<空手ミニマム> 時津賢児
人間は横着なもので、自分の都合のよい判断をしがちなものだということを、私は自分の体験で知っている。
一日も欠かさずに毎日稽古するというのと、ほとんど毎日やるというのは内容は似ているようだが厳しさの度合いは全然違う。
毎日やるといいながら、1年間を見ると土日は何度か休んでいるものだ。
長年の内には風邪で熱を出すこともあるし、怪我もある。
家族や友人にとっておめでたいこともあれば不幸もある。
生活の中に生じるそうした波風は、稽古を休むための恰好の口実となる。
かつて巻藁の左右千本突きを自分に課していた頃、私はそのことに気付いた。
毎日やると願を立てたくせに、熱のある時は休んでいるではないか。
苦しい稽古を長年続けていく上では最大稽古量に目を付けるよりも、最低稽古量を絶対に守ることの方が現実性がある。
私の経験では「どんなことがあっても」5分間は必ず稽古するということの方が、週日はほとんど毎日8時間稽古するということよりも難しかった。
高熱を出して倒れた時には稽古をやる気などまず出てくるものではない。
そんな当たり前のことに気付いてから私は「空手ミニマム」という言葉で自分の毎日を見直した。
これは「どんなことがあっても毎日5分間」は必ず稽古するというものだ。
「たった5分間」という言葉は「毎日必ず」という条件を付けることによって光って来る。
たった一日欠かしただけで、この願はゼロに帰するのだ。
このように、苦しいことは何とか口実を作って怠けがちになるという自分の弱さを自覚しているので、私は立禅(※)メモを毎日とることにし、どんなことがあっても立禅をやらなければ、寝ないという願をかけた。
※立禅・・・武道修業のひとつで、ただひたすら立ち続ける禅。体の内部は四方八方へと「氣」が動いており、武的な体と精神を練るために行う。
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つぶやき:
文武両道の空手家、時津賢児氏の「自ら成し、自らを成す武的発想論」(福昌堂)より。
時津氏は一ツ橋大学卒業後フランスに渡り、たった一人で空手の修行に打ち込み、現地で本を出版して自流の空手を起こした。
修行時代のエピソードに、「少しでも毎日やる」ということの意味を深く考えさせられた。
毎日5分運動したら、この世から肥満体はなくなるだろう。
5分間で脂肪が燃えるというわけではない。
運動しているという意識が体を引き締め、食生活まで変えてしまうのだ。
毎日5分英語を学習したら、この世から英語を使えない人はいなくなる。
5分間でペラペラになるわけではない。
英語を学習しているという意識がアンテナとなって、英語脳が発達するのだ。
「ATANA(エイ・ティー・エイ・エヌ・エイ)」という言葉がある。
“All Talk and No Action”(口ばかりで行動が伴わない)の略だ。
成功法則や幸せになる秘訣、英語学習法、ダイエットについてお勉強するのは、今日で終わり。
いつまでも情報を集めていないで、今日からたった5分間、体と頭を動かそう。
(2004/8/29)