<なぜ、あなたはここにいるの?>
私はその時、その景色を見ながら、あることに気がついてしまった。
私がそれまでの2年半、毎分毎秒を計画して、その通りに生きてきたその間、その景色は、その素晴らしさを毎日、毎日くり返していたんだということに。
そんな天国ともいえる場所が飛行機で数時間、それから未舗装の道を少し行った所にあったこと、そして、私はその存在にすら気づいていなかったことに。
そうすると、いきなり自分がすごくちっぽけな存在に思えてきてしまったんだ。
私が抱えていた問題、ストレスに感じていた物事、将来への不安、そんなものすべてが、完全に些細なものに思えてきてしまった。
私が自分の人生で何をしようと、いや、何もしなくても、それから私の判断が正しくても間違っていても、またそのどちらでもなくても、そこで起こっていることはずっと起こり続ける、私が死んでしまったあとも変わらず起こり続けているということに、気がついてしまったんだ。
私はそこに座り、信じられないような美しさと自然の雄大さに直面しながら、自分の人生はとても大きな存在の、とても微細な一片に過ぎないんだということに気づいてしまった。
その時、ある考えが私を打ちのめしたんだ。
「それなら、なぜ、私はここにいるのか?」
自分が大事だと思っていたことが、本当は大事でないとしたら、何が大事なのか?
私が存在する目的は、いったい何なんだ?
私はなぜここにいるんだ?
*****
つぶやき:
「なぜ、あなたはここにいるの?カフェ」より。
この一風変わった名前の喫茶店のマスター、マイクが客のジョンに語る。
「私にもかなり忙しい日々を送っていた時期があった。
夜学で大学院に通い、昼間は仕事をして、残った時間のすべてをプロの運動選手になるためのトレーニングにあてていたんだ。
2年半の間、私の人生のすべての時間は、スケジュール管理されていた感じだった」
マイクは大学院を卒業したとき、昼間の仕事も辞めて、その夏をまるまる休暇にあてた。
彼はコスタリカに旅行して、熱帯雨林をハイキングしたり野生動物を見ながら数週間を過ごす。
「そんなある日、私は海岸の丸太の上に座って新鮮なマンゴーを食べながら、その信じられないほど美しい海岸線に波が砕けていくのを見ていた。
その日の午後は暖かい海でボディサーフィンをして過ごし、もうその時は完全にリラックスして、日が沈んでいって、空が完璧な青からピンク、オレンジ、そして赤へと色を変えていくのを見つめていた」
なぜマイクの話に目が止まったかというと、実は私も、同じような風景の中で同じことを感じた経験があるからだ。
その場所は、40歳になる直前に、直感で衝動的に行った「カオハガン」という小さな島だった。
離婚という挫折と多忙な仕事でクタクタに疲れていた頃、気を紛らすように書店に立ち寄って本棚を眺めていた。
今でもその不思議な感覚を覚えているが、何万冊もの本の中から、まるで光を放つように私の目に飛び込んできたのが、
「カオハガンからの贈りもの」だった。
その表紙の写真と、帯に書かれた文章だけで、私は「この島に行こう」と決めたのだった。
「年収ゼロで豊かに暮らす―
小さな南の島カオハガン。
退職金で島を買い、50家族・350人の島民と暮らして14年。
ここにはお金やモノがなくても、自然と共に生きるシンプルでゆったりとした暮らしがあった」
1ヶ月後、私はコバルトブルーの海に囲まれた、小さな南の島にいた。
本に書かれていたことは、すべてが真実だった。
何もない、本当にちっぱけな場所。
しかし、その時の私に必要なすべてが存在していた。
毎日、燃えるような夕焼けが星の降り注ぐ夜空に変わるまで、小さな砂浜から海を見つめていた。
飛行機でたった5時間の場所に、こんな世界が存在していたことに、地球と宇宙の不思議さを感じた。
その時、私にも、自分自身に問いかける声が聞こえたのだ。
「なぜ、私はここにいるのか?」
島から戻って、すべてがパーフェクトに変わった?
それは事実ではないし、現実的でもない。
それでも、私の中で「何かが」変わった。
そのことに気づく前と、気づいたあと。
私の価値基準は、大きく変わった。
「なぜ、私はここにいるのか?」
と問う声も、聞こえなくなった。
(2007/4/11)