<科学かスピリチュアルか>

mixi(ミクシィ)というコミュニティサイトに、「水からの伝言って…」というタイトルで、次のような文章を書いた。

*****(ここから)

「水からの伝言」という本を知っていますか?

水に「ありがとう」と言葉をかけたり、クラシック音楽を聞かせると、美しい結晶ができる。
「ばかやろう」とか、ハードロックだと、結晶はぐちゃぐちゃになる。
そんなことが書いてある、写真集みたいな本だ(世界的にも有名らしい)。

もちろん、水が言葉や音楽を理解するわけがない。
だから、最近聞くようになった「波動」みたいなものが伝わるのかな、と思っていた。
もしそうなら、次のような「アヤシゲ」な話にも信憑性が出てくる。

「同じ植物でも、いい言葉と悪い言葉をかけたものでは成長が違う」
「プラス言葉を使っていたら、運が良くなって体も健康になる」
だって植物も人間も、ほとんどは水なんだから。

そこで、本当なのかどうか、信頼のおける科学者に直接聞いてみた。
詳しい説明は省くが、結論としては「ほとんどデタラメです」との回答。
波動についても、その定義にもよるが、科学的には「伝わらない」そうだ。

たしかに、著者本人も「あれは科学ではない」「ポエムやファンタジーだ」とアエラ誌上で認めている。

http://www.minusionwater.com/aera1.htm

なんかプロレスファンが、「プロレスは実は筋書きのあるショーだ」と知ってしまったときのような気分(笑)だ。
格闘技をやったことのある人なら、あれは本気で殴ったり蹴ったりしていない、とすぐわかる。
だから、「プロレスって八百長なんですか?」と問われたとき、ため息をつきながら苦笑するしかない。

それでもムキになって反論してくる人には、ある程度は説明するが、そのうち疲れて相手にしなくなる。
「水からの伝言」に対する科学者たちの冷めた態度も、それと似たようなものかもしれないな。

*****(ここまで)

真っ向からの反論や、聞き流すという主張(笑)も含めて、さまざまな書込みやメールがあった。
それはそうだろう、今まで信じてきたこと、信じたいと思ってきたことが否定されるのだから。
著者の実験結果?をもとに、「水にありがとうと言って飲めば若返る」などと話す人さえいるのだ。

私はすべての現象に科学的根拠を求めるほどでガンコはなく、スピリチュアルにハマるほどオカルト好きでもない。
バランスのとれた、ニュートラル&ナチュラルな状態を保ちたいと思っている。
ガチガチの科学偏重主義、アヤシゲな雰囲気やハイテンションに偏らず、人がハッピーになることが最優先だ。

「不思議現象などありえないのだ、と頭から決めつけるのも、逆に何も考えずに妄信してしまうことも、どちらも思考の停止という点では同じです」
(「不思議現象 なぜ信じるのか こころの科学入門」より)

現代科学では笑止千万でも、非科学的なことがいずれ科学に変わることもあるだろう。
先日のNHKテレビ「プロフェッショナル」で、司会で脳科学者の茂木健一郎氏が、次のように語っていたのは印象的だった。
「脳科学の最先端で最も注目されているキーワードは、“セレンディピティ”と“直感”です」
どちらもスピリチュアル系の言葉と思っていたので、時代が変わりつつあるのを感じた。

スピリチュアル系の話に科学的な根拠はないが、「そうなのかもしれない」と思うことはある。
偶然というにはあまりにも出来すぎたことが続くと、つい「シンクロニシティ」などという言葉が浮かんだり(笑)。
ただ、死後の世界とか前世とかカルマとか、まだ死んだこともないのによく言えるなあとは思う。

小さい頃から屁理屈屋だった(らしい)私が、スピリチュアル的な考え方を知ったきっかけは、アルバイト先の先輩からもらった1冊の薄い本だった。
あなたはこうして成功する マーフィーの成功法則」には、「夢や目標を紙に書いて潜在意識に言い聞かせると、それが現実化する」とあった。
半信半疑でおもしろがってやってみると、10年後にはすべてが実現していてビックリした。

これは何かあると思って、いろいろ本を読んでいくうちに、「波動」というアヤシゲ?な言葉と出合ったわけだ。
しかし上に書いたように、波動は伝わらないということで科学的に決着がついているという。
こっちは科学者じゃないんだから、いくらそれを否定したところで勝負にならない。
反省すべきは、科学者でない人が「科学的に証明されている」と言うのを信じてしまうことだろう。

私が質問した科学者は、次のように語っていた。
きわめてフェアな見方だと思う。

「波動という“思い”を持つことで、脳に快楽を与えて神経が活性化され、人の心や体にプラス作用を及ぼすのは構いません。
むやみに否定してしまうと、かえってマイナス作用になることもありますから。
しかし金儲けや自分の利益のために、その“思い”を利用して他人に働きかけようとする場合は、非難しなければなりません」

これで思い出したのが、「超能力者」として知られている、長崎の某喫茶店のマスター。
客の目の前で不思議な現象を見せて、連日行列ができるほどの大にぎわいだそうだ。
実は彼は単なる手品師で、オカルト好きな人たちの噂に尾ひれがついたものらしい。

あるプロの手品師がネット上でそれを告発し、本人とも直接会って問いただしている。
本人もある程度は認めているようだが、いまだに県外から重病人が救いを求め訪れてくる現状がある。
そこに問題があるということで、厳しく批判しているそうだ(メールで何度かやりとりをさせてもらった)。

それでは、「笑いは健康にいい」という話はどうなのか。
笑うことによって、脳の中で快楽を与える「ドーパミン」が発生する。
その作用で血行がよくなったり神経が活性化するので、笑いが健康に与える影響は、脳科学で説明されている。

「非常によく効く薬だ」と言ってただの粉を患者に飲ませたら、病気が治ったという話。
これは「プラシーボ効果」として、医学の世界で実際の治療効果が認められているという。
心理的な暗示効果や自然治癒力もかかわってくるから、心理療法といえるかもしれないが。

いずれにしても、科学とファンタジーの線引きは、できるだけしっかりせねばならない。
きちんと治療すべき病気を、医学的根拠のない民間療法や新興宗教に頼って悪化させる問題も多い。
「水からの伝言」問題も、小学校の道徳の授業であたかも事実のように扱ったため、論争に発展したようだ。

専門家でない一般人は、科学もスピリチュアルもほどほどに、といったろころか。

(2006/8/15)

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