<長生きをするには> 中村天風

人間としてひとたびこの世に生を受けた以上は、どんな人間でも長生きしたと思うのは当然だが、長生きしている人は少ない。
また、どうやらこうやら生きていても、80を超すと生きているのは名ばかりという人が多い。
それは結局、命を完全に生かさないで、生きる力を妨げる原因があることを気がつかないで生きているためであると、遠慮なく言いたい。

長生きをしたかったら、何よりも生存力、生きる力を強固にすることを考えなければならない。
しかし、現代医学では、そういう方面のことは研究しない。
長生きの秘訣は何を食べるか、何を飲むかと考えて、肝心かなめの基本的なものを考えていない。
だから医学を研究する医者で、長生きしていない人がけっこういる。

さて、その基本的なものとは何か。
たぶん、言ったら、なんだそんなことかと思うだろう。

まず、第1は心を積極的に保つ。

いかなる場合があっても、心を積極的に持つ。
どんな状態であろうと、明るく、ほがらか、生き生きとした、元気で旺盛な状態を堅持しなければならない。
できそうにない相談のように考えられるかもしれないが、心を消極的にして、神経過敏的な、気の弱い、悲観的な心持ちを持っていたら、どんなことをしても長生きはできない。

腹が立つから怒るんだ、悲しいことがあるから泣くんだ、寂しいことがあるから悶えるんだ、気にさわることがあるから夜寝れないんだ、といったことをやっていてはだめ。
そんなことをしていると、神経系統が萎縮してしまう。
そうすると、生きているのは名ばかりという結果になる。

だから、何があろうと積極的に心を保つ。
これが最初だ。

第2は、血液とリンパを良好に保つ。

理想的な血液とリンパは、「弱アルカリ性」でないといけない。
血液がアルカリ性であれば、強烈な殺菌力を持っているから、風邪はひかないし、頭痛もしなければ、肩もこらない。

血液を弱アルカリにするには、食べ物に気をつける。
どんなものを食べればよいかというと、一口で言ったら、できるだけタンパク質を植物性のものから取る。

人間の細胞の主成分は水分、その次にタンパク質。
タンパク質は大切な養分だが、動物性のタンパク質を取ると、消化される際、尿酸という酸ができる。
それが血液の中に入って、膠(にかわ)のように血液に沈殿して、動脈硬化を起こす。

結核になったときに、とにかく栄養をとらなきゃいけないと、肉を毎日30目(約100g)、卵を毎食2個、牛乳を日に6合とった。
すると半年位して、全然よくならないばかりか、血圧が160から170くらいになってしまった。

すると、診る医者がみんな、そういう体質だからと言う。
今の医者でも、食べ物のせいだとは言わないんだから、その当時の医者が、食べ物のせいだとは言わない。

それが偶然の因縁で、インドの山奥に行った。
5000年前から、ヨーガの哲学を研究している部落がある。
そこでは、米は砂糖と醤油を買い入れる交換条件にしているだけで、米は絶対に食べない。

主食はカナリアが食べる「ひえ」。
ひえを生で水に漬け、口の中にすすり込む。
そしておかずはというと、芋やゴボウ、大根など。

動くものは食べない。
魚も食べない。

最初は情けない気持ちで、食べるものがないから、腹が減って仕方なく食べたんだが、食べるとだんだんそれが美味しくなってくるから不思議なもの。

もっとも、果物は野山にたくさんあるので、それは自由に食べていい。

そうして3ヶ月もすると、不思議なことに、結核になって8年間毎日、午後になると38度くらいになっていた熱が出なくなった。

その当時は、食べ物のためだと思わなかった。
この山岳のきれいな空気で体が丈夫になったんだなーと思っていた。

そのうち、ぐんぐん体に肉がついて、半年したら、すっかり治った。
もちろん、食べ物のせいだけではない。
教えられて心の持ち方がしっかりしてきたこともあるが、食べ物の影響も大きい。

だから、タンパク質をできるだけ植物性のものからとるように。
とにかく長生きしたかったら、野菜と果物をよけい食べるように。

第3は、適度な睡眠、運動、性生活。

不足しても、過ぎてもすぎてもいけない。
その人に合った、快適な気持ちを感じる程度に行うこと。

第4は、皮膚の抵抗力を持たせる。

皮膚に抵抗力を持たせるために、せめて、朝冷水まさつをしたらよい。
私はおよそ、10分くらい水風呂に入る。
そこまでやりなさいとは言わないけど、冷水摩擦くらいできる。

夜寝る前にもやるといい。
そうしたら、風邪をひかなくなる。
人間だから風邪をひくのは当然だ、なんていうのは間違いだ。

第5は、折りあるごとに深呼吸をする。

深呼吸をするときに大事なことは、まず出しておいて、それから吸い込む。

以上、長生きをしたい人に直接的な参考になることをお話した。

*****

つぶやき:

注目すべきは、第2のポイントだ。
一昨年にベジタリアン的な食生活に変えたところ、それまで病弱だった体質がすっかり改善されてしまった。
武道スポーツをやっているので、肉を食べないと強くなれないような気がしていたが、野菜と果物中心の食生活で、筋力的な衰えはまったく感じなかった。

ベジタリアンの語源は、野菜(vegetable)ではなく、ラテン語で「生命力や活力に満ちている」という意味のvegitusに由来している。
多くの有名な知識人やスポーツ選手が、ベジタリアンとして名を連ねていることを知った。
ライフスタイル革命」と「常識破りの超健康革命」は、健康に長生きしたいすべての人の必読書だ。

それにしても、この時代に菜食主義を説いていたとは、さすが中村天風さんだと感心する。
他の4つのポイントも、確実に的を射ている。
第1の「気」と、第5の「酸素」は、意外と見落とされているものだ。

これに「水」をたくさん飲む、ということが加われば、ほぼ完全な健康法となるだろう。

(2004/1/12)

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