<見かけか中身か?>

大切なのは見かけか、それとも中身か?
「絶対中身!」と即答したくなるような修行を続けている。

数年前、中古のベンツを買った。
大学時代の友人が外車ディーラーをしていて、紹介されたものに一目惚れしたのだ。
ちなみに、私は一目惚れに非常に弱い。

左ハンドルで、重圧な存在感。
その割には、軽の新車程度の値段。
税金も思ったほど高くないと聞いて、その場で購入を決めた。

もともと私は、車にはまったく興味がない。
20代まで、中古の軽自動車に乗っていたくらいだ。
今でも、車の識別は「四角い車、丸い車」程度しかできない。

ではなぜベンツなのか?
それは単に、人生のバラエティを楽しみたかったからだ。
ベンツの次は、いきなり原チャリというのもおもしろいなあ(かなり本気)。

初めての左ハンドル車で、マヌケなことをたくさんやった。
右側の助手席の空中で安全ベルトを探し、方向指示器のつもりで乾燥した窓にワイパーをかけた。
駐車場で助手席の窓の向こうの駐車券を取ろうとして、何度も脇の筋肉がつってうめいた。
ちょっと油断すると、つい右車線を走ったり(これはウソ)。

驚くことも多かった。
「カギの110番」で合鍵を作りに行ったら、「7000円になります」。
「は?700円の間違いでは?」
「いいえ、ベンツは7000円です」

ガソリンスタンドに行ったら、勝手にハイオクを入れられる。
オイル交換は、いちばん値段の高いものを勧めてくる。
しかし、この車がマネー・ピット(金食い虫)の本領を発揮するのは、ここからだった。

エアコンが何回も故障した。
夏の風物詩といっていいほど、毎年壊れるのだ。
そのたびに「はい10万円」「はい20万円」と、日本車では考えられない修理費を請求される。
たかが車内を冷やすのに、すでに自宅のエアコン10台分くらい支払っている。

パワーウインドウが開いたまま動かなくなったことも、何度かある。
そのたびに、ナイスタイミングで大雨や台風に襲われた。
ベンツともあろうものが、ゴミ出し用のビニール袋をガムテープで貼って街を走る。
ここでも当然のように、「はい10万円」「はい20万円」。

電動のサイドミラーも動かなくなった。
これは「はい5万円」。
そんなにしょっちゅう動かすものでもないから、固定しとけばよかったなあ。

突然カギが回らず、エンジンがかけられなくなったあの日。
よりによってガソリンスタンドの洗車機の中で動かなくなって、後の列にヒンシュクを浴びた。
とうとうJAFで運ばれるハメになり、カギも作り直して「はい10万円」「はい20万円」。

このときに、修理工場のオヤジに言われて衝撃を受けた。
「中古のベンツを買うと、その3倍は修理代がかかりますね」
おいおいおいおい。
でも、それは事実だった。

今でも、オイルが少しずつもれている。
修理に持っていったら、例のオヤジが言うのだ。
「また部品に何万円もかけるより、オイルを足していくほうが安いですよ」
とても新鮮な発想であった。

大切なのはここからだ。
故障したベンツを預けるたびに、ポンコツの軽自動車を代車として借りた。
するとどうだろう。

クーラーはガンガンきくし、エンジンも一発でかかる。
窓は手でくるくる回して開けるのだが、絶対に閉まるという安心感がある。
「な、なんだこのカイカンは!?」
ポンコツ軽のほうが、乗っててよほど快適ではないか。

日本車は故障が少ないし、もし壊れても部品代はせいぜい外車の5分の1。
燃費もメチャクチャよくて、ガソリン満タンで毎回7千円、なんてこともない。
軽よりもベンツの窓から見たほうが景色が美しい、というわけでもないし。

現時点での結論。
ベンツよりむしろ軽自動車のほうが、ストレスが少なくてすむ。
見かけより、中身である。

これって、人にもあてはまるんじゃないだろうか。
たとえば恋人。
若くて美人(ハンサム)だけど、いちいちイライラさせられる人。
器量は並みでも、いっしょにいると楽しくて和む人。

ベンツも美人も、見栄えはいいから外見上のメリットはあるのだろう。
しかし、軽自動車や癒し系の人が与えてくれる、心の安らぎも捨てがたい。
「故障しないベンツ」「性格のいい美人」なら文句ないが、その相手が自分になるかどうかは別だ。

もし、そんな理想とひとつだけでも出会えたら、自分の幸運に感謝しないとね。

(2006/7/31)

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