<アウトサイド・マイ・ボート>
スポーツキャスターのチャーリー・ジョーンズさんは、1996年のアトランタオリンピックで、
ボートレースの選手たちにインタビューをしていた。
「雨や風の日、オールが壊れた時などは、どうしますか?」
この質問をするたびに、どの選手からも同じ答え返ってくることに、彼は注目した。
「ザッツ・アウトサイド・マイ・ボート」
“That's outside my boat.”
(それは、私のボートの外のことだ)
同じ言葉をくり返し聞いているうちに、ジョーンズさんは気づいたのだ。
オリンピックレベルの選手たちは、注目すべき考え方を共通して持っている、と。
「彼らは、自分がコントロールできることだけに関心を向けていた。
それは、彼らの『ボートの中』で起きることだった」
それら以外はすべて、「ボートの外」のこと。
彼らがコントロールできる範囲を越えることだった。
金メダルというゴールをめざす集中力に、影響を与える価値のないものばかりだったのだ。
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「自分がコントロールできることに、集中する。
自分がコントロールできないことは、手放す」
こう言うと簡単そうに聞こえますが、実行するのが難しい。
私だけでなく、あなたも経験があるでしょう。
わかってはいるけれど、つい悩んでしまう。
しかし、この「ザッツ・アウトサイド・マイ・ボート」という言葉は、いい。
私の感性に、見事にヒットしました。
インパクトがあって、瞬時にイメージが湧きます。
最近、私は自分自身にこう問いかけるようにしています。
「これはボートの中のことか、それとも外のことか?」
(Inside or outside my boat?)
インサイドなら考え抜き、アウトサイドなら流す練習です。
人の悩みの上位3つは、
(1)人間関係 (2)健康 (3)お金
だそうです。
日本人の自殺の原因は、健康の問題が46%、お金の問題が24%(平成17年調べ)。
お金がないことよりも、健康を害していることのほうが悩みが深い。
逆に考えれば、お金は幸せの第一条件ではない、という証明かもしれません。
しかし日常生活の上では、人間関係の悩みがダントツです。
考えてみれば、他人が自分のことをどう思うかは、コントロールできません。
たとえ自分の陰口や噂話の出所を探し出して、その人に直接抗議しても同じです。
口では謝っても、心の中では信じていないかもしれないのだから。
ただわかっていることは、「わからない」ということだけなのです。
こういうときこそ、自分に言い聞かせましょう。
いや、実際に声を出しましょう。
「ザッツ・アウトサイド・マイ・ボート」
できることは、できる(あたりまえ)。
できないことは、できない(あたりまえ)。
だから、できることをやればいい(あたりまえ)。
できないことは、やりようがない(あたりまえ)。
「あたりまえ」なのに、できないことをやろうとする。
だから、落ち込む。
できるはずのないこと(他人の問題の解決など)をやって、やっぱりできなかった。
だから、また落ち込む。
すみません、これ、カウンセラーとしての私の反省でした(笑)。
とにかく、やっぱり、これです。
さあ、あなたもご一緒に。
「ザッツ・アウトサイド・マイ・ボート」
「自分がコントロールできることに、集中する。
自分がコントロールできないことは、手放す」
このルールは、本当に大切です。
何度もくり返し、深く考えるべきです。
いつも忘れずに、実践レベルまで落とし込めれば、心は揺れません。
どうしようもないのに、悩んでしまいがちなことは、意外とたくさんあります。
次のようなことを心配しても、意味がないのです。
そもそも、人間がコントロールすべきことではないのだから。
・死ぬこと。
・老いること。
・病気。
・突発的な事故。
・自然災害。
・他人の心。
・自分への評価。
これらは、できるだけ「心のエネルギーを消費すべきではない」ことばかりです。
気をつけることはできても、なぜか起きてしまうことは避けられないのだから。
もうあきらめて「お任せ」してしまうしか、方法はないのです。
いちばんマズイのは、
できるはずのない「アウトサイド・マイ・ボート」に気をとられすぎて、
やるべき「インサイド・マイ・ボート」が放置されていることです。
「アウトサイド・マイ・ボート」は、ある意味、神の領域。
人間がどうのこうの言うのは、おこがましいのです。
人間がやるべきことは、「インサイド・マイ・ボート」のほうなのです。
次のような、祈りがあります。
倫理学者のラインホールド・ニーバー(1892-1971)によるものだそうです。
O God, give us
serenity to accept what cannot be changed,
courage to change what should be changed,
and wisdom to distinguish the one from the other.
「神よ
変えられないもを受け入れる
心の静けさを与えたまえ。
変えるべきものを変える
勇気を与えたまえ。
そして
変えられないものと
変えるべきものを識別する
知恵を与えたまえ」
(日本語訳:中元)
(2007/10/9)