<たとえ話の達人>

どうも調子が出ないとき。
「一年中咲き続ける花なんかないよ」

自分の暗い性格がイヤになったとき。
「明るいと、美しい夜景も星も見えない」

人間関係の摩擦に悩んでいるとき。
「車が走るには、タイヤと道路の間の摩擦が必要だ」

計画がなかなか進まないとき。
「いきなり時速100キロで走り出す車はない」

人に教える実力はないと落ち込んだとき。
「バッティングコーチがメジャーリーグで活躍してる?」

目標の必要性を感じないとき。
「ゴールのないマラソンなど走る気になれないだろう」

こんなふうに励まされたり、説得されたら、どう感じるだろう。
少なくとも「なるほどね」くらいは言いそうになりません?
これが私の大好きな、「たとえ話」の効果だ。

今日、ある女子生徒と話していた。
私が「1つ1つの体験という『点』が、いつか線としてつながって・・・」と言うと、
「星座ができるんですよね」と、その生徒。

(ん?いいセンスしてるじゃない)

「それがもし北斗七星だとすると、北極星の位置がわかりますね。
 思いもしなかった別の場所に、新しい価値が見つかるかもしれません。
 少なくとも、今までとは違った方向は示されるわけだから」

(なるほど、たしかにそうかも)

話題は、「2人で協力すれば、できることが増える」という流れに。
彼女は、たまたま職員室にあったプリント留めの磁石を見て、
「N極はS極のものを、S極はN極のものを引き寄せますよね。
 でも棒磁石になれば、1本でN極もS極も引き寄せられますから」

(ムムム…)

「先生が出された本だって同じじゃないですか。
 ただの紙でも、文章だけでも、本にはならない。
 両方あってはじめて、形として残るんですから」

私「ひらめいた!
  CDプレーヤーの2つのスピーカーなんてどう?
  1つだけでは単調で、2つで立体的に聞こえるわけだから(得意気)」

「そうですね(冷静)。
 CDプレーヤーと電源の関係でもいいし、たとえ話は無限にできますよ。
 この2本の輪ゴムでも、重ねると1本に見えるけど、力は2倍ですからね」

(あの〜、まだ16歳なのに、妙にたとえ話が上手いんですけど)

「夢の叶え方って、人それぞれですよね。
 夢がジグソーパズルだとすれば、枠の周りから埋めていく人もいれば、わかる部分から始める人もいる。
 でもまずパズルの板や完成図がないと、どう動いていいかわかりませんから」

「いろんな体験は、パズルのピースなんですよね。
 大きなピースも、小さいピースもあるけど、どれがいいとか悪いというのはなくて。
 ただ、そのピースを探して見つけるのは、自分だと思うんです」

(師匠と呼ばせてください!)

折り紙が得意だという彼女は、余ったコピー用紙で、サンタクロースやハートマークを折りながら言う。
「一度折り鶴を作ったとしても、『これじゃなかった』と思ったら、何度でも作り直せばいいんですよ。
 その分折り目は増えていくんだけど、それは経験や知恵ということで、決して無駄にはなりませんよね」

「折り紙って、切り込みを入れることがあるんですよ。
 でも作り直したら、無意味な切り込みができることになりますよね。
 そんな時は、これは別の作品なんだと考えればいいと思うんです」

「たとえば、音楽家が手に怪我をしたとします。
 そうすると、今までのような演奏はもうできません。
 ただ、それを別の作品、違った表現だと思うことはできるんです」

(腕に大怪我をしたばかりの私は、ちょっと興味を引かれる)

「怪我をして落ち込んでいる時間が、『別の作品』ができていく過程なんだと思います」

「怪我をして落ち込んでいる時間が、『別の作品』ができていく過程なんだと思います」
 
「怪我をして落ち込んでいる時間が、『別の作品』ができていく過程なんだと思います」

ちょっと感動したので、心の中に「山びこ」が響いた(笑)。
「こういうのって、この子の口を通した神サマのメッセージじゃ?」なんて一瞬考える。
正直、怪我の後遺症に悩まされて、見かけとは裏腹に気持ちが落ち込んでいるのだ。

意外なことに彼女は、人に説明するのが下手で悩んでいたそうだ。
ところがボランティアで子どもを指導するようになって、必要に迫られて、たとえ話を使うようになった。
実際に子どもに説明するのがいちばんだが、少なくとも「子どもでもわかるように」話すのがコツらしい。

「伝えたいことを直接伝えようとすると、伝えられないことがわかったんです。
 でもたとえ話なら、すでに知っていることだから想像できるし、新しいものが見つかることもありますから」

この発想は、効果的な学習法と同じだ。
新しいことを学ぶ場合、既知のものと連結させることで理解が促進される。
たとえば英単語を覚えるとき、それが映画のタイトルの一部に使われていたりすると、「ああ、あれね!」となる。

私「あのさ、キミのような才能のある人じゃない普通の人が、『たとえ話』がうまくなるコツってあるかな?
  凡人のためのマニュアルというか、公式というか…」

彼女が示してくれたのは、次のトレーニング法。
これをくり返すうちにセンスが磨かれ、瞬間にひらめくようになるそうだ。

(1)説明したいテーマを決める。
(2)周りを見回して、使えそうなネタを探す。
(3)テーマとたとえ話をつなぐ。

(2008/8/30)

追伸:

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