<呪いの言葉と魔法の言葉>

長年愛読している「みやざき中央新聞」の、社説(編集長・水谷謹人さんのコラム)は毎回とても面白く、いい刺激を与えられている。
今週号の「呪いの言葉に負けないで!」を読んで、過去に言われたあれやこれやを思い出した。
その結果、夜中に目が覚めて眠れなくなり(笑)、まさに「呪いの言葉」だったと実感。

内容はこうだ。
作家の田口ランディ(『できればムカつかずに生きたい』がナイス)さんが、あるトークショーで観客と握手していた時、一人の女性が突然「あせらないで」と言って、立ち去った。
何が言いたかったのか、時間が経つにつれて、腹が立ってしょうがなくなった。

水谷編集長もまた、ご自身の講演会のあと、司会の女性から次のように言われたそうだ。
「ありがとうございました。でも、今日の話はこの場にはふさわしくありませんでしたね」
その場では苦笑せざるを得なかったが、その夜は悔しさと怒りが増し、明け方まで眠れなかったという。

田口さんは、古神道研究科にそのことを話し、自分で呪いを解く呪文を教えてもらった。
水谷編集長は、翌日ある行動に出て、「すーっと楽になった」と書いている。
その「秘密」は同紙を読んでいただくとして、私もここで心の底に沈めておいた「呪いの言葉」をいくつか公開し、長年の呪縛から解き放たれる試みとしたい。

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■「目立ちますがねぇ、あの人は!」

昨夜ベッドの中でまず思い出したのは、小学校時代の女性担任から投げつけられた言葉。
私は「お調子者」を演じる男の子だったから、それでも気づかないふりをしておどけ続けた。
しかし心の中には、目をつけられ、先生に嫌われているのを悲しむ少年がいた。

■「あんたのは歌じゃない、地声じゃ!」

中学校の音楽の授業中、これまたみんなの前で、女性音楽教師から斬られた言葉。
声を「腹から出せ」、「頭から出せ」とワケのわからんことを言われても、まったくピンとこない。
歌うのが好きだった坊主頭の中学生は、その後数年間、人前で歌うことはなくなった。

■「おまえは人間のクズだ、社会のダニだ!」

高校時代、数学のI教諭から、職員室の中で吐き捨てられた言葉。
間違って入った進学校の価値観では、ろくに勉強もせずに女の子とつき合い、ケンカの練習(空手なんだけど…)ばかりしている私は、そんな存在だったらしい。
同窓会で何度か彼を見かけたが、近寄る気にもなれなかった。

■「みんな、君を生意気だと言ってたよ」

大学時代に私が一時期入っていた、ESSの先輩たちに「聞いたんだけど…」という前置きのあと、その人は言った。
彼に一目置いていた私は、そんな評価を聞かれたことに、小さなショックを受けていた。
この言葉が忘れられないのは、実はその人自身がそう思っていて、あたかも人から聞いたように表現したことが発覚したからだ。

■「独身貴族を楽しんでるくせに〜」

離婚して子どもと会えなくなり、悔しさや孤独感と闘いながら、必死で普通にふるまって仕事をこなしていた頃。
けっこう信頼していた職場の先輩から、飲み会の帰りに、「これで晴れて自由だから、羽を伸ばしてるんだろ?」と。
暗い独りのアパートに帰る前に、ダメ押しの一撃を食らい、ますます落ち込んだ。

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まだまだありそうで、なさそうでもある。
40を過ぎる頃から、他人からゴチャゴチャ言われることは、いい意味でどうでもよくなってきた。
だから今は、「呪いの言葉」より、パッと心に灯をともしてくれた「魔法の言葉」ばかりが思い出される。

わざわざ人の心を暗く、不幸にする「言葉」。
やさしく人の心を明るく、幸せにする「言葉」。
同じ言葉を投げかけるなら、後者の「魔法の言葉」を選びたいものだ。

(2009/1/22)

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