<君に声をかけた>

シェリー。

「誕生日おめでとう」
「誕生部おめでとう」
「誕生日おめでとう」

そう何度も口ずさみながら、朝、いつもより少し早く家を出た。
今日は、君が生まれてから11回目の、とてもうれしい記念日だ。
いつもの図書券だけど、プレゼントをママとお父さんあてに届けて、学校へ行く君を見送ろう。

行く途中、中学生の男の子が、自転車に荷張りを巻き込んで困っていた。
助けてあげていたら、この大切な日に君の姿を見られなくなるかもしれない。
ちょっと迷ったけど、「シェリー、もしかしたらごめん」と心の中でつぶやきながら、パパは車を停めた。

急いでいつもの場所に行ったら、今度は、飲みかけのペットボトルが2本捨ててある。
なんとなく試されているような気がして、パパはそれを拾ってごみ箱に入れた。
さっきの少年が、直った自転車で通り過ぎながら、ペコリと頭を下げてくれた。

君が歩いてきた。
最近は毎日そうだけど、今日もパパのほうを見ないでうつむいている。
パパが見ているのが困るのかな…そんなふうに、ずっと迷ってきた。

シェリー、パパは君やママたちに迷惑をかけたくないから、今まで一度も声をかけなかった。
「あれ、誰?」
いっしょに歩いている友だちからそう聞かれたら、君が困るだろうから。

でも今日は、君の誕生日。
そしてたまたま、君はみんなのいちばん後ろを歩いている。
後姿の君に、何度も練習した言葉をつぶやいてみた。

「誕生日おめでとう」

パパのほうをふり返った、君の笑顔。
あのうれしそうな笑顔。
今日の君の笑顔を、パパは一生忘れないよ。

(2005/6/15)

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