<改めて「成功と幸せ」について その2>

書店に行ってもブックオフを見ても、あいかわらず「ビジネス・自己啓発」のコーナーはすごい。
「英語」のコーナーと同じくらい、数千冊が「これこそ最高のメソッドだ!」と主張し合っている。
英語と同じくらい、どの「最高のメソッド」を使っても、なかなか満足いく結果が得られないことがわかる。

この事実だけで、本当の「成功と幸せの法則」が導き出せる。
「全員に当てはまる方法など、ない」ということだ。
自分のために、自分で探すしかない。

自分に合った、オーダーメイドの法則を見つけるにはどうするか。
自分を知って、自分を受け入れ、一生懸命に探すのみである。
自分とじっくり向き合うことをせず、他人の提唱する方法論に次々と振り回される人が、いかに多いことか。

私は英語教師なので、いちばん効果が上がる英語の学習法を知っている。
あれこれ回り道(決して無駄道ではない)をした末に、ようやく結論づけられた究極のメソッドといえる。
しかしそれは、私に合った学習法であって、たまたまあなたには合わないかもしれない。

「オススメの本を紹介してください」
「人生が変わるような映画はないですか?」
雑談としてはオーケーだが、厳しい見方をすれば、主体性と努力の覚悟がない発言とも受け取れる。

あなたがすごく気に入っている、有名ブランドのジャケットと靴があるとする。
あなたにとっては、高品質でジャストフィットする、最高のコーディネートかもしれない。
しかし当然ながら、それらは大きさも色も、私の体に合うはずがない。

成功と幸せの「定義」も「法則」も、それと同じことである。
どちらも常に、「あなたにとっての」という前置きが必要となる。
その意味で、成功本やセミナーでよく言われる「成功者の真似をしろ!」というのはありえない。

いわゆる「モデリング」をするなら、最低でも次の段階をふむ必要がある。

(1)自分のキャラクターを熟知する(最重要)。
(2)自分に極力似たタイプ(重要)で、自分の望む結果を出している人のやり方を学ぶ。
(3)「守・破・離」(ご存じない方は調べてください)に従って、オリジナルのスタイルをつくる。

実はそれでも、まだ足りない。
武道的に言うなら「固定は死」であり、自分自身も含めて、すべては常に動き流れ変化している。
(3)のスタイルについては、状況を見て空気を読みながら、エンドレスに微調整していかねばならない(成功はラクじゃない)。

特にビジネスについては、あらゆる人が「自分の」成功?話を、さも万人に通用するがごとく語っている。
いや、それ自体がビジネスの一部になっているわけだから、正確に言うと「売って」いる。
まあホントに、いろんな主張が見られます。

「起業しなさい、自由に仕事をして儲けられる」
「副業を持ちなさい、脱サラのリスクが避けられる」
「週末起業をしなさい、サラリーマンでもできる」
「投資をしなさい、複利のレバレッジが効く」
「オンリーワン商品を作りなさい、口コミで広がる」
「儲かる仕組みを作りなさい、放っていてもお金が転がり込む」
「不動産の権利をおさえなさい、不労所得でセミリタイア」
「自己ブランディングを高めなさい、お客のほうから寄ってくる」
「異業種の人脈を作りなさい、お互いに助け合える」
「キーパーソンをゲットしなさい、人を紹介してもらえる」
「投資先の可能性を見抜きなさい、上場したら大金持ちに」
「タイミングを読みなさい、株の売買で儲けられる」
「売りたい人と買いたい人の場を作りなさい、両側から客が来る」
「ノウハウを売りなさい、情報商材なら在庫を持たなくてすむ」
「教えるビジネスをしなさい、資本金がかからない」
「アフィリエイトをしなさい、主婦でも簡単に始められる」

まだまだいくらでも出てくるが、残念ながら購入者は誰も成功していない(笑)。
例は挙げないが、幸せや癒し系のほうでも「そのままでいいんだよ」その他、いろいろ言っている。
それでもまた落ち込んで新しい本を買い続けるのは、ビジネス・自己啓発・英語・突然だがダイエット、いずれも同じパターンだ。

ビジネスひとつとっても、人のタイプにはいろいろある。
ビジネス系のセミナーでは、次のように分けられたりする。
実際の人間は複合的な存在で、そんなに単純なものではないが、あくまでも例として参考までに。

「起業家タイプ」
「投資家タイプ」
「経営者タイプ」
「研究家タイプ」
「開発者タイプ」
「貯蓄家タイプ」
「地主タイプ」
「人気者タイプ」
「交渉人タイプ」

自分のキャラクター(直感的キ・計画的・外交的・内向的)を熟考すれば、だいたいどこに入るかがわかる。
自分のキャラクターと違う仕事を始めたら、最初はうまくいっているように見えても、すぐに疲れてくる。
ブルーマンデーや、「早く週末にならないかなあ」ばかり言っているのは、自分のキャラクターと違う仕事を選んだ人だろう。

「セミリタイア」「プチリタイア」といったコンセプトを売っている人たちの話を聞く場合も、注意が必要だ。
「もう十分な資産ができたから、自然の豊かな場所に家を買って、自由に暮らしています」と言いながら、相変わらずビジネスを続けていたりする。
実際の彼らは、根っからの「仕事大好き人間」なのだ。

それに乗って情報商材を買う人たちは、実は「仕事嫌い」(=自分を見つめないで仕事を選んだ人)であったりする。
仕事ほどおもしろいことはないのに、「セミ(プチ)リタイア」したいと思うのは、今やっている仕事から逃れたいともいえる。
お金を払ってコンセプトを学ぶ余裕があるなら、静かな喫茶店に行って珈琲でも飲みながら、自己分析に時間を使ったほうがいい。

成功と幸せの「究極の法則」などと謳っていても、誰にでも美味しく料理できる「成功レシピ」「幸せクックブック」などない。
ミシュラン五つ星のレストランのカレー(そんなのあるのかな?)より、家で奥さんが作るカレーのほうが好きな人もいる。
予告通り「ありきたり」「あたりまえ」の結論だが、たったこれだけのことさえ、本当に理解できているだろうか。

このシンプルすぎる結論を細胞レベルまで刻み込んでもらうために、「その1」から書いてきた。
魂を揺さぶる(気がする)特別な話よりも、何の変哲もない話や、常識的なフレーズのほうが、真実を突いていると信じて。
「もう聞き飽きた」と言われながら誰も実践できていない、古臭く道徳的な「ことわざ」のように。

(2008/8/1)

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