<二人の卒業式>
シェリー。
今日は、君が通う小学校の卒業式。
卒業おめでとう。
6年間。
6年間、パパはほとんど毎朝、君の登校を見送ってきた。
最初は遠くから、わからないように。
君が気づいて手を振ってくれてからは、少しずつ近づいて。
6年間の中で、君が手を振ってくれたのは、2回。
一度はパパに、そしてあと一度は、じいちゃんとばあちゃんに。
6年間の中で、パパが君に声をかけたのも、2回。
誕生日に、2回。
そして3回目が、今日の卒業式だ。
6年間に、合計たった5回のコミュニケーション。
しかも、一瞬の。
それでも続く愛情も、こうしてちゃんとある。
いや、世の中には、別れてから一度も会えなくても続く愛情だってある。
生きているのか死んでいるのかわからなくても、信じて待ち続ける親さえいる。
パパは幸せだよ。
少なくとも、君の元気な姿を見ることができる。
君を見守り続けることを、理解して支えてくれる人もいる。
家にお祝いの電報を送ったけど、見ることができたかな。
プレゼントに込めた気持ちは、ちゃんと伝わっただろうか。
一緒に住んでいた頃、何十回も読んであげた絵本、「はじめてのおつかい」。
パパがいちばん好きな絵本、「ラヴ・ユー・フォーエバー」。
来年から中学生になる君にとっては、あまりスマートなプレゼントとはいえないね。
パパは、君の気持ちをいろいろ考えてきた。
しょっちゅう気軽に声をかけたら、いっしょにいる友だちにいろいろ聞かれるんじゃないか。
君が目を合わせようとしないのは、ママに悪いと思っているからなのか。
それとも心のどこかでは、できればパパから声をかけてほしいのか。
今日、「シェリー、卒業おめでとう」と声をかけたとき。
君の表情。
君の言葉。
二人の間に流れた明るいトーンが、過去のすべてを溶かしてくれた。
ママと別れて、パパは貫き通してきたことがある。
ママと君の新しい家族の邪魔を、決してしないこと。
嫌な気持ちにさせないこと。
パパが存在している以上、完全には無理だけどね。
今まで失敗だらけの、ダメなパパだけど、たったひとつだけ誇れることがある。
別れたあとのママとシェリーに対しては、100パーセント誠実にやってきたこと。
君がパパのことをどう思っていようと、誰に何と言われていようと。
誰の悪口も言わなかったし、約束も破らなかった。
この6年間、つらいこと、いやなことがあっても、パパは大丈夫だった。
どんなピンチに立たされたときでも、落ち着いて乗り越えてきた。
どんなひどい仕打ちを受けても、感情的になって乱れることはなかった。
たとえ損をしても、決してずるいことはしなかった。
どうしてだか、わかる?
その瞬間、パパは、パパを見ている君の姿を心に浮かべたから。
君にとって、恥ずかしい父親になるわけにはいかなかった。
昔みたいに、「パパ、カッコイイ!」と言われるために。
どちらを選ぶべきか。
どう判断すべきか。
君の「目」が、パパのすべての基準だった。
君とパパの、二人だけの卒業式。
ほんの一瞬の、卒業式。
本当に楽しかった、うれしかったよ。
ありがとう。
そして、もうひとつ。
パパは今日、過去のすべてを「ゆるす」。
自分が、そしてみんなが自由になるためにね。
まだちょっと難しいかな。
今夜は、パパも「卒業式」をしてもらったよ。
いっしょの卒業式だね。
Congratulations on OUR graduation !(二人の卒業おめでとう!)
パパが英語の先生だったこと、覚えてる?
卒業式のことを、英語でcommencement(コメンスメント)。
でもこれって辞書を引くと、「始まり」って書いてあるよ。
これからもずっと、パパは君を見守り続ける。
だってパパは、君の父親だから。
離れていても、ママに負けないくらい、愛しているよ。
(2007/3/23)