悩み相談に来る人たちの多くは、同じ言葉を口にする。
「私は、どうしたらいいんでしょうか…?(泣)」
そんなセリフを言わせるのが、カウンセリングが下手な証拠だと、資格取得のセミナーで指摘された。
そりゃそうなのかもしれんが、自分の人生に対する覚悟や責任も、問いただしたい気分になる。
学校に通いたい少年兵からすれば、オトモダチやオシゴトのことなど、悩みのうちに入らないだろう。
じゃあ、もし私が次のような相談をしたら、彼らは私に何をしてくれるというのだろうか。
「このトシで、父親になってしまいました。
父親参観の日、若いお父さんと並ぶのが恥ずかしいです。
運動会で走らされて、ビリで笑いものになるのが怖いです。
子どもが高校生になったら、私はもう還暦のおじいちゃんです。
私は、どうしたらいいんでしょうか?」
これだけで、「どうしたらいいんでしょうか?」という質問が、いかに人任せで甘いものかわかる。
私を20歳ほど若返らせるか、他の父親を老人にする魔法でも使えるのなら別だが。
体を鍛えたり健康に注意するなど、「私が」「自分の力で」どうにかするしかないのだ。
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【生理的にダメ】 4月27日(月)
「芯の座った体」
「風通しのよい心」
をつくるため、毎週ジムに行って、「自分の心身との対話」を楽しんでいる。
そんな私のナルシスティックなリズムを、一瞬にして砕き散らすものがある。
ストレッチマットで目にする、「5本指靴下」である。
どんな美女であっても、豹のごときシナヤカな肉体でも、あれを見ると萎える。
相手がお年寄りなら、やさしい気持ちにもなれるのだが…。
健康にいいなどの理屈はともかく、「生理的にダメ」なものはどうしようもない。
他にも、原因不明のまま不快に感じるものが、いくつか浮かんでくる。
最近のブログに見られる、行空けのライティング・スタイル。
こんな…
感じの…
やつ。
若い人なら好きにやったらいいが、中年の人がやってるのはどうも…。
あと、昔っからダメなのは、女性のキュロットスカート。
異論反論覚悟の暴論だが、あの中途半端な存在は、私の波長と不協和音を引き起こす。
スカートをはいた男ほどの衝撃を受けるのだから、「生理的レベル」はどうしようもない。
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【Enjoy your son.】 4月26日(日)
NHKテレビ「英語でしゃべらナイト」の最終回で、こんなひとコマがあった。
俳優の八嶋智人さんが、映画監督のジョージ・ルーカスさんにインタビュー。
質問する英語もつきて、気まずい雰囲気の中、思いつきでこんな質問をした。
「幼い息子がいるのですが、子育てのアドバイスをお願いします」
唐突な質問に、ちょっと驚いたような表情を見せるジョージ・ルーカスさん。
だが次の瞬間、次のように言った。
「エンジョイ・ユア・サン(Enjoy your son.)」
自分の息子を楽しみなさい。
さすが!
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【おちんちん】 4月25日(土)
月に一度の検診。
いつものように、超音波で胎児の姿を見る。
医者が「おちんちんが見える、男の子だな」。
なぜか女の子をイメージしていたので、二人とも意外だった。
男の子、という展開。
人生はユニークだ。
妻とは年の差が大きいので、私のほうがずっと早く死ぬだろう。
男なら、私の代わりに母親を守ってほしい。
この「縁」には、そういう「意味」があるのかもしれない。
親子といっても、別の時代に、別の人生を歩むだけ。
血がつながっているからといって、勝手な期待も押しつけもしない。
好きなように生きて、この世界を楽しんだらいい。
そうはいうものの、やはり少しだけ、父親のエゴが顔を出す。
ウンザリするような「へなちょこ」な男には、できればならないでほしい。
お年寄りや子どもなど、自分より弱い人に、やさしい人であってほしい。
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【スペシャルティ珈琲】 4月4日(土)
自宅からちょっと行ったところに、自家焙煎の珈琲豆を売っている小さな店がある。
前から気になっていたので、ちょっと思い立って寄ってみたら、すんごいこだわりの店だった。
海外の契約農園から直接仕入れたスペシャルティ珈琲豆(牛肉の等級でいえば最高品質A-5)を、当日の分だけ少量焙煎して売っている。
さっそく100グラム買って、帰っていれてみた。
すごい。
ちょっと蒸らしただけでブワーッとふくらみ、部屋中が珈琲のアロマでいっぱいになった。
今までのコーヒーは何だったんだ、と思った。
いろんな店の豆を使って、いれ方も学んでみたが、理想の味にはほど遠いままだった。
それが、たまたま出合ったわずか590円の珈琲豆で、一発解決。
私「やっぱり豆がすべてですか」
店長「当然です、いくらいれ方を研究したところで、もともとないものは引き出せませんから」
この会話、子育てや教育、人生全般においても参考になる話ではないだろうか。
「もともとないもの」を引き出そうとして、必死にあがく姿って、笑えるけどありがち。
「もともとあるもの」を引き出して、磨いていくことこそ大切なんじゃないかって。
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【おくりびと】 4月3日(金)
映画「おくりびと」を、遅ればせながら見た。
アカデミー賞(外国語映画賞部門)を受賞したそうだが、そりゃ獲って当たり前だよ、というくらいよかった。
感動したので、サウンドトラックのCDまで借りてきて聴いている。
(以下、ネタばれ)
最後のシーンは、私には反則。
あれで泣けなかったら、親じゃないよ。
私も一生、子どもから受け取った「石」を握りしめていく。
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【後悔】 4月2日(木)
先日録画したNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見ていたら、脳科学者の茂木健一郎さんがいいことを言っていた。
自分を育て、成長させるためには、「後悔すること」が必要不可欠だと。
「後悔しているときは、現実に自分がとった行動と、こうすればうまくいったのにという想像との比較が同時に行われているんです。
自分の選択に反映される価値観や世界観を反省し、考え方を変えるきっかけにもなるわけです。
つまり後悔は、未来を変えるためにやっているんです」
「後悔は、未来を変えるためにやっている」か。
昨日の今日で、タイミングよくこんなメッセージを受け取るのが、不思議なところ。
いつもいつも、このパターンなのだ。
大事なのは、「反省」なんて生易しいものではなく、「後悔」という胸をかきむしられるような激しい感情。
「後悔はない」なんてカッコイイことは、一生言えそうにない。
私は声を大にして、「ムチャクチャ後悔してる」と言える人生を歩もう。
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【感謝】 4月1日(水)
新年度のスタート。
1月始まりの新年サイクルと、4月始まりの新年度サイクルがあるのは便利だ。
それぞれ新しい気持ちで、新年には生活の、新年度には仕事のプロジェクトが組める。
今日を真ん中に一週間、仕事から完全に離れて春休みを満喫している。
頭よりも、体のケアを心がけて過ごしている。
一日ごとに、ジムでトレーニング、温泉でリラックスをくり返す。
個人的なことで詳しく書けないが、今日は一生忘れられない一日となった。
親不孝を続けてきた両親に、ここ十年間で最高の親孝行ができたと思う。
それだけに、今日が実現するまで両親に負わせ続けた心の痛みが感じられて、辛かった。
夜に温泉に行って、露天風呂のデッキチェアに寝転んで曇り空を見上げた。
涙が勝手にポロポロこぼれ落ちて、止まらなくなった。
サウナで汗をガンガン流して、水風呂に飛び込んだ。
この十年間、デタラメだった私を許し、受け入れ、支えてきてくれた人々の顔が次々と浮かんだ。
そして気づいた。
「感謝」というのは、文字通り「謝りたいと感じる」ことなのだと。