<ウサギとカメ>
ウサギとカメのお話は、ご存知だろう。
ウサギは、なぜカメとの競走に負けたのだろうか。
「油断して、昼寝をしてしまったから」
「自信過剰で、なめていたから」
ウサギとカメの違いは、何だったのかか。
ウサギは、カメを見ていた。
カメは、ゴールを見ていた。
アリとキリギリスのように、地道にコツコツ続けるほうが結局は勝つ。
しかしそれは、1回戦の話。
次の対戦では、気を引き締めたウサギに、カメが勝てる確率は少ない。
努力する秀才が、油断した天才に勝つことはあるかもしれない。
しかし、天才が同じ努力を始めたら、秀才が勝つことは不可能だ。
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さて、負けて悔しいウサギは、カメに再挑戦。
結果は当然、ウサギの完勝。
カメは、ウサギの本当の実力に、ただ呆然とするばかり。
今度は、カメが悔しがる。
これまで、一勝一敗。
決着をつけたいところだ。
ウサギが自信満々の表情で言った。
「車や道具さえ使わなければ、いつでも受けて立つよ」
果たして、歩みののろいカメに勝ち目はあるのか。
賢明なあなたなら、どうアドバイスするだろうか?
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愚直なだけが取り柄のカメは、悩みながら母親カメのもとに帰った。
母親カメは一言も慰めず、沈黙のあとにただ一言。
「自分のことをわかっていないと、勝負にならないわね。
よく考えて、自分のフィールドで勝負してみたら?」
カメは山に戻って、海を見ながらじっくり考えた。
そして、ウサギにお願いをした。
「試合場だけ、ボクに選ばせてくれ」
もちろん、ウサギはオーケー。
もう二度とゴールを見失うこともないし、油断もしない。
カメの足の速さもわかっているので、自信が揺らぐことはない。
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結果を先にお知らせしよう。
「カメの圧勝」だった。
なぜかというと、カメが選んだゴールのポールは、今回は山の上ではなくて、
海岸から離れた小島に立てられていたのだから。
カメは、自分のフィールドで、自分のペースで勝つことができたのだ。
ひょっとすると、ウサギが泳ぎが得意だったということもあるだろう。
しかし大切なのは、「自分の土俵に相手を引き込む」という選択なのだ。
100%勝てることがわかっている勝負など、面白くも何ともないのだから。
カメに道具を使うなと言ったウサギは、浮き輪もボートも使えなかった。
有利だと思った条件が、自らの首を絞めることもある。
たとえ不利な条件でも、考え方次第で大逆転できるのだ。
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カメは、「勝ったよ!」と、母親カメに報告した。
母親カメは、嬉しそうな子カメをしっかりと抱きしめて言った。
「今までのすべてをもう一度、私に話して聞かせてちょうだい」
勝ったときの嬉しさ、負けたときの悔しさ。
勝てないと思ったときの焦り、何か手だてはないかと苦しんだこと。
苦しみが喜びに変わったこと…。
すべてしっかり聞き終えて、母カメは子カメに言った。
「こんなにいろいろな経験ができたのは、誰のおかげかな?」
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ウサギも、母ウサギに報告した。
油断の怖さ、自分に間違いなくあった力。
しかしそれは、前提次第で変わるという事実…。
すべてをしっかり聞き終えた母ウサギは、子ウサギに言った。
「本当におまえが闘っていたのは、カメさんだったのかしら?」
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海と山の境界線で、ウサギとカメは再会した。
お互いに、なんとなく恥ずかしくなってきた。
「勝たないと意味がない!」と叫んでいた観衆は、もう誰もいなくなっていたのだ。
カメは、ウサギを背中に乗せてスイスイ泳ぎ、小島のポールを取りに行った。
ウサギは、カメを背負ってピョンピョン飛び、山の上のポールを取りに行った。
ウサギとカメは、やっと気づいた。
力を合わせれば、海も山も、自分たちのフィールドに変わることを。
ウサギとカメは、山の頂上で、海を見下ろしながら、空を飛ぶ鳥に声をかけた。
「ぼくたちと友だちにならないかい?一緒にやったら、違う世界が広がるんだよ!」
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インターネットでいただいた文章を、私なりにリライトしたものです。
少なくとも、3つの大切な「気づき」を得ることができるはずです。
こういったメタファー、たとえ話は印象に残るので好きです。
私は武道(テコンドー)をやっていて、スポーツ試合に限って言えば、このカメのようなハンデがあります。
体が大きくないことと、41歳という年齢。
体力的に劣っている事実に対して、どう自分の土俵に持ち込んで勝つかを考えるのが、楽しくてしょうがない。
敵は目の前の相手ではなく、勝負に集中するのを妨げるさまざまな条件、最終的には自分自身であることも実感します。
武道に限らず、日常生活の人間関係や恋愛においても、怒りや嫉妬でヘトヘトになっている人がいます。
エネルギーをどこに集中させるか、選択を間違っているのです。
楽器などを使うとよくわかりますが、同じレベル同士は「共鳴」し、違うとまったく反応しません。
「闘わずして勝つ=相手を傷つけない」という武道の最高の境地は、そのことを教えています。
争うよりも、調和することによって、この世の中はうまくいくようになっているようです。
(2005/11/29)