こだまちゃんと近所のおにいちゃん1  トップページ 前へ

 

こだまちゃんが行き来する路地には、昔からお住まいで親子代々の方が多いです。

 この路地から巣立って行った若者達は数多く、時々家族連れで帰省している姿を見かけます。住民に年長さんが多い中、良いものです。賑やかな笑い声が聞こえて来ると、なぜか気持がほぐれます。

 ところで、この路地に小さな兄弟を連れた家族が越してきました。もう20年程まえのことですが。

兄弟は成長し、高校生のお兄ちゃんになりました。車が1台自転車が3台お家の前に並ぶようになりました。制服を着たお兄ちゃん達の後を追う様に、お母さんはお勤めに出かけて行き、そういった姿も何年か後には、お家の前に車が3台、自転車が1台並ぶ様になりました。

 ところが困ったことに、深夜になると静寂を破る車の音がして、眠りについている人達が思わず路地に出てくることがあり、夜中に苦情の声がしました。2人のお兄ちゃんは大の車好き、2台は素晴らしくステキな車です。この頃からですが、この家族とご近所さんとの間に亀裂が入り、お母さんは朝早く、人目を避けるようにお勤めに出かけて行きました。

こだまちゃんがやってきたのはこの頃です。どこまでも響く車の騒音に、こだまちゃんの家族も困っていました。

こだまちゃんがトコトコ歩きをすようになっても、お兄ちゃん達は車に熱心で、お手入れだって大変なものでした。

そんなお兄ちゃん達に、こだまちゃんはトコトコ近づき、磨かれたステキな車を触ろうとしました。お手伝いでもするかのように。さて、可愛い飛び入りにお兄ちゃん達はお手上げです。いつも困った顔で、こだまちゃんのお母さんに助けを求める視線を送っていました。ご近所さんがどんなに抗議をしようと譲らなかったお兄ちゃん達も、こだまちゃんのおじゃま虫には、ほとほと困っていました。こだまちゃんが散歩する時間になると、さっさと車に乗って出かけていきました。

 こだまちゃんには、そんなお兄ちゃんの気持ちなど解るはずもありません。一生懸命磨きをかけているのが、楽しそうに見えて、仲間にに入りたいだけなのです。

 そんなこだまちゃんとお兄ちゃんの様子は、緊張したご近所さん達にも、何か「一服の麦茶」?「北風と太陽」?「滑稽な川柳」?、そんな効果をもたらしたようで、ご近所同士、普通のお付き合いが帰ってきました。

「君たちはね〜こんな小さい子供も居るんだから、夜中は静かにしてよね〜*」お兄ちゃん達はきまり悪そうに、目を伏せたまま、その場を立ち去っていきます。騒音は相変わらず続きましたが、お互いの表情に緊張感は薄れました。

2 へ続く