<Count your blessing.(恵まれていることを数える)>

「前妻に身ぐるみ剥がれる自分だが、
 娘たちを健康で心優しい人間に育ててくれた彼女に感謝している」

(キース・キャラダイン/米アカデミー賞映画俳優)

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マックス桐島さんのコラムに載っていた、離婚訴訟中である映画俳優の印象深い言葉。

キースさんは映画の撮影時期に、20年間連れ添った妻との離婚裁判が重なっていた。
ある日の公園ロケのこと。
前妻と暮らす幼い娘を学校から連れ出した中年男が、一緒にアイスクリームを食べながら機関車に乗るシーン。

複雑な感情を隠して陽気にふるまう父親を演じる、キースさん。
監督からテイクを告げられると、突然走り出して公園の隅でうずくまってしまう。
桐島さんが歩み寄ると、涙目で「娘のことを思い出して…」と、感傷的に話し始めたそうだ。

「人間、滅入っている時は自分の人生のアラ探しばかりしてしまう。
 もっと自分の恵まれている点に焦点を合わせないとな」

そう自分に言い聞かせるようにつぶやく彼を見ながら、桐嶋さんは読者に語りかける。

「毎朝普通に目が覚める奇跡。
 若い頃の想いを遂げて一緒になった人と暮せる喜び。
 空爆や狙撃の脅威にさらされることなく、街を自由に歩ける幸せ」

「普段は心の片隅に追いやられてしまっている「日々の恵み」に今、再び焦点を当て、
 ないものを欲しがるという「魂の悪循環」から脱皮しなければ、
 真の心の平和は訪れないのだと思う」

表記のキースさんの言葉は、まさに私が前妻に伝えたかったこと。
そして、彼女の新しい夫にも。
娘を明るく元気な子に育ててくれて、本当にありがとう。

私は7年半前、離婚して子どもに会えない父親や母親を励まそうと、「ファーザーズ・ウェブサイト」を立ち上げた。
大手の新聞社やテレビ各局から注目を浴び、全国から同じ境遇の親たちが集まってきた。
北海道と東京と宮崎のたった3人の父親で、無料レンタルの日記で始めたサイトも、今や一大組織に発展した。

しかしここ数年、私はこの活動の第一線から退いた形になっている。
私の本来の目的である「癒し」から、「法改正」(離婚後の親子が交流できる法を作る)へと趣旨が変わってきた。
両親が離婚した子どもの心のケアが遅れている日本で、法改正は必要で意義のあることだが、どうしても「戦いの構図」が生まれてしまう。

「前妻に身ぐるみ剥がれる自分だが、娘たちを健康で心優しい人間に育ててくれた彼女に感謝している」
キースさんのこの言葉を、母親の側に立って深く味わってみたら、ある気づきが得られないだろうか。
少なくとも私が逆の立場だったら、心の傷が癒え始めた頃、次のように語り始めるだろう。

「前夫とは残念ながらうまくかなかったが、彼がいなかったら、私の宝であるこの子を授かることはできなかった。
 まだまだ許せる気持ちにはなれないが、感謝している」

(2008/2/7)

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