紳士とワインを飲む女
The Glass of Wine (1660-61年頃) 66.3X76.5 ベルリン 国立絵画館蔵

 これまでも部分的な形でデ・ホーホのアイデアを借用してきたフェルメールはこの作品において始めてロッテルダム生まれの同僚が開拓した「明晰に規定された明るい室内空間」自体の描写に挑戦した。床の模様もデ・ホーホにしばしば見られるものと同じである。しかし女性の華美な衣裳や卓子に掛けられた豪華な東方の絨毯はデルフト時代のデ・ホーホ作品には姿を見せぬものであるから、ここでフェルメールが目指したのは、より正確には、デ・ホーホの合理的な空間描写と、テル・ボルフ、ファン・ミーリス、メツーらの志向する上品で贅沢な雰囲気との矛盾なき統合であったと言える。もっともこれらの画家たちの特技である優雅で酒脱な男女関係の妙をフェルメールが消化しきれているかといえばこれは疑問である。女の顔がワイングラスに隠されて男の求愛にどう応じるのかが曖昧にされているところなどはテル・ボルフに通じるが、男が身じろぎもせず一途に女の顔を見つめているせいもあってこの絵にはどこか不自然に硬直したところが感じられてしまうからである。