<車を替えたよ>

シェリー。

形あるものはいつか壊れ、存在していたものはいつか失われる。
パパとママが愛用していたペアの珈琲カップが、パパの本の表紙の絵に
描いてもらったとたん、どこかえ消えてしまったように。

シェリー、パパは君たちとの思い出の車を手放すことにしたよ。

ママがトゥデイという黄色のかわいい車に乗っていたこと、君はもう覚えていないだろうなあ。
ママがテレビのコマーシャルを見てとても欲しがっていたから、パパが貯金をはたいて買ってあげた懐かしい車だ。
パパが今でも乗っている車は、その頃ママと二人で選んだものだ。

新しいお父さんを好きになったママは、新しいピンクの車を買った。
パパもずっと前から、気持ちを入れかえるためにも車を替えてしまおうと思っていた。
でも、久しぶりに会った君を車に乗せたとき(もう1年以上も前の話だけど)、「あっ、パパの車のにおいだ!」と言ったから、今までなかなか手放せずにいたんだ。

あの車には、パパとママとシェリーの人形、ママと初めてデートしたときに海辺の喫茶店で買った石の飾り、ママと君のポラロイドの写真を乗せていた。
会うたびに、まだあるかどうか君が確かめていたからね。

今度の車には、それはもう乗せない。
シェリーの写真だけだ。

今まで乗っていた車は、パパを応援してくれる人にプレゼントしたよ。
その人も両親が離婚して、父親に会えなくなった娘だ。
パパがシェリーのことを深く愛していること、どれだけ君に会おうとして頑張ってきたか、すべて知っている。

いつかその人に、パパの話を聞くといいよ。
その人を応援する意味でも、パパは大切な思い出の車を譲ることにしたんだ。

パパの新しい車のことを書いておくね。
紺色で、いちばん前に丸いマークが立っている。
外国の車だから、ハンドルが左側についているんだよ。

そしてシェリー、ナンバーは君の誕生日になっている。
どこで見かけても、君がすぐパパだとわかるようにね。

(2002/5)

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