<人生に残るもの>
余計な荷物を全部捨ててしまってなお、
人生には残るものがある。
それは気持ちよく晴れた空や、
吹き寄せる風や、
大切な人のひと言といった、
ごくあたりまえのかんたんなことばかりだ。
そうした「かんたん」を頼りに生きていけば、
幸せは誰にでも手の届くところにあるはずだ。
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「40歳。
人生の半分が終わってしまった。
それも、いいほうの半分が…」
石田衣良さんの小説「40 翼ふたたび」より。
「気持ちよく晴れた空」。
数日間雨が続いて、今日は久しぶりに青い空が広がった。
雨も大好きだけれど、雲の間から光が差してくるのを見ると、やはり気持ちがいい。
仕事場の窓から見える青空は3分の1くらいだが、人生で晴れ渡るのも3分の1くらいがよさそうだ。
「吹き寄せる風」。
空を見上げたくて外に出ると、暖かい風が吹きつけてきた。
エアーズロック、カオハガン、グアムで熱風を浴びた瞬間を、次々と思い出す。
風に吹かれるだけで、極上の幸せを感じる自分を発見した。
風は、「地球の深呼吸」なのかもしれない。
田植えで腰をかがめていた農民たちが、風が吹いてくると、風を感じるためにみんなで立ち上がる。
ジェット・リー主演の武術映画「SPIRITスピリット」の、いちばん好きな場面である。
「大切な人のひと言」。
百も千も「名言」を集めたけれど、自分は何も変わらなかった。
それらを人に「教えた」けれど、やっぱり自分は変われなかった。
いちばん大切な人の「ひと言」さえあれば、変わるのは一瞬だったのに。
自分で自分の体を持ち上げることなど、できはしない。
それくらい、自分を客観視するのは難しいことだ。
だから、人はいつも誰かを必要としているのだろう。
渥美清さん演じる「寅さん」の映画で、こんなシーンがあった。
大学に落ちてしょんぼりしている甥が、寅さんに問いかける。
「おじさん。人間どうして生きなくちゃならないんだ」
「バカだなおまえ、大学入ろうとする人間が、そんなこともわからないのか?
今まで生きてきてよかったと思ったことがあるだろう。
そんなときのために、生きてるんだよ」
(2009/3/18)