ギターを弾く女
The Guitar Player (1671-72年頃) 53X46.3 ロンドン GLC蔵

 のちにヴァトーらの18世紀絵画において不可欠のモティーフとなるギターも、17世紀オランダの風俗画においては未だリュートに比べて描かれる機会は遥かに少なかった。当時流行の五組の複弦をもったギターー糸蔵の数からわかる−を正確に描出したこのフェルメールの絵はその点で貴重な作例に属している。デ・ホーホとは異なってつねに左方からの光に固執し続けたフェルメールだが、この絵においては全く例外的に右側の窓からの光を採用している。娘の姿は中心よりも左にずらされ、あまつさえ顔を左に向けて画面の枠の外を見やっているために絵の重心は大きく左側に片寄り、極めて動勢に富んだ構図が形づくられている。意表を突いた画面の縁による人物像の切断も非常に近代的な印象を与える。しかしギターをかき鳴らす陽気な娘という題材はやはりフェルメールには扱いこなせぬものであったらしく、娘の笑頗には自然なのびやかさが欠けている。描写の平板さが作品の美的価値を損じているのも構図が見事であるだけに惜しまれる。もしもフラゴナールが同じ構図で描いたらどんなに生き生きとした絵が生まれただろうか、とつい考えさせられてしまう。
 この作品は画家の死後未亡人によって<手紙を書く婦人と召使>とともに借金617フルデンの代償としてパン屋ファン・バイテンに引き渡された。その翌年カタリーナは毎年50フルデンずつ返済し、完済時に再び亡夫の絵二点を引き取るという内容の契約を交わしている。知人のパン屋に絵を渡したのも、破産して強制的に競売の対象とされることを恐れたためであろう。なお1663年にフェルメールを訪問した芸術愛好家のフランス貴族バルタザール・ド・モンコニーはパン屋の家に案内されてそこで作品一点を目にしている。名の伝えられていないこのパン屋も同じファン・バイテンであった可能性が強い。