<祝婚歌> 吉野弘

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気づいているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい

二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい

立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったりゆたかに
光をあびているほうがいい

健康で風にふかれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい

そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

*****

つぶやき:

「鋭い」ことは、「鈍い」ことよりも優れていると思われがちだが、果たしてそうだろうか。
敏感すぎるために必要以上に気にさわって、相手を許せなくなることもある。
生まれも育ちも違う二人が暮らしていくには、ほどよい「鈍さ」が必要だった。

「人は判断力の欠如によって結婚し、忍耐力の欠如によって離婚し、記憶力の欠如によって再婚する」
そんなジョークがある。
しかし多くの人は、またあの温かい窓の明かりを求めて家庭をつくろうとする。

離婚する前に、読みたかった詩だ。
結婚する前に、味わってほしい詩だ。

(2004/1/13)

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