青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)
The Girl with a Pearl Earring (1661-63年頃) 46.5X40
デン・ハーグ マウリッツハイス美術館蔵

 1882年の売り立ての際にこの絵に付けられた値段は僅か2フルデン余りであった。フェルメールの再評価がすでに始まっていただけにこの価格の低さは驚嘆に値する。その後競売は一度も経ておらず現在では値段などはとても想定できないから数字では示せないが、あらゆる画家の作品を見わたしてもこの絵ほど短期間に価値の変わったものは他にないのではあるまいか。ともあれ今世紀にはいってからこの小品は熱狂的な称賛の的となり「北方のモナ・リザ」(L・ドーデ、1928)という愛称さえ捧げられるに至っている。しかしこれほど誤解を招く愛称はない。ふと肩越しにこちらを見返したこの少女の無垢で無警戒な顔つきはいかなる神秘とも無縁であり、そこに窺えるのは初めて画家の前に立つモデルに特有の初々しいぎこちなさのみだからである。暗い背地の採用はフェルメールにあっては全く珍しい。人物を前方に浮き立たせるこの趣向はファン・ミーリスなどが好んだものだが、本図とミーリスの絵の比較は逆にレイデン派の細密画法と輪郭線をほとんビ用いず絵具の微妙な明暗のみによって形体を捉えるフェルメール独特の技法との相異を如実に示してくれる(とくに鼻と唇の表現に注目されたい)。例外的と言えば、画家の好んだ青と黄が美しい調和をなすターバンや衣服についても同じことが当て嵌まる。これらはいずれも当時のオランダでは見られぬ風俗であって、レンプラントが好んで描いた扮装肖像画の場合と同じく、何らかの異国趣味、あるいは東方趣味を背景にして採用されたものであろう(フェルメールの遺産目録には男性の衣裳ではあるが「トルコ凰」と記されたものが数点見出される)。おそらくは1696年の売り立て目録の38番「古風な衣裳を着た人物、非常に巧みな出来」(36フルデン)もしくは同様の内容とされる39番・40番のいずれかに該当すると考えられる。あどけなさを顔に残すこの少女のポーズと当世風ならぎるその衣裳はしばしばグイーF・レーニの<ベアトリーチェ・チェンチの肖像>に比較されてきた。しかしその影響の有無は未だ明らかでない。