<いきなりの結論>
私の英語力は、まだまだ未熟である。今いきなり英検1級の試験を受ければ、まずまちがいなく落ちるだろう。
何の準備もなく国際会議の通訳などやらされたら、呆然と立ちつくしてしまうのは明らかだ。
字幕なしの映画や英語の歌詞など、かなり気合を入れて聞いてもすべては理解できない。
英字新聞や雑誌、本などは、よほど興味のある分野でないと辞書なしには読めないのが実情だ。
しかしそれでも、長年英語教師をやっていると、「どうしたらそんなに英語ペラペラになれるんですか?」と、生徒に聞かれることがある。
私には海外留学の経験がない。英才教育も受けていない。
普通に中学校から英語の授業を受けて、あとは独学でマスターした。
どうやって英語を使えるようになったかは『ナイン・トラックス』(鉱脈社)という本に詳しく書いたので、ぜひ読んでみてほしい。
結論を先に書いておこう。
英語を普通に使えるようになった今、私は英語習得の秘訣をつかんだ。
あっけないほど単純なことだ。
「膨大な量の英語を聞き、読み、暗記作業を続けながら、書き、話す練習をくり返すこと」。
これがすべてだ。
真理は常にシンプルなものである。
(2000/2/17)
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<何時間やったら英語が話せるか>
英会話の教材は、無限といってもいいほど多くの種類が売られている。
英会話学校の宣伝も、派手にやっている。
みんな、英語のためにたくさんのお金を使っている。
しかし、それらの方法で英語を話せるようになった人に、私は会ったことがない。
なぜだろうか。
それは、「英語の量と時間が絶対的に不足している」からだ。
私の娘は、3歳になった頃には言葉が話せるようになっていた。
この事実から、「外国語を3年間やれば日常会話ができるようになる」ということを、ひとつの大ざっぱな基準と考えていいのかもしれない。
娘の場合、1日8時間の睡眠をとったとしても、残り16時間を3年間日本語に接して過ごしたとすると、合計17520時間ということになる。
この時間は、仮に私たちが1日2時間英語を学習したとしても、8760日、つまり24年間もかかる計算になるのだ!
ちなみに、中学校3年間で受ける英語の授業数が約350時間、高校が408時間といわれる。
合計しても、たったの758時間だ。
日数にして約32日間、わずか1ヶ月。
これに週回程度の英会話学校を加えても、17520時間という世界にはほど遠い。
だから、「中学校から大学まで10年以上も英語を学ぶのに、話せるようにならない」という批判を、私は笑って聞き流している。
英語を本気でモノにしようと思うのなら、まず何よりも、英語に接する量と時間を飛躍的に増やせ!ということになる。
(200/2/17)
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<留学しなくても英語は話せる>
留学したら英語ペラペラになる、と信じている人が多い。
必ずしもそうとは限らないのだが、ナマの英語に接するという意味では、メリットは大きいだろう。
また、実際の生活の場面や外国人と話す中で印象づけて英語を覚えていくので、よく身につくともいえる。
しかしその2点に限っていえば、日本にいても同じような効果を得ることも十分に可能なのだ。
要はやる気。
一日の生活の中で、英語に接する機会や時間を増やす工夫をすればいいのだし、印象づけて覚えるという意味では、自分から外国人に話しかけてみたり、英会話学校に通う方法もある。
私が実践しているのは、生活の中に英語に触れる「しかけ」を作って、英語学習を完全に習慣化してしまう方法だ。
朝、タイマーで始まる英語のテープで目をさます。
家を出るまで、そのまま1時間ほど英語がBGMになる。
車に乗ってエンジンをかけると、自動的に別の英語のテープが流れはじめる。
これを帰りもやるので、毎日最低2時間は英語を聞くことになる(英語教師としては恥ずかしい数字だが)。
仕事中にちょっとした空き時間ができると、単語を暗記したり、英文を読んだりする。
わざわざ時間をつくるのではなく、たとえば会議が始まるまでの数分間を有効に利用するのだ。
そのために、私のポケットにはいつも小さくたたんだ英語教材のコピーが入れてある。
生活の中に「留学環境」をつくることをお勧めする。
(200/2/17)
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<英語学習精神論>
英語をマスターできないのは、「自分には必ずできる!」と信じていないからだ。
絶対にマスターしてやるぞ!という気迫が体内にアドレナリンを噴出させ、脳細胞を活性化させる。
方法論よりも、むしろ心構えのほうが大切なのだ。
そのためには、多少の困難には負けない、いや、打ち勝つことのできる強烈な動機が必要となる。
「英語が三度のめしより好き」という場合はともかく、それ以外の動機として自分に何があるのか、じっくり考えてみよう。
「仕事や生活のためにどうしても必要」という人は、ラッキーな人だ。
崖っぷちに立たされたときこそ、人間の潜在能力が発揮される。
資格試験や入試へのチャレンジも、かなりいい動機づけになるだろう。
英語ペラペラである自分の理想像や、英語を使って国際的に活躍することへの憧れなどは、目標がまだまだ抽象的なので、途中で挫折してしまう人が多いようだ。
目標とは、できるかぎり具体的に、針の穴ほど絞り込んだときに達成できるものなのだ。
人によっては、マイナスの感情を利用することもできるだろう。
怒り、悲しみ、悔しさ、寂しさといったエネルギーのすべてを、英語学習にぶつけるのだ。
年齢が高くても、英語学習には何ら問題がない。大人としてのさまざまな知識や経験、思考力を生かして、若者とは違った流派の英語ユーザーになることができる。
マイナスの条件をプラスに転嫁させる。ピンチのときこそチャンス。
英語を学ぶことで、また新しい世界との出会いが生まれる。人生、前向きにいきたい。
武道の修行と同じく、何かを習得すると決意した以上、練習がキツイのはあたりまえのことだ。
しかしそのキツさが、一歩一歩確実にあなたを目標に近づける。
「楽しい」学習法とは、「楽な」学習法とは異なる。
勉強すればするほど成果が目に見えて、ますます楽しくなってくるというパターンが理想的だ。
(200/2/17)
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<英語脳をつくる>
NHKの科学番組でも紹介されていたが、日本人が英語を聴くときに脳の中で反応している部分は、日本語を聞くときに反応する部分とはまったく別であることが、すでに証明されている。
これを仮に「英語脳」と名づけよう。
英語脳は、もともとは機能していないものなので、英語を練習していない人が英語を聞くと、ただの雑音にしか聞こえないわけだ。
しかしある一定以上の量の英語を耳から脳を通過させると、少しずつこの英語脳が発達してくる。
英語学習とは、大量の英語をインプット(聞く・読む)することによって英語脳を形成し、アウトプット(書く・話す)ができるようになる過程だ。
その絶対条件は、「継続的な大量・無限のインプット」である。
その努力なしに外国語をマスターすることはできない。
くり返すが、目標のある努力は楽しいものだ。
たとえて言えば、小さなスプーンで1杯ずつ風呂の湯ぶねを満たそうとするようなものだろう。
途中でいくらか蒸発もする。それでも根気よく入れ続ける。
気が遠くなるほど長い時間がかかりそうだが、いつかは必ず湯ぶねはいっぱいになる。
そして、そこからあふれはじめた水こそが、あなたが自由自在に話せる英語である。
湯ぶねにたまった水は、英語を使うための単なる前提にすぎない。
これだけは言えるが、あせってバケツでざるに水を入れることをくり返しても、いつまでたっても英語は使いこなせるようにならない。
大人の人ならわかると思うが、人生にそんな「うまい話」などあろうはずがない。
(200/2/17)
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<映画で英語表現コレクション>
英語の「継続的な大量・無限のインプット」とは、なにも机に向かっての勉強だけとは限らない。
私の趣味なのだが、休日になると映画館に洋画を見に行ったり、自分の部屋で珈琲を飲みながらCDを聴くのも、やり方によっては立派な英語学習になる。
気に入った映画については、私は必ず英語・日本語対訳のシナリオを買うことにしている。
小説を読むのは正直言って苦痛だが、映画を見たあとでシナリオ(俳優のセリフと場面の説明)を読むのはとても楽しい。
感動した場面の名セリフはもちろん、いつか自分が使ってみたい会話表現も次々に出てくるので、それらをノートに書き込んでいく(私は本に線を引くことはしない)。
このノートには、気に入った英語表現と出会った順番に、どんどん書き加えていくだけだ。
単語・熟語・文・内容などの区別はせず、ごちゃまぜにしておく。
そのほうが続くし、あとで見返して覚えるときに、それらの英語表現との出会いの過程やそのときの状況などが思い出されて、かえって記憶に残りやすい。
場面と英語表現がうまくリンクすれば、かなり難しい英単語でも予想以上に記憶に定着するものだ。
必要があれば、日本語訳や発音記号などのポイントを記入するのもいいが、作業はできるだけシンプルに終わらせたい。
なぜなら、目標はすばらしい英語表現ノートを作ることではなく、英語表現を覚えていくことにあるからだ。
このノートはどこにでも持ち歩き、ちょっとした時間に開いて活用する。
持っているだけでも、「自分は英語をやっているのだ」という意識づけに役立つ。
英語の歌については、極端に言えば意味が正確にわからなくても、聴いて、歌詞カードを見ながら、CDといっしょに英語っぽく歌えれば十分だと思う。
それだけでも英語の音のつながりなど、けっこういい練習になっている。
カラオケに行ったときも、何曲かのうち1回はテレずに英語の歌を入れてみるのもいい。
洋画の対訳シナリオは、日本で出版されていてすぐ手に入るのは、「スクリーンプレイ社」と「愛育社」だろう。
最近は「アルク」も頑張っている。
古い作品からごく最近ビデオがレンタル開始になった映画まで、数多くそろっている。
特にスクリーンプレイ社は、映画のセリフだけを標準スピードで読んだテープも発売しているので、リスニングも同時に練習できる。
現在私が読んでいるシナリオは、「ノッティングヒルの恋人」と「シックス・センス」だ。
[補足]
対訳シナリオについては、DHCの「完全字幕シリーズ」もユニークな構成になっていてオススメだ。(2001/8/14)
(2000/3/11)
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<英語表現ノートの工夫>
内容を分類しない理由はすでに書いたが、その英語に出合った場面もまた区別せず、ひたすら順番に書いていく。
映画のセリフ・曲の歌詞・新聞・雑誌・本・テレビ・ラジオ・外国人との実際の会話など、その気になれば出会いの場はいくらでもある(残念ながら異性との出会いは別らしい)。
出会った順番に並べていくメリットに興味のある人は、『「超」整理法』(野口悠紀雄著/中公新書)を読むことを勧める。
それぞれの英語表現には、1から始まる「通し番号」を打っておくと何かと便利だ。
今いくつ覚えたと励みになるし、「1000個達成記念」などと称して自分にごほうびを買うのもいい目標になる。
武道でもそうだが、試合や昇段審査に向けての練習にはやはり気合が入る。
目標がないのは、ゴールのないマラソンと同じで、どうしても本気でやろうという気持ちにはなりにくい。
その意味で、このノートはたとえば「英検1級に合格するための武器」くらいに考えてほしい。
英語をマスターしたいなら、効果的な方法を探し求めるよりも、目標達成へ向けての強い信念を固めるほうが先決だ。
そして、「質より量」。ひたすら量をこなしているうちに、自分なりに工夫するようになり、自分にとっていちばん適した学習法が見つかる。
あまり最初からハウツーものにこだわらないことだ(自分の反省も含めて)。
「ハイブリッド英単語暗記法」でも書くつもりだが、せっかく覚えた英単語や会話表現は、実際の場面では3秒以内に思い出して使いたいものだ。
そのトレーニングとして、できればこの英語表現ノートのカセットテープ(またはMD)を作りたい。
私の場合は、お礼に食事を約束して同僚のアメリカ人に頼み、ノートに書いた英語表現を約3秒ごとに録音してもらっている。
通勤途中の車の中でそれを聞きながら、次の英語が出てくるまでの3秒間に、パッと意味を思い出す作業だ。
逆に日本語だけを自分で録音し、英語を思い出すというパターンでもいい。
3秒後に正しい答えを入れておくなど、工夫すればいくらでも方法は考えられる。
(2000/3/12)
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<DVDの活用>
最近、洋画のDVDにハマっている。レーザーディスクのCD版といったところで、その性能はビデオとは比べものにならない。デジタル画像と音の美しさはともかく、英語学習者にとっては見のがせない機能が満載なので、ぜひ今すぐ購入して活用してもらいたい。プレーヤーは2万円台からあり、ソフトはビデオ屋でレンタルできる。
音楽のCDと同じように、映画の中の各場面に瞬時にスキップすることができるので、いちいちテープの早送りや巻戻しをしなくてすむし、同じシーンの会話を何度もくり返して見ることができる。ピクチャー・サーチも早さを選ぶことができ、スムーズにいく。
なんといってもすばらしいのが、字幕(英語or日本語)と音声(英語or日本語)を自由に組み合わせられること。再生しながらでもオーケーだ。リアルタイムで切り替えられるので、あとでシナリオを読むよりもライブ感覚で英語が学べるのだ。
たとえば、最初に普通のビデオと同じパターン(音声は英語、字幕は日本語)で映画を楽しむ。次に、音声も字幕も英語にして、目と耳を英語に集中させる。気に入った表現が出てきたら「英語表現ノート」にメモをとる。最後に、字幕を消して英語の音声だけで映画を見る。
初心者の人なら、英語音声と日本語字幕で見ながら、気になる表現が出てきたときにだけ、字幕を英語に変えてもいい。また、最初から最後まで通すのが苦痛なら、好きな場面だけを使ってもかまわない。そのほかにもいろいろな工夫が楽しめると思う。
映画で英語を学ぶときのポイントとして、お気に入りの映画を1本だけ選んでソフトを購入し(3〜4千円台)、それを何度もくり返して見ることを勧める。私なら大学時代から見続けている「フラッシュダンス」、この映画ならセリフはもちろん、登場人物たちの表情やしぐさまでコピーできるくらいだ。
[補足]
洋画DVDの中には、日本語字幕だけで英語字幕なしのものもあるので、買うときには注意が必要。
パッケージの裏に音声や字幕について表記してある。(2001/8/14)
(2000/7/2)
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<MDの活用>
DVDと同じように、MDプレーヤーも、そろそろウォークマンと代わって有効に使いたいグッズだ。
録音のできるCDという性能(音がよくスキップやサーチも簡単)に加えて、カセットテープやCDに比べてかなり小さくて薄いので、一度使い始めると手放せない。
このMDに英語の音声教材を録音して、常に持ち歩いて「継続的な大量・無限のインプット」を実行する。
さらに、今聴いた英語をすぐに口に出してリピートすると効果は倍増する。
この単純なくり返しこそが、日本にいて英語をマスターするための秘訣であり、最低条件なのだ。
この単純かつ本物の英語学習法を、多数の著書で有名な松崎博さんが『Listen & Repeat 使える英語を身につける』(The Japan Times)というCD付の本にまとめている。
たいへんすぐれた内容なので、ぜひ購入されることを勧める。
(2000/8/13)
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<英語はじめの一歩>
「精神論はわかったが、では具体的に何から始めたらいいのか」「DVD活用など、よどほどの英語好きでないと実際にはできない」「もっと初心者向けの楽な方法はないのか」などのご意見を読者の方からいただいた。
そこで今回はズバリ、私の初心者時代の経験から究極の方法をご紹介する。
これを実行して英語力がつかなかったら、私はこのHPをやめてもいい(そのほうが楽だから、実力がついてもやめていい)。
「NHKラジオ「基礎英語」(1・2・3)、のうちいずれかを1年間、完全に暗唱できるまで徹底的に聞き、音読する練習をする」
なあんだ、そんなことか。そう思った方もおられるだろう。
しかし何を隠そう、私の英語力を支える基礎のすべては、中学1年生の1年間で「ラジオ基礎英語」を完全暗唱したことだけなのだ。
ただ番組を聞いただけではない。
同じ教材を何度も何度もくり返し音読して、本文(長くない)を完全に覚えてしまったのだ。
このわずか1年間の修行が、あなたの頭と体に英語という言葉の核を刻み込んでくれる。
意味としくみのわかった英文を徹底的に聞き、音読をくり返すことで、あらゆる英語に対応できる基盤が身につくのだ。
この前提があれば、その後のあなたの英語とのかかわり方はお好み次第である。
みなさんは、世に氾濫する英語教材の情報にふり回されすぎている。
ネットサーフィンならぬ教材サーフィンに金と時間と労力を費やすのは無駄なことだ。
「1つの教材に徹底的にこだわる」ことの深い意味を、ぜひ体験してほしい。
今「英語の達人」と言われる人たちが英語を学んだ時代には、学校の教科書くらいしか教材はなかった事実に早く気づいてほしい。
英語を身につけるのに、何も特別な方法などない。
ただ練習あるのみである。これは武道でもスポーツでも楽器でも同じ。
また精神論に傾いてしまうが、英語を使いこなせるようになるために唯一大切なのは、継続するということだ。
継続するために必要なものは目標(夢)。
そしてその目標にがむしゃらに向かっていく情熱。
はっきり言って、学習法など二の次なのだ。
英語学習には多額のお金をかけなくていい。
これも私の持論である。
高いお金を支払ってあやしげな英語教材を買わされたり、いかにも夢を与えるようなコマーシャルにひかれて英会話スクール(私は学費前払いやチケット制の大手英会話スクールに疑問を持っている)に通う必要はない。
目標さえあれば、初心者はNHKラジオ基礎英語で十分。
いや、そちらのほうが100倍力がつく。
テキストなんて、1ヶ月たったの300円台ですよ!
目をさましてください。
ちなみに、英会話学校に週1回、2時間ずつ通ったとしよう。
月に8時間、年間96時間。日数にして、年間わずか4日間!(爆笑)
実際の授業では、仮に5人の少人数クラスとしても、実際に自分が英語を話す時間は5分の1。
支払う学費は数十万円!(涙)
私を雇って数日間海外旅行してもらったほうが、よほど実力をつけてさしあげるのですが…。
(2000/8/13)
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<迷いを捨てよう>
「テープを聞き流すだけで英語ペラペラ!」という派手な広告が新聞や雑誌をにぎわしており、この教材についての質問をよく受ける。
答える。
あれだけの宣伝を継続して流せるのだから、それだけだまされる人が多いのだろうなあ、ということだ。
もし本当に聞き流すだけで英語ペラペラになれるなら、私は100万円出してでも買うし、ひょっとするとノーベル賞さえ与えられるかもしれない。
今ごろはすべての教材も英会話スクールも姿を消しているはずだし、そもそも私がこんな文章を書く必要もない(笑)。
そういえばかつて、某有名外国人俳優の吹き込みということでボロ儲けした教材があった。
彼の似顔絵入りの広告を見ると、スリルと興奮の渦に巻き込まれながら飛躍的に英語力がつくような錯覚を起こさせるが、あの教材で英語ペラペラになった人、ご存じですか?
私は知りません。
ちなみに、私はこれら2つの教材を買ってしまった人から貸してもらって、実物をチェックしたうえで書いている。
ごく普通の教材にすぎない。
とにかく今の世の中、自分は努力しないでお金だけでなんとかしてもらおう、という甘い気持ちが蔓延している。
英会話をはじめ、ダイエットしかり、エステしかり。
ネズミ講にはまったり、ウソに決まっている高額な商品をだまされて買う人が多いのに驚く。
あれだけ新興宗教の詐欺行為が摘発され、世間を騒がしているではないか。
なぜその矛盾に気づこうとしないのか。
職業柄、個人的に「英会話を教えてください」と気軽に頼まれることが多い。
断っている。
プライベートな時間まで仕事をしたくない(笑)という理由もあるが、「はい、お金払うから(ひどい場合は友だちなんだから)私を英語ペラペラにして」という態度そのものが好きではないからだ。
自分は努力や苦しい思いをしたくないけれど、「やせさせて」「美しくして」「幸せにして」なども同じ。
その甘い願いはまずかなうことはないだろう。
ついでにこの場を借りて、みなさんにお願い。
私を通訳や翻訳家として使うのはやめてください(笑)。
私は英語便利屋さんじゃありませんよー。
でもこれは、私の英語力がまだまだだということの証明だと反省している。
本当の達人や名人であるなら、たとえ上司や年上であってもそう気軽には頼めるものではないから。
その代わり、前項で私が提案した
「NHKラジオ「基礎英語」(1・2・3)、のうちいずれかを1年間、完全に暗唱できるまで徹底的に聞き、音読する練習をする」
を確実に実行してきた方には、私は喜んでお教えするし、英語を学ぶ仲間としておつき合いさせていただく。
英語学習サークルをつくってもいい。
結論。
英語力は風邪のように「うつる」ものではない。
魔法もかけられない。
自然に「身につく」ものでもない。
努力して「身につける」ものである。
ニセモノ教材の体験談はすべてヤラセ。
邪心を捨てよ、迷いを断ち切れ!
これほど言ってもわからない人は、私が企画した次の教材を買ってください。
「ただ見ているだけで、あなたにもジャッキー・チェンと同じ飛び後ろ廻し蹴りがマスターできる!
アメリカ大学のJackie@文武庵博士が独自の理論に基づき製作した、画期的なビデオ!
1週間でブロックを粉砕!
半月で20人相手の乱闘に大勝利!
1ヶ月でハリウッド映画デビュー達成!
ビルから飛び下りても無傷!」
「ビデオのお値段は100万円。
高い?
何でも考え方ひとつです。
分割払いOK、月々わずか5000円、月に1回飲みに出たと思ったら安いもの!
あなたが迷っている間にも、みんなどんどん達人になっていますよ!
さあ、あなたも幸せな人生へチャレンジ、勇気を出してここに印鑑を押して!」
(2000/8/15)
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<英語学習に王道なし>
数年前、私の職場のある人から「英会話ができるようになるには、どうしたらいいでしょうか」と聞かれた。
私はそのとき、例によって「まずはNHKラジオ基礎英語を1年間〜」とアドバイスした。
しかし留学の経験もある別の人から「ダメダメ、そんな教科書英語みたいなやつでは」と言われたらしく、英会話学校に通ったり、いろいろな英会話教材を買っていたらしい。
その結果はどうか。
彼はいまだに私に「いいですねえ、英語が話せて…」などと言っている。
いったい、コツコツと何年間か練習をして、ある程度のレベルまでいけないものなどあるのだろうか。
彼があのときに1年間だけ我慢をして、英文の音読と暗唱に没頭していれば、今ごろはずいぶん英語ができるようになっていたはずなのに。
スポーツでも楽器でも何でも、うまくなるためには「練習しかない」。
しかも、毎日の地道な基礎練習のくり返しがすべてだ。
私が修行しているテコンドーでも、道場では毎回ストレッチと基本から始まる。
黒帯やチャンピオンクラスの人でも同じだ。
継続的な練習しかない。
練習しなかったら力は落ちる。
あたり前のことだ。
誰にでもわかることだ。
それなのになぜ、英会話だけに「楽して楽しく魔法のように身につく」などと軽薄な幻想を抱いてしまうのか。
それは、ほとんどの人が英会話ビジネスにふり回されているからである。
英会話スクールしかり、英会話教材しかり。私がこのページの最初に書いた結論
「膨大な量の英語を聞き、読み、暗記作業を続けながら、書き、話す練習をくり返すこと」
そして「地道な努力の継続しかない」という主張、こんな厳しい宣伝(しかし真実)をして、果たしてたくさんの生徒が集まるだろうか、教材が売れるだろうか。
業界の人から、こんな内緒話を聞いたことがある。
「どんなに不景気でも、英会話とダイエットの商売だけは儲かる。誰もが欲しがって、決して手に入らないものだから。次から次に新しい客が流れてくる。笑いが止まらない」
読者のみなさんには、早くそのからくりに気づいてほしいものである。
インターネットの個人のホームページで「英語学習法」を書いている人の主張を、いくつか読んでみるといい。
当HPのリンクから入って、そこからネットサーフィンしてほしい。
みな私と同じような主張をしているはずだ。
それはなぜか?
彼らはお金を儲けようとは思っていないから、事実を率直に公開できるからだ。
「NHKラジオ講座は、どうしても毎日忙しくて続かない。もっと自分のペースでやれる方法はありませんか?」
ありません。
というより、いやしくも何かをマスターしようという志を立てた者が、一日たったの15分ぽっちもラジオを流すことができないのなら、何を紹介しても無駄である。
くり返すが、学習法よりも「目標」と「情熱」、そして何よりも「継続」だ。
…などと厳しいことを書けるのも、英語は私のプロとしての仕事だから。
他のことに関しては、私はそうとうな怠け者であり、その割にはあれもしたいこれもしたい(欲しい)、楽になんでも身につけたいというのが本音であることを認める。
「他人に厳しく自分に甘い」教師の職業病、いやほとんどの人の実情は、私にしても例外ではない。
趣味で楽しむ分には、サロン風の英会話スクールも否定しないし、魔法めいた教材も、少なくとも通信販売で家に届くまでは楽しめるだろう(笑)。
私自身にもそのような愚かな時代があったことは否定しない。
しかし、本気で英語をマスターしてやろう、という真剣な気持ちで学習を始めるあなたは、正当派の英語学習を継続すべきである。
今はどうなってしまったか知らないが、私が高校時代に通っていたある英会話学校の教室には、「暗記こそ英会話習得の唯一の秘訣である」と書いてあった。
硬派で古くさい主張に聞こえるかもしれないが、事実私はそこで徹底的に鍛えられたのだった。
(2000/8/23)
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<「英語=カラオケ」論>
中学生のときに、高松宮杯の英語スピーチコンテストに出場した。
当時宮崎ではまだ珍しかったアメリカ人の先生(デイビッド・ケラー氏)に、個人指導をしてもらう機会があった。
発音に厳しく弁論術にも詳しい人だったので、徹底的に鍛えられた。
おかげで中学・高校・大学と、いずれも全国大会で上位入賞することができた。
この経験が元になって、今でも自分の英語の発音や発声にはかなりこだわっている。
日系のネイティブとまちがえられるくらいのレベルは、ずっと保っていきたい。
英語の発音がうまくなるには、どうしたらいいのだろうか。
ネイティブ・スピーカーであるアメリカ人のような発音をマスターするには、いくつかのポイントがある。
それにそった練習をすれば、誰でもかなりのレベルまで上達することができる。
次の3つの才能があれば、さらに有利になる。
(1) モノマネ ネイティブの英語を耳で聞いて、本物そっくりにコピーできる。
(2) リズム感 英語のアクセントやイントネーションを、音楽のように感じ取れる。
(3) 美しい声 お腹の底から響くような、いい声を持っている。
自分で言うのもなんだが、私はたまたま(1)と(2)の条件にある程度恵まれていたため、アメリカン・イングリッシュの発音をマスターするのはむしろ楽しかった。
(4)については、小学校で音楽の先生に「地声」と言われて劣等感を持っていたが、好きな歌手のレコードでモノマネをくり返すうちに、それなりの自信がついた。
さて、英語の発音が飛躍的に上達するポイントは、3つある。
(1) アルファベットおよび発音記号の発音を、正しくマスターする。
(2) 口まわりの筋肉を、英語バージョンに鍛える。
(3) 英語の音のつながりをパターン化し、使いこなせるようにする。
(1)と(2)については、日本語とは違う音の世界なので、残念ながらマンツーマンで直接指導させてもらえないと、文字で説明するのは難しい。
ただし(3)については、私が数年かけてマスターしたアメリカン・イングリッシュ発音のコツを、見事に法則化したユニークな教材が市販されているので紹介する。
私は大学時代に、このCDブックの著者のラジオ番組に出演したことがあり、そのときに英語の発音をほめられた覚えがある。
「魔法の発音! ハイディの法則77」(ハイディ矢野/講談社/2000円)
「アメリカン・イングリッシュだけが英語ではない」という議論がある。
まったくその通りで、世界中にはさまざまなタイプの英語が存在している。
各国の人々、特にアジアの人たちとコミュニケーションするようになって、私の英語の幅もずいぶん広がってきた。
ただし、そのことを発音の練習をサボる言い訳にしてはいけない。
ジャパニーズ・イングリッシュを脱却しないと、いつまでたっても通じない。
初期の段階では、アメリカ英語でもイギリス英語でもいいから、自分の好きなタイプの発音をネイティブレベルに近づけるべきだ。
それはちょうど、好きな歌手の曲をカラオケでうまく歌えるように練習するのと同じことだ。
何回もくり返し聞き、歌い、自然と覚える。
そして、実際にカラオケボックスに行って、人前で歌ってみる。
カラオケがうまい人は、ちょっと歌っただけですぐわかるものだ。
サビの部分など、本物と間違うくらいよく似ている。
すべては「うまく歌えるようになりたい」というモチベーションと、反復練習の成果だ。
マスターしたい歌を決めて、何度もくり返して練習する。
完全に自分のものにしたら次の曲に進み、さらにレパートリーを増やしていく。
やがて、いろいろなジャンルの曲が歌詞を見なくてもうまく歌えるようになる。
その頃には、「あの人めちゃくちゃ歌うまいよね」と言われるようになる。
「英語カラオケ論」と名づけていいくらい、英語の学習はカラオケの練習と似ている。
(2001/9/14)