自閉症の特性と自閉症児・者への接し方



(社)日本自閉症協会宮崎県支部
2001.3.7更新

 この資料は、本県支部が自閉症およびその周辺障害の特性への理解と、それらの障害を持った方に対する療育・教育・福祉の充実を目指して作成したものです。これまでにも、ボランティア研修会や、療育キャンプのしおりへの掲載などに役立ててきました。今後も、各種の啓発や学習などに活用していく予定です。

 

 自閉症とは・・・?

 自閉症は生まれつきの脳の障害で、治ることはありません。ただし、適切な療育の環境を整えることにより、生活上困難な部分の改善が期待できますし、さまざまなスキルを伸ばして本人の将来の可能性を広げることもできます。
  自閉症は中枢神経系の障害(脳内の情報処理機能の障害)と位置付けられていますが、そのはっきりとした原因はまだわかっておらず、治療法も確立されていません。自閉症だけでなく、その周辺障害の多くが同様の状況と言えます。自閉症の周辺障害とは、知的な発達の遅れを伴わない高機能自閉症、高機能自閉症と酷似しているが言語コミュニケーション能力が比較的高いアスペルガー症候群、自閉症の特性のいくつかが明らかに現れない広汎性発達障害などの各種発達障害のことです。最近はこれらの障害を「自閉症スペクトル(連続体)」と、まとめて表現することもあります。また、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性症候群)なども同様に中枢神経系の障害であり、関連障害ととらえてもいいでしょう。
  とにかく自閉症をはじめとするこれらの障害は先天的な障害ですから、育て方や家庭環境、心因性のショックなどが原因となって引き起こされるということは絶対にありません。また、「自閉症」という名前から、部屋に引きこもりがちであるなどと誤解されることもあるようですが、自閉症の子供はむしろ動きが活発で落ち着きがない場合(多動)が目立つようです。

 以下に示す特性については、各個人によって現れ方の程度が異なったりします。また、自閉症およびその周辺障害児・者に特性の全てが現れると言うわけではなく、本人の発達の段階(成長の過程)によって、特性が強く現れたり軽減したり、ときには全く見られなくなったりすることもあります。とにかく自閉症児・者と接するときには、一人一人の障害特性の現れ方に違いがあると考えてアプローチをする必要があります。

 言葉の発達が遅れたり、オウム返し(エコラリア:相手が言ったことをそのまま言ってしまうこと)が目立ちます。言語による要求が困難なため、して欲しいことがあるときなどに相手の手をとって対象物のところまで引っ張っていこうとすること(クレーン現象)もあります。また、言葉が出だしたとしても、言葉の意味の理解が不十分な場合が多く、会話が成立しにくかったり、話し方や表現に独特の特徴が表れたりします。

 視線を合わせない、体に触れられたり手をつなぐことを極度に嫌う、話しかけても反応を示さないなど、親を含めた周囲の人々とのコミュニケーションがうまくとれないことがあります。特に本人が幼いときに「愛情のキャッチボール」が成立しにくいために、母親が育児に悩んでしまうケースも出てきがちです。このようにコミュニケーション機能に障害があるために、友情を育む能力や人の気持ちや心情、その場の雰囲気などを理解する能力(対人関係スキル)が育ちにくいようです。

 聴覚、触覚などの感覚に一貫性がなく、ある音(テレビコマーシャルやアニメの効果音など)には敏感に反応するのに言葉かけには反応が少ない、衣服がほんの少し濡れると嫌がって脱ごうとする、新しい服の肌触りを嫌って着ようとしないなど、感覚に鈍感なところや過敏すぎるところが混在する場合があります。また、自らの感覚に障害があるため、自分の言葉や行動が周囲にどのような感覚を与えてしまっているのかを認識することが困難なようです。そのため場合によっては、決して意識的ではないのですが、周囲から見ると違和感や嫌悪感を覚えてしまうような言動をとってしまうこともあります。

 特定の物や行動に対して極度のこだわり(同一性保持)を示し、同じ道順、同じ座席、同じ日課、同じおもちゃや本、ビデオテープの同じ場面、同じ遊びなどに強く固執する場合があります。食べ物に関してもこだわりが出てくる場合があり、ひどい偏食があるように感じとれることがあります。コミュニケーションに障害を有し、さらに感覚にも障害があるわけですから、本人にとっては理解できる世界が非常に限られていることが予想されます。つまり、本人の興味・関心の及ぶ範囲が狭いために同じ物事に対するこだわりが生じ、本人はそれを繰り返すことで安心を得ることができるわけです。このようにこだわりが強いということは、急な環境(場)の変化やスケジュールの変更が苦手なわけですから、そういうときに混乱が生じやすくなります。

 周囲の環境の意味を理解する能力が乏しいため不安や恐怖などへの認識が育ちにくく、ひとりで屋外を出歩いて迷子や行方不明になる、道路で車を怖がらない、高い所に平気で登るなど危険なことをしてしまうこともあります。また、初めての環境や広い場所では、落ち着いてじっとしていることができずに走回る、うろうろと動き回るなど、多動な面が目立つことが多いようです。

 周囲とのコミュニケーションがうまくとれないため、要求が伝わらなかったり、強い嫌悪感やストレスを感じたときなどにパニックに陥ったり、自傷行為(自分の手をかんだり頭をたたいたりすること)や他害行為(物に八つ当たりしたり人をたたいたりすること)などの二次的な問題行動を起こしてしまうことがあります。自閉症児・者がもともとそういう行動を起こす特性を持っているというわけではなく、何らかの原因(要求を伝えたい、注目して欲しい、ストレスからくる不安から逃れたいなど)から誘発されている場合が多いと考えるべきだと思います。

 以上のような自閉症児・者の特性に現れる本人の言動は、本人の意識的な行為ではなく、脳の器質的な障害に起因しているということを十分理解して下さい。そして前述の内容に含まれる問題行動的な部分に関しては、本人に対する日頃からの適切な療育・教育や、周囲からの効果的なサポートがあれば十分防げますし、軽減することができます。

 効果的な療育のあり方は・・・?

 自閉症児・者は、私たちのように言葉の意味や場の雰囲気を理解したり、表情を読み取りながら相手との意思を通わせることがうまくできません。そこで、周囲の人たちがそのことを理解していないと「変な行動をとる子(人)」、「変なことばかり言う子(人)」といった誤解が生じてしまいます。ですから療育にあたる人は、先ず自らが関わっている自閉症児・者ひとりひとりの障害から起因する特性(個性)を理解するとともに、周囲に対して自閉症についての理解の輪を広げていこうとする姿勢が必要です。

 自閉症児・者は言葉によるコミュニケーションが困難だったり不十分だったりする場合が多いのですが、視覚から入ってくる情報に対してはとてもよく理解したり、記憶したりすることに優れている(視覚優位)ようです。そこで、指示やスケジュールを伝えるときに、具体物や写真、絵カード、言葉カードなどの目に見える情報を用いる(視覚化)と効果的です。 ただしこの場合、本人の能力や特性を十分理解したうえで、本人が理解できる方法を用いることに留意すべきです。また、ある程度言葉が理解できる人に対しても、複雑な表現や抽象的な表現は避け、短くて具体的な表現を用いると理解しやすいようです。さらに、できるだけ否定的な言い回しを用いずに、肯定的な言い方をした方がその意味を理解しやすいようです。

 (例) ×「遊んだ後は、おもちゃをきちんと片付けないとダメですよ。」
     ◎『○○くん(さん)、おもちゃを片付けます。』

 自閉症児・者にとっては、言葉と同様に生活空間もできるだけ具体化されていたほうが、その意味がわかり混乱をまねきにくいようです。学校の教室や一部の公共の場においては、同じ場所で勉強や作業をし、更衣もし、食事もするというふうに、自閉症の方にとって理解しにくい構造となっている場合があります。そこで、教室などでは、畳やマットを敷く、床にテープで区画を示す、ついたてやカーテンを設置するなどして、どこで何をするのかを明確にする(物理的構造化を図る)とよいようです。その際、それぞれの場所を複数の目的で利用せず、「この場所ではこれ・・・」と決まっている方が、本人も理解しやすいようです。

 脳の情報処理機能の障害であるため、私たちのようにいくつかの情報を同時に処理していくことが困難なようです。例えば、提示された資料に目を通しながら相手の話を聞きつつ、次に自分がどのように返事をしようか考えるなどといった、私たちが通常なにげなく行なっているようなことが、彼らにはたいへん困難だと思われます。そこで、見る、聞く、考えるといった一つ一つの情報処理を集中して行なえる環境を整えるとよいようです。そのためには療育する側が、常に心にゆとりを持って取り組む必要があります。つまり、何かを見せながら同時に声をかけたり、過度に言葉をかけたりせずに、見せたあとに一呼吸おいて話しかけたり、ひとつ言ったあとに考える時間を与えてから次の言葉をかけるなどの工夫が必要です。

 時間の流れの中に自分自身を位置付けることの苦手な自閉症児・者にとって、生活の見通しが立っていること、つまり、「いつ」「どこで」「何を」「いつまでするのか」さらに、「その次に何をするのか」ということがわかっていると、それだけでとても安定して過ごせます。そこで、本人が理解できるかたちでスケジュールを示してあげるとよいようです。特に本人が、そのときにしたくないことをさせようとするときや、逆にしたいことを我慢させるときは、そのこと(我慢する時間)に終わりがあることをきちんと伝えないと、好まない状態が永遠に続くと思って、大きな混乱やパニックを引き起こしてしまうことがあります。その際、「ちょっと待って」とか「もう少し・・・」という抽象的な表現を用いるよりも、時計を理解できる場合は「〇時〇分まで・・・」とか、数唱して「10までだよ」と伝えたり、音の出るタイマーを利用するなどの具体的な時間の示しかたが理解しやすいようです。

 自閉症児・者は、経験を通じてさまざまなことを学んだり概念を身につけていくことが困難な場合が多いため、場所が異なったり季節が変わったりすると、きちんとできていたことができなくなったりすることがあります。ですから、「これはできていたはずだ」とか「できるのに怠けているのではないか」と決め付けるのではなく、できなくなった原因を予想して改善を図るなど、それぞれの場面で根気強く導いていく必要があります。

 してはいけないことをしてしまったときは、その場で即座に「いけません」ということを伝えないと効果がありません。時間が経過したり場所が変わってしまうと、いくら怒られても、自分のどの部分を注意されているのかを理解できない場合があります。また、肯定的に言い変えられる内容のときは「〜します」と伝えるほうがよいでしょう。(例:「走るな!!」ではなく「歩きます」)さらに、絵をかいて何がいけなかったかを伝える、怒っている表情を見せる、×マークを用いるなど視覚に訴える指導が効果的です。ただし周囲が過剰に反応しすぎると、その反応に期待していけない行動を繰り返してしまうこともあるので、手みじかにわかりやすく伝えることを心がけましょう。

 自閉症児・者は一度身に付いた生活パターンを切り替えることが困難な場合があります。年齢が低い場合は許されることでも、大人になってからするべきでないことは早めに修正しておいた方がいいようです。彼らの療育にあたる人は、その人の将来の生活にまで見通しを持って、彼らと接していく必要があります。

 「混沌とした世界」に生きている自閉症児・者に対して、私たちが最初にしなければいけないことは、自閉症の特性(自閉症の文化)を理解することではないでしょうか。そして、その特性を繰り返し見つめなおすことで、さらに理解を深め続けていくことが大切だと思います。その理解を基盤として彼らに対する適切な療育・教育の環境を整えていくことが、彼らにとって自らの可能性を最大限に伸ばし、私たちと共に同じ社会の中で豊かな人生を送ることができる手助けとなるのではないでしょうか。




*ここからは知的障害児に対し、学校介助員制度の導入を要望する際に添付した部分です。


 学校における介助のあり方は・・・?

 ある程度言葉が理解できる自閉症児でも、学級全体に対する語りかけの内容を正確に把握することはとても苦手です。授業中や朝の会、帰りの会の連絡時に、本人の傍らで個別に具体的な説明(本人が理解できるレベルでの絵カードや言葉カードの提示などがあると、さらによい)があれば、混乱も少なく理解が深まると思われます。

 自閉症児にとって、昼休みなどの「何でも自由にしてよい時間」は「何をしていいか具体的にわからずに混乱をまねく時間」になってしまいがちです。そういう時間帯にどのように過ごせばよいのか(余暇スキル)を指導したり、適切な自立課題を与えることで、比較的落ち着いて過ごせるようです。

 生活のパターンが変化することを理解しづらい自閉症児にとって、学校で行なわれるさまざまな行事やその練習のときなどは、混乱しやすい状況であるといえます。そういうときに個別に対応し、スケジュールの指示やその時々の見通しを立てやすいように情報提供をしてあげると、本人も安定して共に行動できる場面が増えてくると思われます。

 自閉症児はこだわり(同一性保持)があるために、一度身についた生活習慣はなかなか切り替えるのが困難となります。そのため、本人ができることに対して過度な介助が行なわれると「これはしてもらうこと」というパターンができてしまい、本来なら自分でできることでも自分でやろうとしなくなることがあります。そのため、保護者や周辺の療育者と連携をとって、本人の能力、身辺自立の程度を的確に把握しておく必要があります。

 やってはいけないことについては、その場で即座に指導しないとほとんど効果はありません。「あの時、あそこで、あんなことをしたでしょう。あれはいけません。」と言われても、時間と空間における自らの位置付けが困難なせいもあって、自分のどこがいけなくて怒られているのかがわからないようです。指導すべきことが起こったときは、その場ですぐに何がいけなかったのかを伝え、そのときに怒っている表情を見せたり、いけないことを示す合図(×マークなど)を使って視覚に訴えると効果的です。逆に、過度の声かけや言葉で言い聞かせるだけの指導では、本人がいけないことを理解するのは難しいようです。また、しつこく怒ったりすると過度の嫌悪感が生じてパニックを起こしたり、逆に怒られることや周囲の過剰な反応に期待して、面白がっていけないことを繰り返すこともあるようです。

 介助員にふさわしい方は・・・?

 自閉症は、目に見えない理解しづらい部分を多く含んだ障害だけに、その特性や対処の仕方に精通した方が介助することが最も効果的です。自閉症の方に対するボランティア経験のある方や、自閉症に関する知識や療育経験のある方がその介助にあたることが最も理想的です。自閉症児に対する学齢期における指導は、その子が発揮できる能力をいかに伸ばし、本人の就労などを含む将来の生活のあり方そのものを決定付けるうえで重要な意味を持っています。また、この時期の指導が本人にとって適切で効果的なものであれば、その先の二次的障害(パニックや自傷・他害行為などの問題行動)や、自閉症児・者に起こりがちな思春期の混乱の軽減につながるとさえ言われています。