地理学者
The Geographer. (1669年頃) 53X46.6 フランクフルト シュテーデル美術研究所蔵

 <地理学者>はレンプラントのエッチング<ファウスト博士>(1652年頃)との形の類似がしばしば指摘される作品であるが、主題が違うから当然であるとはいえ、超自然的な光源を用いずいつもの通り陽光の差し込む明るい部屋を舞台にしているのがいかにもフェルメールらしい。「葦の髄から天井のぞく」というわが国の諺は視野・見識が狭いことの誓えであるが、窓すら閉ぎされた密室で、世界あるいは宇宙について思索をめぐらす学者を描いたこれらの二点は、フェルメールにとって狭い小部屋が一つの自立した小宇宙と化していることを端的に物語っているようだ。1714年に刊行されたA・スピニケルの『教訓的寓意像』 には地理学者をあらわした版画が掲載されており、人は二つの地図に従って「人生の旅」と「天への旅」をなさねばならぬ、という内容の詩が付されている。とすればフェルメールの対幅にもこの一対の寓意を認めるのは可能なのであるが、この閑達を指摘したデ・ヨング自身も認めるとおり、スピニケルの著書はフェルメールの絵の40年以上も後に著されたものであってこれらの絵に想を得て教訓的内容をあとから付与した可能性も除外できないので、解釈には慎重であらねばならない。なお<天文学者>に登場する画中画<モーゼの発見>の作者としてはヤーコプ・ファン・ロー、クリスティアン・ファン・カウヴェンベルフらの他フェルメール自身とする見解までが出されており、そこに秘められた寓意的意味についても諸説が提出されているが未だに定説はない。