青衣の女
Woman in Blue reading a Letter (1663年頃) 46.5X39 アムステルダム 国立美術館蔵

 <青衣の女>という通称は同じ題材を扱った<手紙を読む娘>との区別のために後世に与えられたものである。同一の試みを繰り返さなかったフェルメールが窓辺の卓子の傍らでじっと手紙に読み入る女を再びとりあげたのも、ドレスデンの絵が光や空間の描出において未だ改良の余地を残していると考えたためであろう。この両者は題材が同じであるだけにかえってその把握の違いをまぎまぎと示している。ここではカーテンも窓のある左方の壁面も姿を見せず、空間は光によって浮き彫りにされた人物や事物の描写それ自体によって生み出されている。アムステルダムでこの絵を見て感激したファン・ゴッホは友人のエミール・ベルナールに宛てた手紙の中で、この不思議な画家のパレットが青、レモンイエロー、パールグレー、黒、自だけから成り立っており、しかもこの絵では完全に絵具の揃ったパレットの豊かさが達成されていると書き記している。たしかにこの<青衣の女>は最も少ない種類の絵具で描かれた絵画と言えるだろう。しかしファン・ゴッホも認めた通りここで青に与えられた明暗の諧調は驚くほど段階が細かく、またレンジも広い。壁の地図(ファン・ベルケンローデ作のホラント州地図)と人物の頭部が同じ色で描かれているのも注目に値する。普通はこうした危険は避けるものだが、油の乗りきったこの時期のフェルメールにとっては如何なる試みも恐るるに足らぬものだったのであろう。部屋の要素としては奥の壁しか登場せぬ作品であるだけに、この絵における光の描出はとりわけ入念になされており、白壁や地図が右方に向かうにつれ徐々に明るさを減じている点、そして背後の白壁からの光の反射を受けた青の上衣の背中のラインが一筋明るく輝いている点など画家の精緻な観察はあらゆる細部にまで行き渡っている。