手紙を書く女
A Lady writing a Letter (1665年頃) 45X39.9 ワシントン ナショナル・ギャラリー蔵

 「手紙を書く女」は図像学上の一つの伝統に属する画題であって、フェルメールの同時代人のうちではとりわけテル・ボルフとメツーが好んでとりあげている。この作品に最も近い把握を示す先例は先年来日したマウリッツハイス美術館のテル・ボルフ作品(1655年)であるが、一方このフェルメールの絵はただちにカスパール・ネッチェルに模倣されている。ここでは主人公が男に、そして筆を休めて文案を考えるポーズに変えられているほか壁には絵でなく地図が飾られているが、卓子と二脚の椅子配置、人物の背の傾斜など構図の基本は全く一致している。フェルメールのこの<手紙を書く女>は諸作品より一層の洗練と様式化を示していることから−例えば頭のリボンの描写−これらよりはやや後の作品と考えられるのであるが、ネッチェル作品に1665年の年記がある以上、遅くともこの年までに描かれたものと推定される。自貂の毛皮の縁どりのある黄色の上衣は<真珠の首飾りの女>の着ているものと同じであるが、本図の女性はフェルメールの他の作品には登場せず、美しいとはいえ強い個性をその相貌に備えているため、ウィーロックのようにこの絵を風俗面の形を借りた肖像画と見る向きもある。
娘の容貌もさることながらイヤリングや机上に置かれたネックレスの真珠の鈍い輝きがとりわけ魅力的である。「真珠の画家」の愛称、トレ=ビュルガーによる「天才的陶芸家」の呼称のいずれも本図にまことに相応しい。なお壁の画中画の作者に関してはエヴァリスト・バスケニス(イサルロ)、コルネリス・ファン・デル・メーレン(ボストレーム)等の諸説があるが、いずれにせよこれは画家の遺産目録に含まれる<バス・ヴィオールと頭蓋骨のある静物>をあらわしたものである可能性が高い。