<二度と戻れない>
シェリー。
今日の宮崎は台風だ。
シェリーも家の中で過ごしていたのかな。
パパは、すごく久しぶりに君のビデオを見たよ。
1994年、君が生まれた年のクリスマスイブに撮ったビデオだ。
懐かしい部屋、カーテンやテーブルクロス、そして音楽。
パパとママとシェリーの3人でコタツを囲んで、キャンドルに火をともしてシャンメリーで乾杯。
あの頃は飽きもせずに、毎日のように君にビデオカメラを向けていた。
シェリーが生まれて初めてハイハイをしたのは、1994年12月29日だったよ。
「がんばれ、がんばれ」
「やったー! すごいすごい」
パパもママも大騒ぎ。
ときどき画面に映るパパとママはもう、かわいらしい君に夢中という感じだ。
その幸せそうな家族の光景を見て、パパは思わず口元がゆるんでしまったよ。
そして、笑顔のまま自然に涙がこぼれ落ちていた。
どうしてパパは、こんなにあたたかい家庭を手放してしまったんだろう。
画面の中の君とママが、「パパー」と言いながら、こちらに向かって微笑みかけてくる。
本当に久しぶりに、ママの幸せそうな笑顔を見たよ。
でもそれは、あのときのパパのビデオカメラに向かってのまなざしだ。
もうずいぶん長いこと、シェリーとも目を合わせていないなあ。
場面は変わって、君とママが気持ちよさそうに眠っている。
それを、飽きもせずにずっと撮っている。
カメラを通して君たちを見つめる、あのときのパパの目だ。
ママと君が去っていくなんて夢にも思わずに、パパはただ、大好きな二人の寝顔をずっとながめていた。
(2001/8/20)