リウマチ専門医(日本リウマチ学会)
リウマチ登録医(日本リウマチ財団)
内科認定医(日本内科学会)
医学博士
ポリアニオン依存性抗ヒストン抗体の発見

島根県出身 宮崎医科大学第2内科OB
大阪大学工学部卒業 元市民の森病院リウマチセンター所長
宮崎医科大学_卒業


<<少し専門的な話>>
全身性エリテマトーデス物語
Detectation of polyanion-restricted anti-histone antibodies in patients with systemic lupus erythematosus. Internal Medicine 36: 781-786, 1997

 全身性エリテマトーデス(以下SLE)の主な原因を発見した。ブレイクスルーは細胞でも分子でもなく水素結合イオン結合レベルの発想と対応抗原が水に溶けない複合体であることである。
 大学で膠原病の研究をした。テーマはSLEのLE細胞現象を選んだ。この現象は抗核抗体の原点となる現象であるが、手技が煩雑で原因がはっきりしないため最近では分類基準から外されている。LE細胞は壊れやすい細胞のため流血中には見付けることができないが、患者の胸水を静置しておくと沸くように出現してくる。また実験で自分の白血球と患者の血清を使って白血球が自分の核を丸飲みする共食い現象を観察したりした。確かにはっきりと自己抗体がある。
 この自己抗体の対応抗原はDNAヒストン複合体と言われている。どちらの成分かと言われればヒストン蛋白を選択した。抗ヒストン抗体の研究は最初うまくいかなかった。熟慮してDNAを他の物質で代用できることを発見した。発見したときはこんなところに自己抗体の抗原が隠れているのかと感激した。結果的にポリアニオン依存性抗ヒストン抗体として発表した。論文では代用できる物質は生体内にも数多くあるが、原理が分かりやすいようにまずは生体内にない物質で代用した。またポリアニオンのアニオンはDNAでリン酸基だが硫酸基やカルボキシル基でも代用できることを示した。これらは全てヒストンと不溶性の複合体を形成する。初めはポリアニオンとしてデキストラン硫酸を使ったがこれがヒットした。
 さらに論文ではこの自己抗体は可溶性のDNAの影響を受けず、不溶性のDNAヒストン複合体に全て吸収された。ポリアニオン依存性抗ヒストン抗体とフリーのヒストン対する自己抗体を併せればLE細胞現象陽性の狭義のSLEは抗ヒストン抗体症候群といってもいいかもしれない。
 抗原は可溶性の単体だけと固定観念をもっている人には理解が難しいかもしれない。この場合は不溶性の複合体が対応抗原になる。論文を発表して随分と時間が経つが同じ考えも持つ人や理解する人はいなかった。今後、現れるかわからない。自己免疫に興味深い発見をした。SLEの主な原因と成立機序を報告する。


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LE細胞現象
 大学で研究をしていた頃、全身性エリテマトーデスの教科書(Lahita)で「LE cell」を検索したところ、犬のSLEの中でしかその言葉は見いだされなかった。上司に話したところ、「お前は重要でないことを研究しているんだ。」と言われたことがあります。抗核抗体発見の端緒となる現象ですが、忘れ去られる所見の一つとなった感があります。

 この現象は細胞が細胞の核を共喰いする自己免疫の特異な現象です。しかも、正常な白血球の細胞が細胞の皮を剥いて味付けされたおいしいところだけを丸飲みするという代物です。こんな現象は認めないという免疫学者もいて困惑したことがありました。

傷ついた細胞と抗体・補体
核成分と細胞質
貪食細胞(正常な白血球)
 傷ついた細胞の露出した核の一部に抗体が結合し、細胞が破壊、核全体にこの抗体と更に補体が結合しヘマトキシリン体を形成、細胞質は分離され、オプソニン化された核成分だけを貪食細胞(白血球)が細胞内に取り込む。貪食細胞の核は押しやられ、内部には均質な物質を含むLE細胞が形成される。このLE細胞は非常に壊れやすく流血中に見いだされることはないが、しかし患者の胸水を抜いて静置しておくとしばらくしてLE細胞が出現する。面白い現象です。
 現代でもまだよく解明されていないため、「取れない葡萄は酸っぱい」と考えるのか重要視されなくなりました。本当は重要な自己抗体のはずです。主な自己抗体はボリアニオン依存性抗ヒストン抗体なのですが、理解するヒトがいないのが現状です。
 この自己抗体の対応抗原はDNA(ポリアニオン)に結合したコアヒストンのH2B、H2AとリンカーヒストンのH1でした。

LE細胞形成



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