女と二人の紳士
The Girl with the Wineglass (1661-62年頃) 78X67
ブラウンシュヴァイク ヘルツォーク・アントン・ウルリヒ美術館蔵

 前作でデ・ホーホにひけをとらぬ明晰な空間描写の腕を示したフェルメールは類似した画題を扱った本図では再び縦長の画面に立ち帰って余分な空間を切り捨て、大きく捉えられた人物群のあいだにより緊密な関係を確立している。実際この絵における三人の人物の配置はもはや少しの変更も許されぬほどに計算し尽くされた見事なものであるが、それにもかかわらず、ファン・ミーリスの<二重奏>を想起させる女の美しい衣裳や卓上の静物を除いては画面の保存状態が悪いのと、大仰な身振りで女にワインをすすめる好色な紳士とその露骨な視線を笑ってかわそうとする女の顔がともに後代の補筆によって著しく損なわれているためにこの絵の価値が一般に見逃されがちなのは残念である。椅子に坐ったもう一人の男は頬づえをついたそのポーズから−おそらくは同じ女に寄せる想いが満たされぬために−憂鬱症に陥っていることがわかる(ステーンは左右反対ではあるがこの男の形をトゥヴェンテ国立美術館の<リュートを弾く女と恋人>に用い、またオフテルフェルトはこの男と別の女とを組み合わせた合成作を描いている。彼の頭上には肖像画が掛かっているが、その主は1620-30年代に流行した黒ずくめの地味な服を纏っている。戯れの恋に明け暮れる当世風の男女を見守るこの画中の男の謹厳実直な佇まいが彼らの軽薄な人生に対して無言の圧力をかけているのは否定しがたいところであろう。前作にも描き込まれた窓の紋章は画家のかつての隣人のそれであるが、馬勒を携えたこの「節制」もしくは「中庸」の擬人像もまだ室内の情景に対立する象徴的意味を掟示しているように思われる。