<必要な無駄を残す>

マンガはいつも、私に人生を教えてくれます。
「自分の生活に変化を引き起こす」意味では、下手な自己啓発書より役に立ち、下手な癒し本より心が温まります。
たった1コマの絵が、100の文よりインパクトを残すことさえあるのです。

先日読んだマンガ「エンゼルバンク」には、次のような話がありました。

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サラリーマンたちが、昼休みにお弁当屋に群がる。
そのお弁当屋には、800円、900円、そして1200円の弁当を売っている。
小遣いの少ないサラリーマンにはちょっと贅沢な、ビジネス的には「客単価が高い」店である。

売れ筋は800円の弁当で、1200円の弁当があるからお得な感じがする。
主人公は900円の弁当を買ったが、「普段は900円も使わないのに、安く感じました」。
上司が、次のように解説する。

「1200円の弁当は、1日に5個出るかどうか。
 しかし売れないからと作るのをやめると、無駄は省けても売上げ自体は下がってしまう」

「1200円がなくなると、客単価が下がるだけでなく、あのお弁当屋のちょっと特別な感じもなくなって、他と同じになる」

「安くして客数を増やそうとしても、限界がある。
 ちょっとした手間と経費を省くだけで、結果には大きな差が出る」

1200円の商品は明らかに無駄なのだけれども、無駄じゃない。
 お店にとって、必要な無駄なんだ


会社の経営もこれと同じ。
 利益を上げる部署だけが、必要な部署ではない


会社が赤字になると、無駄なものを全部無くして手っ取り早く黒字にしたくなるけど、それは間違い!
 必要な無駄と、本当の無駄を選別して、必要な無駄を残す!


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上司の言う「会社」を、「家庭」や「生活」と言い換えてみたらどうでしょう。
あるいは「人生」として、自分を取り巻くいろいろなものを見直してみます。
経費節減に躍起になって、今まで安易に「無駄」と切り捨てた中に、意外な価値を発見できるかもしれません。

利益を追求するビジネス界でさえ、優れた企業は大小にかかわらず、「無駄の効用」の盲点を活用しています。
まして「家庭」「生活」「人生」においては、「無駄の排除」よりも大事なことがありそうです。
経費節減の必死感が伝わってくる店から、ますます客足が遠のくように、節約でピリピリした家では安らげません。

「消費」をするな、「投資」せよ。
ビジネス書にありがちなこの考え方は、「生活や人生を味わう」視点から見て、なんと世知辛い話でしょう。
「消費」こそ、人生を楽しむために日々働く大人のたしなみであり、「必要な無駄」だというのに。

車のハンドルの「遊び」部分のように、一見無駄と思われるものが、実は生活にうるおいを与えていたりします。
それに気づこうともせず、焦って無理なリストラでゆとりを失い、カサカサな肌のような生活に耐え続けるなんて…。
人生は「効率よくこなして終わらせる」ものではなく、「寄り道を楽しみながら十分に味わう」ものだと思います。

(2009/8/1)

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