<久しぶりだね>
シェリー。
元気?
君に手紙を書くのは、ずいぶん久しぶりだね。
半年の間、パパは君にずっと会うことができなかった。
でも、一日たりとも君のことを思い出さない日はなかったよ。
一人でいるときに、君の名前をそっとつぶやかない日はなかった。
去年の暮れに君と会ったとき、そして今年の最初になんとか会えたときに、ママと新しいお父さんの前で、君は「もうパパには会いたくない…」と言ったね。
暗く曇った表情の君が、かわいそうでたまらなかった。
君はとうとう最後まで、パパと目を合わせようとはしなかったね。
心配しなくても、パパはぜんぜん大丈夫だったよ。
どうしてそんなことになったのか、パパには全部わかっていたからね。
新しいお父さんから、ママが妊娠していることを知らされた。
パパは素直な気持ちで「おめでとうございます」と言った。
ママと新しいお父さんの幸せは、君の幸せにつながるわけだからね。
2ヵ月前の君の誕生日、パパは初めて、君が小学校に通うところを見ることができたんだよ。
入学式も出席できなかったけど、父親なんだから、娘のランドセル姿くらい見せてもらってもいいだろう?
ブラックの缶コーヒーを何本も飲みながら、小学生たちが登校する路上で君を待った。
ただ娘に会うだけのために、なんで実の父親がこんなことをしなければならないんだろう…と情けなく思いながら。
ずいぶん久しぶりだったけど、パパには一目で君がわかったよ。
君の元気な様子を見て、ただ一言「シェリー、誕生日おめでとう!」と言いたかっただけなんだ。
かわいいヘアピンとカードを渡したこと、覚えているかな。
君は最初びっくりした様子だったけど、すぐにその表情が照れ笑いに変わったね。
ほんの10秒くらいの再会だったけど、ただ声をかけて目と目が合っただけだけど、パパの人生の中ではとても大切な瞬間だった。
それからパパは今日までに、君との思い出がつまっている場所にすべて行ってきたよ。
これから寂しさに負けないように、しっかりと現実を見つめるためにね。
そして今日まで、いろいろな人の話を聞きながら、たくさんの本を読んで、時間をいっぱい使って考え抜いてきた。
そしたらパパはもうこれ以上、ママと離婚したことで自分を責める必要はないことがわかった。
ママと新しいお父さんのことで、これ以上苦しむことはないということに気がついた。
パパも人間だからいろいろな感情は残っているけれど、それで自分自身を傷つけて残された時間を無駄にするのはつまらない。
パパはママにとって、理想的な夫ではなかったかもしれない。
でもパパは自分なりに、ママのことを愛しつくした。
あの頃のパパには、あれが精一杯だったんだ。
今はもう、ママの幸せを祈るしかない。
誰でもそうだけど、パパも今までたくさんの失敗をくり返してきた。
知らないうちに人を傷つけてきたし、二度と思い出したくないような出来事もある。
でもだからといって、自分が「父親失格」だとは思っていない。
正直に言うと弱気になってそう思ったこともあったけど、今は違う。
今は君に会えないけれど、それはパパが望んでしていることではない。
父親として何もさせてもらえないだけで、パパは絶対に父親失格なんかじゃない。
ママに届けた図書券で、たくさんいい本を読みなさい。
また手紙を書くよ。
バイバイ。
(2001/8/12)