<スピリチュアル格闘家・試合後>

「しょうがないです。ここでいろいろ考えても結果は変わらないので、逆にここから学ぶべきことがあったんです。負けた時にしか学べないことってたくさんあるんですよ。だから“ああしとけばよかった”って考えるのは、人生においても意味がない。それを考えちゃうと、足に鉛をつけて生きているようなものです。自分はこれでいけると思ってやったことに対して結果が出たわけですから、それはそれで受け止めて前に進まないと」

「試合に関しては、すべてにおいて満足です。負けは負けですから。たとえば満足しなかったとしたら、これからの僕の人生には役に立たないですよ。満足しないのって、後ろ向きじゃないですか。人って勝った時は自分の手柄にして、負けた時は他人のせいにすることが多いですよね。そうじゃなくて負けた時にこそ、自分がやるべきことをやって負けたと思うようにするし、勝った時こそ練習仲間のおかげで勝ったと思わないと。僕はそうやってすべてうまくいっているし、この負けが本当に自分の人生を味わい深いものにしてくれたと思ってますからね」

「まだできるとは思いましたけど、あそこで止められようが続行になろうが、関係ないんですよ。もし続いていたら、僕が寝技で形勢逆転してたかもしれないし、もっと相手のパンチを受けて、それこそ意識がなくなるまでぶっ飛ばされていたかもしれない。だから仮定を話していてもしょうがないんです。僕の人生のテーマは魂レベルの成長であり、“人間としてどれだけ成長できるか”なので。それを考えると、“負けもまた真なり”。僕にとって負けも100%の栄養であって、“ああすればよかった”と考えていたら、栄養にならないどころか成長の妨げになる」

「何が良くて悪いかなんて、わからないですよ。あくまで“かも”ですけど、もし今回、淡白に勝っていたら、もう格闘技を辞めていたかもしれない。ちやほやされていい気分になるかもしれないけど、それが人間としての成長になるのかなって。逆に今回の負けをキッカケにまたやってやろうってなれば、僕の格闘技人生は味わい深いものになるじゃないですか。思い切り悔しがって、一晩寝れば僕は前向きになります」

「今回の大会に限らず、その時の自分の感情を大切にして、出たいと思った大会に出ようと思います。格闘技だけに限定せず、新しいことをやっていきたい。格闘技も芸術ですし、あくまで自己表現の場ですから」

「停滞や後退は許せないといった、ネガティブなものではありません。たとえば止まっているように見えるこのカップだって、原子レベルではものすごいスピードで動いている。だからこそ、ここに存在しているわけなんです。この宇宙に止まっているものはないし、人間の意識でも止まっているものはない。とらえ方によって物事は変わるんです。なぜならそれは自分が引き起こしたもの、だから僕はすべてをプラスにすることができるんです」

「勝てばお金も仕事も入ってくるし、人も集まってきます。でも、そこにはデメリットもある。自分の内側を見つめる時間が不足するんです。しかも、周りが僕にとっていいことしか言わなくなりますから、そこでいかにおごらずにいられるかが大変なんですよ。どんなに気をつけていても、勝ち続けていると、いつの間にかおごりのある自分がいるんですよね」

「逆に、負けたときに得られたものは、内観することの大切さを再認識できたことです。勝ってたくさんの物質に囲まれてしまうと、直観の声、魂の声が聞こえなくなるんですよね。目に見えないものを感じられなくなるんです。でも、負けると自分の周りが少し静かになるので、瞑想に時間を多くとれますし、見えてくるものもよりクリアになります。人にどう見られるかということが本当にどうでもいいことだということも、改めて実感できました」

「株価のグラフは常に上がり下りをくり返しますよね。では、負けて落ち込んだとき、グラフは何を意味するか。そうです、上向きの兆しを意味するんです。負けたときはこうやってグラフを眺めたりして、人生を俯瞰するチャンスでもあるんですよね」

「アイスコーヒーを飲むことによって、ホットコーヒーの味がわかるでしょう。下を知ることによって、上というものを知ることができる。この世は相対でもって存在していますからね。だから負けたことで、価値の喜びを味わい深く感じられるようになりますよね」

「終わったことに対していつまでも不満を抱き、それについてずっと思考を巡らせているというのは、“今”この瞬間というリアルを無駄にしているのと同義ですもんね」

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つぶやき:

「弱いから負けたんです」
敗者となった勝負師からよく聞かれる、シンプルな言葉だ。
須藤元気さんのようなコメントを語る格闘家は、まずいないのではないか。

大晦日の試合(HERO'Sミドル級世界最強決定トーナメント決勝戦)で、ちょっと不本意なレフェリーストップで、1ラウンドKO負けを喫した。
同じ成幸哲学の流れを持つ者として、結果うんぬんよりも、むしろ負けたときの彼のコメントを聞いてみたかった。
さすがだと思った。

(2006/2/2)

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