<キックバック>

僕には自分でやりたいペットプロジェクトとか、監督になりたいとか、映画をプロデュースしたいとかいう野望は、特別ないんだよ。
誰かに雇われて演じる役を、自分にとっての最高のレベルで演じてギャラをもらい、ハワイ島の自宅に帰ってキックバック(くつろぐ)する。
それだけが僕の人生目標さ…。
あと、人にとって真夏のそよ風のような、真冬の暖房のような存在の人間になること…かな?

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つぶやき:

ドラゴン ブルース・リー物語」の主役、中国系ハワイ人のジェイソン・スコット・リーの言葉。
雑誌「日経ビジネス アソシエ」に連載中の、マックス桐島さんの「成功格言」より。
毎回クールなコラムに、ハリウッドで出会ったスターたちの言葉が英語で添えられている。

彼の言う「キックバック」という考え方は、現実生活から見ると実に興味深い。
都会に出稼ぎに行くものの、仕事そのものは好きで楽しんでいる。
労働が終わると田舎に戻り、美しい自然の中で、存分に自分の時間を楽しむ。

ハリウッドに限らず、ビジネス社会では「ラットレース(ネズミの競争)」に陥りやすい。
過酷なレースを勝ち抜いて地位とカネを手にすれば、人もうらやむVIP待遇。
出世バトルに落ちこぼれたら、いつまでも安い賃金でこき使われる。

成功しても、身も心も疲れ果て、虚しさを感じたり、反動で思わぬ不幸に見舞われることが多い。
いわゆる負け組は劣等感を抱きながら、カネを憎むほどますます貧乏になる。
いずれにしても、そのストレスは大きく、幸せ感からますます遠のいていく。

こういう世界で、東洋式処世術を貫く人は意外と幸せだったりする。
「求めない」ことで、いつも満足していて、時間の流れもゆったりとしている。
ジェイソンさんも、ハワイのスローな「アイランドタイム」を忘れない「アイランダー」なのだろう。

私も20代から30代にかけて、いわゆる「成功」を求めてガムシャラに活動した。
得たものも多かったが、失ったものもまた大きかった。
かつて追い求めたモノは残ったが、それを見て感じるのは虚しさ以外になかった。

40歳を前にカオハガン島に渡った。
何もないことが最高のギフトである空間で、今後の生き方についてじっくり考えた。
人生後半を迎えて、それまでの価値観をシフトチェンジした。

成功から、「成長」へ。
拡大から、「充実」へ。
当然から、「感謝」へ。
鋭さから、「安らぎ」へ。
テイクから、「ギブ」へ。
テクニックから、「マインド」へ。
頑張るから、「頑張らない」へ。

あれから3年が経過した。
人間はロボットじゃないんだから、パーフェクトに変われたわけではない。
まだまだ迷いもある。
それでも、あの頃よりはずっと心安らかな「今」がある。

隠遁生活をしながら、こんなノンキなことを書いているのではない。
日々私もまた、学校教育という多忙な現場にいる。
だからこそ、厳しいハリウッドの中のジェイソンさんの言葉が光る。
職場とプライベートでのライフスタイルを、自己再生3年目の今、しっかりと再確認した。

(2007/8/25)

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