<それを使う暇なし>

A家の庭仕事をお引き受けするだけの暇が、ないわけではないのですがねえ。
でも、やっぱりお断りします。

そんなに働くことだけに時間を使っていたんでは、
よし収入が増えたとしても、
それを使う暇なしということになるからね。

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つぶやき:

英国コミュニティ・ライフ」より。

ロンドン郊外に住む著者の森嶋さんの家に、庭仕事をしにくるTさんという老人がいた。
彼の見事な仕事ぶりに惚れ込んだ、森嶋さんの友人のAさんが、自分の家の庭もやってほしいと頼んだ。
森嶋さんからそれを聞いたTさんは、しばらく考えてから、上のように答えたという。

Tさんは典型的な英国人気質で、無理に仕事を増やすよりも、今の収入内で人生を楽しむことを選んだ。
それが彼の「人生哲学」だったのだろう。
実際Tさんは、夫婦でオンボロ車に乗って、テームズ河向こうに住む娘の家族を訪ねるのが楽しみだったという。

「収入を増やしてよい車に買い替えるよりも、今持っているものを活用する時間を増やすのが、彼にとっての豊かな生活であった」
と森嶋さんは書いている。

最近の私は、Tさんのような考え方にとてもひかれる。
書店やインターネットで全盛の、ビジネスやお金儲けの話題には、すっかり飽きてしまった。
お金持ちがうらやましいとか、まったく思わなくなった。

生活するための「手段」であるお金が、いつの間にか「目的」に変わっていく。
もともとの「目的」であったはずの、うるおいのある家庭にしわ寄せがくる。
本末転倒というやつだ。

たとえ年収何千万円になっても、忙しくて休む暇もないようでは、何のための人生かと思う。
人生とは「こなす」ものではなく、「味わう」ものだから。
金持ちよりも、「時間持ち」でありたい。

(2007/10/22)

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