<家がなくなるよ>

シェリー。

すっかり秋らしくなってきたけど、元気にしてるか?
ママはもう、君の弟か妹を産んでくれたのかな。
パパは、ママと新しいお父さんからの連絡を待ち続けている。

シェリー、君が生まれて何度も遊びに連れていった、じいちゃんとばあちゃんの家がなくなってしまうよ。
もうずいぶん古くなったから、同じ場所に新しくて大きな家を建てることになったんだ。
パパもいっしょにしばらく別の場所に住んで、新しい家ができるのを待つことになった。
明日が引っ越しだ。

パパが小学生の頃から住んでいた家だから、たくさんの思い出がつまっている。
短い間だったけど、君との思い出も負けないくらいある。
たった月に1回だったけど、シェリーが遊びに来るからといって、じいちゃんとばあちゃんは君の部屋をつくってくれたね。
机を置いてお勉強したり、お絵書きをしていたのを覚えているかな。

離れにあるパパの小さな家は、あと何年かは残してもらうことにした。
いっしょにたくさん遊んだ場所だから、君のおもちゃと本、ビデオ、写真なんかは全部そっちに残しておくよ。
いつか大人になったとき、自分が子どもだった頃を懐かしく思い出せるようにね。

今までに何回も引っ越しをしたけど、カラッポになった部屋を見ると、いつも少し寂しくなる。
パパは、古くなったバイクや車を人に売るときも、同じように感じるよ。
今まで自分といっしょにいた人や、自分がいた場所、使っていた物とお別れするのは名残惜しいものだからね。

もちろんいつも前を向いて生きていくのがいいんだけど、シェリーもそんな感性を持った女性でいてほしい。
平気で過去を切り捨てて、他人の不幸の上に自分の幸せを築くような人にはなってはだめだ。
お人好しのほうが、冷たい人間よりまだマシだよ。
君の体に半分流れている、パパの血を信じている。

引っ越しの準備をしながら、じいちゃんが「シェリーちゃん…」とつぶやくのを聞いた。
君の名前を口にするのは、じいちゃんの癖なんだ。
君がいなくなって、ずっと寂しいんだろう。
パパはじいちゃんが「シェリーちゃん…」とつぶやくたびに、胸がチクリと痛む。

シェリー。
自分のことを愛してくれる人の存在を忘れてはいけないよ。

今は無理だろうけど、じいちゃんとばあちゃんの誕生日や敬老の日には、いつか電話をかけてあげてね。
そして将来、自分の子どもを同じように愛している人を気づかうことのできる、やさしい大人の女性になることを願ってるよ。

じゃあ今から、引っ越しの準備をするよ。
朝と夜は冷えてきたから、風邪をひかないようにね。

(2001/9/21)

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