こだまちゃんと近所のお兄ちゃん NO5(終わり)  トップページ

 

 こだまちゃんは夏が好きです。 顔のまわりの産毛を汗でぬらしながら、路地を行ったり来たり。

ピンクの虫取り編みと虫かかごをさげてやってくるのです。

 盆トンボが群れて低く飛んでいる夕方のことででした。紙おむつとガーゼの肌着を着た赤ちゃんに会いました。おばあちゃんに抱かれたあの赤ちゃんです。「おばちゃ〜ん」そういって駆けつけて、「可愛い赤ちゃ〜ん わ〜い」「うん 可愛いね〜」「こだまちゃんもだっこする〜」そう言って両手の荷物をおきました。「あのねー 赤ちゃんが大きくならないと 子供はだっこ出来ないのよ」「え〜 でもね こだまちゃんはね タロもだっこ出来るんだよ」そう言って両手をさしだし聞きません。

「おーこだまちゃん 虫は捕れたかい」そう言いながらお向かいさんがやってきました。「ぜ〜んぜん」

頭を降りながら虫かごをみせました。「おーそうかい じゃあ一緒に捕まえてあげようか」「でもね 赤ちゃんをだっこするー」「おー赤ちゃんかい 可愛いね〜」お向かいさんまでが、だっこしたそうに赤ちゃんをのぞき込んでいました。おばあちゃんは腕の中の赤ちゃんをみつめ、ただただ「こににこ」していました。

 そして、秋の涼しい風が吹き始めたころから、朝と夕方に赤ちゃんを負ぶったお嫁さんの姿を見かける様になりました。

自転車の前のかごに大きな荷物が入っています。

お兄ちゃんの家には立派な車とステキな車と自転車が1台並んでいました。
朝と夕方に、もう1だいの自転車がやってきて、大きな荷物と背中の赤ちゃんをおいて、またどこかへ出かけていきました。


お嫁さんはエプロン姿でどこかにお勤めをしているようです。日曜日になると、ステキな車でお兄ちゃんと赤ちゃんとお嫁さんがやってきます。

おばあちゃんはお勤めの代わりに赤ちゃんとお家にいる様になり、近くの公園やこの路地を赤ちゃんをだっこして歩きます。

以前の様に深くかぶった帽子はありません。
下ばかりを向いて、通り過ぎることもありません。
ほそい両腕に赤ちゃんをだっこして「にこにこ」しながら、たまにはご近所さん方の立ち話に加わりました。薄化粧をしてほほえんでいるおばあちゃんは「ハッ」とするほどで美しい人だったのです。


この路地にも寒い冬が来て、こだまちゃんは5才になり、お正月がやってきました。そうして、お向かいさんの花壇にパンジーやキンギョソウが咲き始めました。もう日差しが暖かく日だまりが出来てお兄ちゃんの赤ちゃんもおばあちゃんとの散歩が嬉しそうです。もうじき、こだまちゃんの様にこの路地を行ったり来たりする日が来るでしょう。

お嫁さんは、いつもの様に赤ちゃんを連れてやってきました。赤ちゃんは随分大きくなりました。自転車の後ろは赤ちゃん専用になり、前のかごには大きな荷物。

暖かい日曜日のことです。自転車が並んでやって来ました。

お兄ちゃんは後ろに赤ちゃんを乗せて、お嫁さんは前に大きな荷物を載せて、ママチャリ2台でやって来ました。お兄ちゃんのステキな車は、いつの間にかママチャリに変わっていたのです。

今日もこだまちゃんはママと手をつないでお買い物です。赤ちゃんを連れたお兄ちゃんと会いました。

ゆっくりと自転車を漕ぎながら「よっ」右手を挙げてこだまちゃんとママに挨拶を送ってくれたのです。

春もすっかりたけなわ、爽やかで暖かい風が吹き抜ける路地の出来事でした。

 

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