<入院>

シェリー。

ふみ子姉ちゃんが、やっと今日退院したよ。
1年半前に、ずっと夢だったケーキ屋さんをつくって、ちょっと頑張りすぎたんだろうね。
病院でゆっくり休んで、すっかり元気になったみたいだ。

「かれん」ファンのお客さんたちも心配していたけど、もうだいじょうぶ。
またおいしいケーキが食べられるよ。

県病院にふみ子姉ちゃんのお見舞いに行くたびに、君が生まれてすぐに原因不明の高い熱を出して、家にも戻らないまま入院したことを思い出していた。

病室に入ると、君はまだ小さくて細い足に点滴の針を刺されて、不思議そうにパパを見ていた。
かわいそうでたまらなかった。
すぐにでも針を抜いて、家につれて帰りたかった。
ママも泣いていたよ。

君がおなかをすかせて、大きな声で泣く。
看護婦さんからは止められていたけど、パパは内緒で少しだけミルクを飲ませてあげた。
君はすごくおいしそうに飲むんだけど、すぐに悲しそうな目でパパを見ながら、全部もどしてしまう。
パパのスーツが君の吐いたミルクで汚れたけど、そんなことよりも、パパは「どうして?」と言っているような君の目を、ただずっと見つめていた。

おばあちゃんは、「この子はもう死ぬんじゃないか」とさえ思っていたそうだ。
みんなすごく心配してね。
毎晩毎晩、君のベッドの横について寝ていたよ。

毎日仕事帰りに病院に寄ると、睡眠不足と疲労でフラフラだったことを覚えている。
TVドラマで「神様、私の命とひきかえに、この子を助けてください」なんていうのがあったけど、パパは本当にそう思ったよ。

今、大きな声をあげてパパの目の前を走っていく君を見ながら、ふと、あの苦しい日々はいったい何だったのだろう、と思う。
あの体験は、何が本当の幸せなのか、君の父親になったばかりのパパに教えてくれた。

パパは今、とても幸せだ。君が元気に育ってくれているから。
ただ、それだけでいい。

(2000/4/14)

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