<直感に従う>
ある会社で、非常に重要なプロジェクトの決定をしなければならない場面がありました。
成功すれば多大なる業績につながるものの、実施には莫大なコストがかかる上、リスクもかなり大きい。
市場調査を重ね、膨大な時間を費やして議論を続けてきたのですが、意思決定は極めて困難です。
しかし、すでにタイムリミットは過ぎようとしています。
今日も長時間に渡って意見を戦わせてきたのですが、どうしても結論が出ない。
あとは、責任者であるA氏が決断を下さねばなりません。
疲れ果てた社員たちは、彼に最終結論をゆだねます。
そのプレッシャーたるや、並大抵のものではありません。
A氏は目を閉じて、ため息をつくように大きな深呼吸をします。
責任の重い選択をせねばならないその表情に、社員たちは息をのんで注目しています。
しばらく沈思黙考したあと、彼は目を開いて意を決したように言いました。
「よし、コインの裏表で決めよう」
予想もしなかった発言に、社員一同から大きなどよめきが起きました。
A氏は構わず続けます。
「今からこのコインを上に投げる。表が出たらプロジェクト決行、裏が出たら中止だ」
全員が沈黙して見守る中、彼の手に落ちてきたコインは、表が上でした。
ついに、このプロジェクト実施の決定です。
その瞬間、A氏が言い放ちました。
「決めた。やはり今回のプロジェクトは見送る」
この意味不明の言葉に、社員たちはみな唖然となります。
しばらくして、ある社員がA氏に詰め寄ります。
「いったいどういうことですか!?」
A氏は、今度は確信に満ちた表情で答えます。
「このコインが表を示した瞬間、心の奥底から「いや、違う!」という声が聞こえた。
コインを投げる瞬間まで、私は本当に迷っていた。
しかし、1つの強引な結論が目の前に出て、心が決まった。
自分の直感は、プロジェクトの見送りを伝えている。
私は、このメッセージを信じるよ」
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子どもの頃、親の運転する車に乗っていて、信号のある交差点にさしかかるたびに「賭け」をしていました。
「あの信号が黄色になる前に通り抜けたら、幸せになれる」
交差点の途中で黄色に変わってしまったときは、慌てて「今のは、なし!」と、心の中で取り消したものです。
そう感じている人も多いと思いますが、人生は選択の連続です。
就職や結婚といった大きな選択に限らず、朝起きてまず何をするかなど、人は小さな選択も無数にくり返します。
どれを選んでも一長一短があるので、多かれ少なかれ、選択には迷いがつきものです。
どちらに決めても、人生がガラリと変わる。
そんな場面に置かれると、逃げ出したくなってしまいます。
選択が「迷い」どころか、「恐怖」に変わることもあるでしょう。
悩んで大騒ぎしていても、ある結論を突きつけられると、自分の本音に気づくことがあります。
とことん追いつめられて考え抜いて、ついに退路を断たれた状況下での話です。
このときに自分の内側から語りかけてくる「直感」には、従ってみる価値があるように感じます。
選ばなかったほうへの未練、といったレベルを超越しています。
直感を磨くために、精神論の本を読んだり、座禅を組んでみてもあまり効果は期待できません。
それよりも、徹底して考え抜き、あらゆる努力をして、ヘトヘトになったときにふと湧き上がってくるもののようです。
ここに、エジソンの遺した言葉の本当の意味が見えてくるのではないでしょうか。
「天才とは、1%のひらめきと、99%の努力の賜物である」
(Genius is one per cent inspiration and ninety-nine per cent perspiration.)
1%しか才能がなくても、努力で成功をつかめ。
それが一般的な解釈でしょう。
しかし彼の真意は、「1%のひらめきは、99%の努力のあとに降ってくる」であったように思えてなりません。
(2006/4/12)