<武蔵>
武蔵(たけぞう)。
戦うというのはな、敵の刃が己を貫いたその刹那でさえ、生きる。
最後の最後まで、どんなに追いつめられても、生きようと思え。
死ぬな。
生きろ。
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勝つことは、人を止める。
負けることは、人を進める。
おぬしが法蔵院で勝ったことが、己の太刀筋を決め、それをわしに読まれた。
竹刀を構えているときに、鳥の声が聞こえたか。
勝負の最中に、風の音を聞け。
昔、そう教わった。
わしがあのとき負けておらねば、師の言葉の意味を、心の底から理解することはできなかっただろう。
風の音、鳥の声、水の味。
それを知らずして、ただ剣の腕だけを磨いても無意味だぞ、新免武蔵。 (柳生石舟斉)
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何のための刀です?
私が研いでも、お役に立ちません。
戦うための刀を、研ぐ気がないからです。
戦とは無縁の、戯れ者の言葉とお受け取りください。
人を殺めるのではなく、人の心を打つ、そんな刀を作り上げたい。
刀に美しさを与え、人を切ることを拒ませる。
それが私のめざすところなのです。 (本阿弥光悦)
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身の欲しさに、己の誇りを捨てようとは思いません。
私は、私の武芸で生きてゆきます。
大樹の陰で、風を避けようとは思いません。
己の心を曲げるくらいなら、一生、雨に打たれて生きてゆきます! (宮本武蔵)
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つぶやき:
NHK大河ドラマ「武蔵」から。
晩年まで武芸だけでなく芸術に精通し、「五輪の書」を遺した文武両道の具現者である宮本武蔵は、坂本龍馬に並ぶ私の英雄だ。
ドラマとはいえ、剣の手合わせのシーンには、武道の奥義である「脱力」が見事に描かれていて、感心した。
それに加えて、武や芸の道に生きる漢(おとこ)たちの含蓄ある言葉にも心を打たれた。
上にあげた以外にも、追われている者をかくまったがために襲われても、「これも浮世の巡り合せだ」と受け入れて闘った医者の覚悟など、印象に残っている場面は多い。
お通のような一途な女性との縁も、うらやましいところだ。
「あの人(武蔵)は、今ごろ独りで強がって雨の中を歩いているような気がする。私は、あの人に言いたいことがあるんです。人は一人で生きているんじゃない。あなたには、私がいると」
(2004/1/24)